第247話 消えない炎
私は、看護師さんにもオーナーさんにも、何を話せばいいのかわからず、ずっと黙っていた。
二人は、遠い昔のことを懐かしそうに話している。
私には、口を挟む余地がなかった。
帰りの電車の中でも、二人の話は続いていた。
私は窓の外を眺めながら、自分の仕事について考えていた。
いや、仕事というより、これから何をすべきなのか。
もっと言えば、どう生きていくのかということだった。
私は、人と関わることがあまり得意ではない。
人とのコミュニケーションも、下手な方だと思う。
だから、自分一人で完結できるような仕事がしたいと、漠然と考えてきた。
好きなことをして、できるだけストレスの少ない生活を送る。
それが、私の望みだった。
でも、何かが引っかかっている。
その正体が、わからなかった。
娘さんの力になりたい。
そう思ったとき、ほんの小さな炎が、私の中に灯った気がした。
カウンセラーにでもなりたいのだろうか。
自分の心を覗き込んでみる。
いや、違う。
人と関わる仕事は、私が最も苦手とすることだ。
黙々と、一人でできる仕事がしたいはずなのに。
それなのに、こうして看護師さんについてきて、娘さんのことを考えている。
会ったこともない娘さんのために、手紙を書こうとしている。
自分でも、不思議だった。
傷ついた人を助けるなんて、私にできるのだろうか。
自分のことさえ、うまくコントロールできないのに。
でも、そう考えたところで、あの炎が消えるわけではなかった。
私は、自分の中にある消えない炎を、持て余していた。
*
駅に着くと、オーナーさんは病院の裏にあるマンションへ帰っていった。
看護師さんと私は、彼女の待つ部屋へ向かった。
夕方六時を少し過ぎていた。
部屋の前まで来ると、ドアの向こうから、カールが爪で引っかくような音が聞こえた。
「ただいま」
看護師さんが声をかける。
ドアが開くと、カールは耳を後ろに倒し、尻尾をぶんぶん振っていた。
看護師さんは、カールの顔を両手で包み込み、何度も撫でた。
「おかえりなさい」
彼女が迎えてくれた。
そして、買っておいた柿の袋を見せた。
「柿がおいしそうだったから買っておいたの。食べよう」
「食べる、食べる」
看護師さんが嬉しそうに答えた。
彼女は、病院で何があったのかを聞かなかった。
看護師さんも、自分からは何も話さない。
私も黙っていた。
オーナーさんが娘さんと何を話したのか、私たちは知らない。
看護師さんも、今日は娘さんに会っていない。
でも、寝る前には、看護師さんが今日あったことを彼女に話すのだろう。
私は、そう思っていた。
彼女も、それをわかっているのかもしれない。
ふと、ももが私の足元に寄ってきた。
私は、ももを抱き上げた。
そのまま壁にもたれるように座る。
腕の中のももを撫でながら、まだ一度も会ったことのない娘さんの顔を想像していた。
そして、あの炎のことを、また考えていた。
「はい、柿どうぞ」
彼女が、私の前に柿を差し出した。
そして、私の顔を覗き込んだ。
「また、なんか考えてるな……」
私は、やっぱりわかりやすいんだ。




