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46 伝道者

あの日、海岸で聞いたあの声...[休ませてあげます]が、聖書に書かれてあることを知らされて、私の心は掻き乱されたのです。


私は聖書の神からの声を聞いてしまったのかもしれない...

信じたくありませんでした。


大好きだった日本の唱歌が、私が憎んだ日本人のクリスチャンによって作曲されたことを知らされその上、聖書の神の声を聞いたかもしれないと思うと、自分の人生を呪いたくなリました。


その場に落ちていたビラを、怒りを込めて足で踏みつけて、その場を去ろうとした時でした。


ビラを配っていたその人は、私に向かって丁寧に一礼したのです。


まるで私の怒りのわけを理解しているかのような、慰めの表情だったように見えました。


そして、私の目をしっかり見て、泣き出しそうな声で、訴えるようにこう言ったのです。


しかし、わたしが与える水を飲む人は、いつまでも決して渇くことがありません。わたしが与える水は、その人の内で泉となり、永遠のいのちへの水が湧き出ます。


私は耳が聞こえないので、彼の口元に全神経を集中して聞き取ろうとしたので、普段よりはっきり読み取れました。


彼が私に話しかけたのではなく、聖書に書かれてあるイエスキリストの言葉を言ったことが分かりました。


私はもちろんキリストの言葉など知らないのですが、その時は内容からそのように理解したのです。


それを聞いた時は何のことかわからなかったのですが、それを聞いた後、怒りが鎮まったのをはっきり覚えています。


永遠のいのちという言葉が色と光をまとって私の中に留まっていました。


その時でした。


あの休ませてあげますという声を聞く直前に、山の清流のような真水の匂いがしたことを思い出したのです。


その時まで、あの海岸で真水の匂いを嗅いだことはまったく忘れていました。


潮の香りではなく、確かに山の清流の水の匂いがしたので、不思議に思っていたのでよく覚えています。


その後、彼は胸に拳を当てて、目を瞑り祈りを捧げていたのです。


彼の頬に涙が流れていました。


両足がなく、座ったままで、片手の拳を握って胸に押し当てるようにして、無言で祈っていたのです。


日本人のクリスチャンを見て怒りが込み上げてこなかったのは、この時が初めてでした。


私は彼の近くまで言って、聞きました。


「あなたはなぜ泣いているのですか?」


私の声を聞いて、ろうあ者だということが分かったようでした。


口をはっきり開けてゆっくりこう言いました。


「私もあなたと同じようにアメリカの神を心の底から憎んでいたからです」


と言ったのです。


私はびっくりして


「何故、そう思うのですか?


何故、私がアメリカの神を憎んでいると思うのですか?」

と聞くと、


「鏡です。

鏡を見ているような気がするのです」

と言ったのです。


私や彼の子供時代はとても厳しい時代でした。

健常者でも生きるのが大変な時代です。


障害を抱える者はなおさらです。

社会から露骨に邪魔者扱いされていました。


彼が私を見て鏡を見ているようだと言った時、私も同じように彼を見てそう感じたのです。


お互いの中にある同じ匂いを嗅ぎ取っていたのです。


違うのは、私は怒りの人間のままで、彼は慰めの人になっていたことです。


私は妹の八重子以外の人間を大切に思ったことがない人生を生きてきました。


しかし、彼は初対面の私を見て、涙を流し、祈りを捧げてくれたのです。


私は怒りのために人生を棒に振って生きてきたことを、その時はっきり自覚させられました。


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