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29 メニエール

ゆっくり立ち上がって、駅に向かう。


この海岸に来たのは何度目だろう?

来るたびにここが好きになっていく。


夕陽の海は本当に心を和ませてくれる。

何故、自然はこんなに美しい色彩を放てるのだろう。


駅に向かって、砂浜を歩くと後ろから照らしてくれる夕陽が私の心を充電してくれていた事が分かる。

足が少し軽い。


部屋に入ってカーテンと窓を少し開け、外気を入れる。


母に電話しないと...

受話器を持ってダイヤルする。


「もしもし....」


母ではなく、父がでた。


「あっ!お父さん...」


「ああ...大丈夫か?...たまには顔を見せに来いよ」


「....うん...明日そっちに行こうと思ってる...」


父が電話に出るとは思っていなかったので、あわててしまった。


「お母さんなあ、ちょっと体調崩して横になっているんだ。めまいがひどくて...」


「えっ!...」


私のせいだ...私のせいに違いない。

心配症の母のことだ。間違いない。


「お母さん、ひどいの?」


「病院に行って、薬を飲んでいるけど、めまいは続いている。

メニエールとかいう病気の症状らしい」


「そう...とにかく明日そちらに行きます」


受話器をそっと置いたが、受話器から手が離れない。


母には心配かけないようによく考えて言葉を選ぶべきだった。


母が心配するのはわかっていたはずなのに...


メニエール...聞いたことがない...

父の口調であまりよくないことが伝わっていた。


呼吸が荒くなっている。

あの嫌な恐れが迫ってきた。

地面に体がめり込んでいくあの感じだ。

心が危険地帯に踏み込んでいる。


急いで白湯といっしょに処方された薬を飲んだ。


ベッドに入って呼吸を整える。

私は何もできない。

母の力になれないことが悔しい。


私にはもう打つ手がない。

泣きながら睡魔に身を任せた。



朝早くに目が覚める。

泣いていたせいで目がしばしばする。


母の様子が気になっているが、電話する勇気が出ない。


メニエールがどんな病気かスマホがないので、調べる術がない。


そうだ、あの看護師さんなら知っているはずだ。

昼前に電話で聞くだけ聞いてみたい。


お昼になって電話をかけようとして、受話器を取ろうとすると

電話が鳴った。

びっくり!


看護師さんの方から電話だった。


「もしもし、今大丈夫?」


「私も電話しようかと思っていたところだったんです」


「どうしたの?何かあった?」


「ちょっと聞いてみたい事があって...」


「そう...どうぞなんでも聞いていいよ」


「あの...メニエールってどんな病気ですか?」


「メニエールとは内耳のリンパが増えて水膨れの状態になってめまいや耳鳴りが起こる病気です。

ストレスや疲労が原因で起こる事が多い病気よ」


やっぱり思った通りだ。

ストレスが原因なんだ。

私のせいだ。


「なんで?」


「私の母がめまいで寝込んでいて、メニエールと言われたんです」


「そうだったの...あなた...

自分が心配かけているからだと思っているんでしょ ...そうでしょ...」


「えっ」

なんで分かるんだ...


「あなた...いろんなことを気にする心の癖がついているように思うよ」


図星だった。

全部見透かされている。


「あのね..今日電話したのはちょっとした案内なの。

話していい?」


「はい、もちろんです。聞きたいです。何ですか?」


「私の病院で、メンタルの問題を抱える人たちの会があるの、私が言い出しっぺで始まったんだけど...


私が一応代表でやってるの。


もしかしてそういうメンタルの問題で悩んでいるならどう?

一度来てみない?


地域住民のためのものだから無料です。


何も話さなくていい場所で、

話したい人だけ話す。

聞きたい人は聞くだけでいいの。


誰も誰かに質問しないという面白いルールがある。


それに始まる時間は決まっているけど、帰りたい時は何も言わずに帰るというルール。


じゃまたねと言わないのもルール。


誰もが何も縛られないというのがこの会の基本ルールなの。


全部私が考えたルールよ。

試行錯誤でやってるの。


私は時間外労働でボランティアの無報酬。

ただ病院の一室を借りてやらせてもらっているだけ。


無理に進めるつもりはないから、気が向いたら電話下さい。


お母さん良くなるといいね。

自分を責める癖を治そうね。

それじゃまたね!」


それで電話は切れた。


私はひとりじゃないことを感じて、素直に嬉しかった。


世の中には自分の利益と関係なくても人のために動く人がいるんだ。

あの看護師さんに尊敬の念が生まれていた。


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