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25 黙祷

部屋に帰って心が安定している時に、老人のノートを読ませてもらおうと思う。


私のペースでノートの中の老人と会話するようにじっくり味わいながら読んでいきたい。


ノートには、私が聞いたあの休ませてあげますという言葉に関係のあることを伝えてくれていると思う。


老人は言っていた。


「あなたが聞いた休ませてあげますという言葉については、私の命が尽きる前にどうしてもお伝えしたいと思っています」


老人はご自分で言った通りのことをやり遂げてくれた。


ここにこうして私の手の中に届いている。


このノートはあの方の最期の言葉が綴られているんだ。


友人や家族ではなく、この私に最後の声を聞かせてくれるんだ。


しっかり気持ちを整えて、落ち着いた時間にじっくり読んでみたい。


ノートに手を置いて黙祷してみた。

すぐにでも読みたい気持ちだ。

でも、心が凪のように静まった時を待ってみたい。


老人に私なりの最善の礼をつくしたいのだ。


翌日、朝11:00になってあの看護師さんに昨日のお礼の電話をしようと考える。


10:00頃だとミーティングがあるかもしれない。

お昼前に電話してみた。


「昨日は本当にありがとうございました」


「電話くれてありがとう。

少し心配していましたが、大丈夫そうですね。

安心しました。

ノート読んでみた?」


「いえ、まだです。

私には心の準備が必要なんです。


あの方の最後の言葉なので、すべて吸収するつもりでゆっくり読みたいんです」


「そうですよね。

最後の力を振り絞って書かれたものですからね。


あの方は満足して天国に行かれたと私は思っています。

最後はとても安らかなお顔でしたよ。


いつでも電話してね。

なんでも聞くから」


「ありがとうございます」


あの看護師さんがいてくれて本当に感謝している。


私ひとりではあの方の死を受け入れることはできなかった。


いろんなことを考えてしまい、混乱していたに違いない。


今ご遺体は何処にあるのか?

どのように取り扱われる事になっているのか?

お墓はどうなるのか?


これらすべて私にはどうすることもできない事だ。

安らかな顔をして天国に行かれたのだ。それだけで十分だ。


老人のノートをテーブルの上に置いて、ハーブティーをカップに注ぎ、短い黙祷をしてノートを開いた。


綺麗な文字がびっしり並んでいる。

これを亡くなる前に書いたとは..

何ページもある。


よし、今なら落ち着いている。

私には内容の濃い話になるはずだ。

だから、一気に読まないようにしよう。


今日は最初のページだけにしよう。


ハーブティーのお嬢さんへ


私はこの人生を終える時が来たようです。


ここに書き記すことは、すべて本当のことです。

嘘や作り話は一切ありません。


私の醜い部分も隠さず書いていきます。


あなたがあの海岸で聞かれた言葉...

あの休ませてあげますという言葉が、幻聴でも気のせいでもないと言うことが、分かって頂けると思います。


あの海岸で急に戦争のこと、私の両親や妹のことを話してびっくりさせてしまい、申し訳ございませんでした。


あなたの心の状態を考えてもっと慎重になるべきでした。


しかし、あの時代に何があったのかを話さなければ本質的なことをご理解いただけないと思っています。


私は最期の力を振り絞って、私が見たこと、聞いたこと、考えてきたことを包み隠さず書いてゆきます。


どうぞ、あなたのご気分の良い時に少しずつお読み下さい。


気分が悪くなって心の疲れ、病が悪化するような事になれば何のためにこれを書いているのかわからなくなります。


どうか少しでも圧迫を感じるような時は、ノートを閉じて下さい。


焦らず気分の良い時だけお読み下されば私はそれがいちばん嬉しく思います。


少し長くなりますが、もう一度最初から書かせて頂きます。


81年前のあの日、広島に原爆が落とされたのです。


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