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30 父

軽い食事のあと、実家に向かう用意を済ませ、玄関で久しぶりの気に入っていたパンプスを履く。


びっくりするほどブカブカになっていた。


食事が思うように取れなくなってから、もうこんなに痩せていたんだ。


怖くて体重を測れない。


手首を握るとやはりかなり細くなっている。

パンプスをもう一度脱いで、キッチンに行って

バナナを半分だけ無理して食べる。


私の痩せてゆく姿を母に見せたくなかった。


バナナを少し食べたくらいで変わるはずもない。

無駄な抵抗だ。

分かってる。


でも、母にはこれ以上心配かけたくない気持ちがそうさせていた。


重い気持ちでドアの鍵をかける。



家の前まで来て2階に目をやる。

母の部屋は真っ暗だ。


トイレが一階にしかないので、下で寝ているんだろう。


夕方5:30

チャイムを鳴らさず、ゆっくりドアを開く。


懐かしい空間だ。

悲しくなるくらい静かだった。


「お父さん...」


返事がない...


靴を脱いで、音を立てずにそーっと奥の部屋に行くと、母が布団の中で横向きに寝ていた。


こめかみから目にかけて濡れているようなタオルを載せている。


眠っているようだ。


頭の周りには洗面器、ストロー付きのカップ、それに食べかけのゼリー...


あまり食べれていないんだ。

顔色はかなり悪い。


父は買い物にでも出かけたのだろうか?


その時、母が私の気配を感じたみたいだった。


右手でゆっくりタオルを取って私を見た。


「ああ...」

と声を漏らした。


「ちょっと疲れただけだから心配ないよ....」

と元気のないかすれた声...


そう言ってまたすぐタオルを目に当てた。


「ごめんね...目を開けると少し気分が悪くなってしまうから...」


「今、お薬飲んだところで頭がぼーっとしてるからちゃんと起きた時......」


と言いながら黙り込んでしまった。


何か言うのかと思っていたら、そのまま眠ってしまった。


私が思っていたより、かなり悪そうだ。

話の途中で眠ってしまうなんて...


玄関から物音が聞こえてくる。

父が帰ってきた。


玄関の私の靴を見てるはずだが、私を見るなり、

「あっ!もう来てたのか?」

と言う。


憎らしいほど血色がいい。


コンビニ袋を持っていた。

中にはお弁当が3つ入っているのが見える。


父はまだ私の摂食障害のことは知らないかもしれないが、適応障害のことは父なりに調べているはずだ。


「仕事辞めてしまって、今何してるんだ」


ぶっきらぼうに聞いてくる。


でも私には分かる。


父は心配なんかしていないふりをしているんだ。


心配そうな顔をしていると、私がしんどくなることを理解している。


話す時の表情でわかる。

痩せたことにも触れてこない。


父の態度を見ていて、私が恐れていた言葉...

ここで一緒に住みなさいは言わないと思えた。


私から言えば話は別だが、父からは言わないだろう。


押し付けはメンタルの問題を抱える者にとって、心に負担をかけると言うことを理解してくれているようだ。


調べてくれているんだ。

父は知らない間に少し優しくなっていた。

そんな気がした。


「弁当買ってきたから、一緒に食べよう」

と言って私を見る。


困惑した。


私の顔を不思議な顔で見つめたが、

「じゃ、父さん先食べるな」

と言う。


何かを感じたらしいが、食事のことにはそれ以上触れてこない。


摂食障害のことも理解してるんだ。

そう感じた。


私はどれだけ両親に心配かけているんだろう。


今日は泊まっていくんだろ?とも聞かない。


「お母さん、ちょっと疲れただけだから、心配ないから」


と言って、奥の部屋にいって、またすぐ戻ってきた。


手には封筒を持っている。


「これ...」

と言って私の目の前に差し出す。


お金だった。


私から先にお金の話をさせないでくれた。


「何も言わなくていい。できることはなんでもしてやる。なんでもだ」


私は父の優しさに涙が溢れて止まらなかった...


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