第245話 味方になりたい
オーナーは、静かに言った。
「今日ここで話したことは、お母さんには言わないでおくよ。
今日だけじゃなくて、これからも……
私に話したことがお母さんに伝わると思ったら、何も話せなくなるでしょ。
お母さんには言いたくないことでも、私になら話していいからね。
約束する」
そう言って、用意していた小さなメモを差し出した。
「これ、私のスマホの番号」
「ありがとう……」
「話したくなったら、電話しておいで」
「うん……
ありがとう」
「じゃあ、またね。
あっ、また来てもいいのかな?」
「また来てください。
まだ、話したいこともあるし……」
「わかった。
また来るよ。
電話もしてね」
オーナーは、少し間を置いて尋ねた。
「お母さん、本当に今日は会わなくていいの?」
「はい。
今日はいいです。
お母さんに聞きたいこともあるけど、もう少しよく考えてから話したいから……」
「……よく考えてから?
気になるなあ。
まあ、いいか」
オーナーは、立ち上がった。
「じゃあ、今日はこれで帰るね。
それから……
引っ叩いて、本当にごめんね」
「一回謝ってもらったくらいじゃ、まだ赦しませんから」
そう言って、娘は初めて笑顔を見せた。
「お母さんにも、同じことを言われたよ。
娘を叩いたこと、まだ赦してないからって」
娘は、思わず吹き出しそうになった。
「来てくれて、ありがとう。
うれしかった……」
「うん。
じゃあね」
⸻
しばらくして、オーナーさんがロビーに戻ってきた。
看護師さんと私の横に腰を下ろした。
「あっ、娘、どうだった?」
看護師さんが、すぐに尋ねた。
「うん。焼きそばはほとんど食べられなかったけど、いろいろ話したよ。
でも、話の内容は秘密にすることにしたの」
「なんで?」
「なんでも」
オーナーさんは、少し笑った。
「それから、今日はあなたに会わずに帰ってもらうって言ってたよ」
「やっぱり……」
「やっぱり? どういうこと?」
「なんとなくね……
そんな気がしてたの。
娘が何を考えているのかはわからないけど、どう感じているのかは、少しわかる気がするの」
「へえ。
そんなものなんだ」
看護師さんは、少し改まった様子でオーナーさんに言った。
「今日は一緒に来てくれて、ありがとう。
それから、娘との約束はちゃんと守ってあげてね。
何を話したのか、知りたいけど……
聞かずに我慢するから」
私も、オーナーさんと娘さんが何を話していたのか、とても気になっていた。
少しでも娘さんのことを知ったうえで、あの手紙を書きたいと思っていたからだ。
でも、二人の間で交わされた話なら、私が聞くことではないのかもしれない。
看護師さんが、オーナーさんの顔を見て言った。
「なんだか、楽しそうだね」
「まあね」
それだけ答えて、オーナーさんは笑っていた。
どんな話をしたんだろう。
私と看護師さんは、思わず顔を見合わせた。
しばらくして、看護師さんがもう一度尋ねた。
「ねえ、娘が本当に内緒にしてって言ったの?」
「ううん。
言ってないよ」
「えっ?」
「私から約束したの。
ここで話したことは、お母さんには言わないって。
身内には言いたくないけど、誰かに聞いてほしいことって、あるでしょ。
私、あの子の味方になってあげたいの」
看護師さんが、オーナーさんを見つめた。
「味方?」




