第234話 私には祈りがある
彼女もあまりアルコール飲めないはずだ。
看護師さんに付き合っているのだろうか。
私は少し気になっていることがあったので、聞いてみようと思っていた。
私は適応障害の最も症状の強い時、
そう、電車に飛び込みそうになり、自分でも何をしでかすか分からなくなっていた。
その時から、看護師さんがこの病院の看護師さんの部屋に泊めてもらっている。
いつまでも、甘えていられない。
そう思っていた。
それは、彼女も同じだ。
彼女はバイトもはじめた。
部屋もどこか借りることになるだろう。
私は、これからのことを何も決めていない。
看護師さんは私たちがここにいることをどう思っているのだろう。
気になっていた。
わたしは娘さんのために出来ることがあれば、何かしたいと思っているのは本当だ。
でも、学生じゃない。
仕事もして、経済的にも落ち着きたい。
看護師さんも、娘さんのことがあるとはいえ、この病院の看護師長だ、
いつまでも休んでいるわけにはいかないはずだ。
私は少し適応障害のことや、摂食障害が、緩やかではあるが、確かに回復に向かっている。
父にも経済的な負担をかけたくない。
看護師さんに思っていることを、話してみようか?
でも、やっぱり今日じゃないほうがいい。
もう少し考えがまとまってから話そう。
そうしよう。
そう。
こんなと時こそ、祈りだ。
そうだ。
私には祈りがあるんだ。
祈ってみよう。
私が本当に思っていることを、そのまま神様に話せばいいんだ。
そうだ。
そうだった。
それでいい。
まだ、祈ってはいないが、迷いはなくなった。
私は私のやるべきことをやればいいんだ。
周りにどう見えるかはあまり気にしないでいよう。
私は知らない間に、大学の同級生のことをよく考えてしまう癖がある。
遅れをとり、何とも言えない、肩身の狭さを感じてきた。
また、一人で黙って考え込んでいた事に気がつく。
看護師さんと、彼女がビールを飲みながら、私を見つめていたことに
気がついた。
看護師さんが、
「何か話したいことがあれば、聞くよ。いってみなよ」
優しくお姉さんのように聞いてくれた。
「今日はやめとく」
とだけ言ってみた。
「そう。
話したくなったら、いつでも、聞かせてね」
そう言ってくれた。
彼女が、
「私はだいたいわかってるけどね」
そう言って、笑った。
看護師さんと彼女が、友人というより、本当の家族のように感じた。
カーテンの隙間から満月がのぞいていた。
間接照明のような優しい黄色い光...
きれいだった。
こんな素直な自分に驚いていた。
私には祈りがある
第234話
彼女も、あまりお酒は飲めないはずだ。
看護師さんに付き合っているのだろうか。
私はコップを手にしたまま、二人の様子を眺めていた。
実は、少し前から気になっていることがあった。
いつか、看護師さんに聞いてみようと思っていたことだ。
私が適応障害で最も苦しんでいた頃。
そう、電車に飛び込みそうになり、自分でも何をしてしまうか分からなくなっていた頃から、私は看護師さんの部屋に泊めてもらっている。
ずいぶん長い間、お世話になっている。
いつまでも甘えているわけにはいかない。
そう思っていた。
それは、彼女も同じだろう。
彼女は今日からアルバイトを始めた。
これから仕事に慣れていけば、いずれは自分の部屋を借りることも考えるのかもしれない。
でも、私はどうだろう。
これからのことを、まだ何も決めていない。
看護師さんは、私たちがここで暮らしていることを、どう思っているのだろう。
もちろん、娘さんのために何かできることがあれば、私も力になりたい。
それは本当の気持ちだ。
でも、私ももう学生ではない。
仕事をして、経済的にも落ち着きたい。
父にも、これ以上負担をかけたくない。
看護師さんだって、娘さんのことを抱えながら、病院の看護師長という仕事がある。
いつまでも今の生活が続くわけではないだろう。
私の適応障害も、摂食障害も、まだ完全によくなったわけではない。
それでも、以前に比べれば、少しずつ回復に向かっているように感じる。
そろそろ、これからのことを考えなくてはいけない。
看護師さんに話してみようか。
そう思った。
でも、やっぱり今日はやめておこう。
娘さんのことで、いろいろあった一日だ。
それに、私自身の考えもまだまとまっていない。
もう少し整理してから話そう。
そうしよう。
……そうだ。
こんな時こそ、祈りだ。
私には、祈りがあるんだ。
自分が本当に思っていることを、そのまま神様に話せばいい。
仕事のことも。
お金のことも。
これから、どこで暮らしていくのかということも。
格好をつける必要なんてない。
そうだ。
そうだった。
それでいい。
まだ祈ってもいないのに、少し気持ちが落ち着いてきた。
何も決まったわけではない。
でも、今すぐ答えを出さなくてもいいような気がした。
私は、私にできることを、一つずつやっていけばいい。
周りからどう見られるかも、あまり気にしないでいよう。
私は、気がつくと大学時代の同級生たちのことを考えている。
みんなは、今頃どうしているのだろう。
仕事をして、自分の生活を築いている人も多いだろう。
それに比べて、私は……。
そんなふうに考えて、勝手に肩身の狭さを感じてしまう。
でも、誰かと同じ速さで歩かなくてもいいはずだ。
そう思いながら、また一人で考え込んでいた。
ふと顔を上げると、看護師さんと彼女が、ビールを飲みながら私を見ていた。
「何か話したいことがあるんじゃない?」
看護師さんが言った。
「よかったら、聞くよ」
私は、二人の顔を見た。
「今日は、やめとく」
それだけ言った。
「そう。
話したくなったら、いつでも聞かせてね」
看護師さんは、それ以上何も聞かなかった。
彼女が、いたずらっぽい顔で言った。
「私は、だいたい分かってるけどね」
私は、思わず彼女の顔を見た。
二人は、またビールを飲み始めた。
何だか、不思議だった。
友人というより、家族と一緒にいるような気がした。
何も話さなくても、ここにいていい。
そんなふうに思えた。
カーテンの隙間から、満月がのぞいていた。
淡い黄色の光が、間接照明のように部屋に差し込んでいる。
きれいだった。
私は、もう一度二人を見た。
こんなに素直な気持ちで、誰かと一緒にいられるなんて。
自分でも、少し驚いていた。




