第243話 焼きそば、持ってきたよ
それから二日後のことだった。
オーナーさんが、娘さんに面会することになった。
家族以外の面会だったが、担当医は許可してくれた。
焼きそばについても、本人が食べたがっているのなら、体調を見ながら少量を試してもよいとのことだった。
医師によって、考え方も違うものなのだろうか。
彼女は、ももとカールのお世話をしてくれている。
だから、今日、病院に来たのは看護師さんとオーナーさん、そして私の三人だけだった。
看護師さんと私は、ロビーで待つことになった。
面会するのは、オーナーさん一人。
もちろん、焼きそばも持参していた。
娘さんには、今日の面会を事前に知らせてあるはずだ。
私は、オーナーさんが持ってきた小さな袋を見つめていた。
その中の焼きそばが、娘さんにとって何かのきっかけになればいい。
そんなことを思っていた。
⸻
オーナーは、病室の前で足を止めた。
少し緊張していた。
軽くノックする。
返事はない。
眠っているのだろうか。
もう一度ノックしようとしたとき、
「どうぞ」
中から声が聞こえた。
そっとドアを開ける。
ベッドにいる娘の姿を見た瞬間、オーナーは言葉を失いかけた。
あまりにも痩せていた。
想像していた以上だった。
頬はこけ、以前の面影を探してしまうほどだった。
それでも、驚きを顔に出さないようにして、笑顔を向けた。
「元気だった?」
そう言いかけて、飲み込んだ。
そして、口から出てきたのは、
「焼きそば、持ってきたよ」
という言葉だった。
娘は、しばらくオーナーの顔を見つめていた。
「オーナー、変わらないですね。
私は、こんなになっちゃったけど……」
オーナーは、すぐには言葉を返せなかった。
「精神科だから、びっくりしたでしょ」
「そんなことないよ。
今は精神科にかかる人も珍しくないし、私の知り合いにも何人かいるよ」
「いいですよ。
気を使わなくても……」
娘は、少し間を置いてから言った。
「母も来てるんでしょ」
「……うん。
ロビーで待ってるよ」
「そう……」
それきり、しばらく言葉が途切れた。
やがて、娘が口を開いた。
「来てくれて、ありがとう……」
「ううん。
会えてよかった」
娘はオーナーの顔を見ながら、何かを迷っているようだった。
そして、
「オーナーは、母がクリスチャンになったって、知ってますか?」
と尋ねた。
「ううん、聞いてない。
今、初めて聞いたよ」
「そうですか……」
「どうして?」
「えーっと……
なんか、気になって……
どうしてクリスチャンになったのかなって、知りたくて……」
「お母さんに直接聞けないの?」
「そんなことないけど……
オーナーは母と友達だから、知ってるかなと思って……」
「お母さん、ロビーにいるんだから、今日でも聞いてみたら?」
「ううん。
今はいい」
「そう……
でも、どうしてそんなに気になるの?」
娘は、目を伏せた。
「この前、母がここに来て……
神は愛の神だって、言ったんです」
少し間があった。
「そんなこと、あり得ると思えないんです」
オーナーは、どう答えればいいのかわからなかった。
「……ごめんね。
私、その辺のこと、あまりわからなくて……」
「いいんです」
娘の視線が、オーナーの持ってきた袋に移った。
「焼きそば……」
「うん」
「味見くらいしかできないけど……
少し、いただけますか?」
「もちろん。
どうぞ、どうぞ」
オーナーは、袋から容器を取り出した。
「油を控えて、薄味にしておいたよ。
でも、無理しないでね。
匂いだけでもと思って、持ってきたんだから」




