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第228話 あなたの涙を見た

ペンを置き、目を閉じていた。


すると、後ろの席に誰かが座る気配がした。


話し声からすると、若い男女のようだった。


私と同じくらいの年齢かもしれない。


振り向いて見たわけではないので、分からない。


男性らしい人の声が聞こえてきた。


「大丈夫やて。


心配せんでええて」


「そんなん、結果聞くまで分かれへんやん」


女性らしい人の声だった。


どうやら、検査の結果を聞きに来たらしい。


盗み聞きをするつもりはなかった。


でも、すぐ後ろのソファーなので、どうしても聞こえてしまう。


「もっと早よ検査してたらよかったのに。


なんで黙ってたん?」


今にも泣き出しそうな声だった。


「オレ、病院嫌いやねん。


ちょっとタバコ吸うてくるわ」


「……」


立ち上がる気配がした。


足音が二人分、遠ざかっていった。


それだけだった。


その後、二人の声を聞くことはなかった。


私は、顔も知らない二人の会話を、頭の中で繰り返していた。


きっと、検査の結果が心配なのだろう。


夫婦なのかもしれない。


でも、二人がどんな事情でここに来たのか、私には分からない。


もっと詳しい検査を受けたのかもしれないし、何か別の事情があるのかもしれない。


それでも、あの女性の声が耳に残っていた。


泣き出しそうな声。


心配なのだろうな。


私は、そう思った。


私たちの日常は、心配事の連続なのかもしれない。


体のこと。


家族のこと。


お金のこと。


仕事のこと。


自分の能力のこと。


考え始めたら、きりがない。


でも、心配しないで生きるなんて、私にはできそうにない。


どんなに強い人でも、心配になることはあるのではないだろうか。


さっきの二人の会話を聞いて、そんなことを考えていた。


私は、神様を信じている。


だから、心配事ができたら、その都度、神様に話してみようと思う。


このノートに、自分の思いをそのまま書いているように。


誰かに話を聞いてもらうように。


飾った言葉でなくてもいい。


上手に話せなくてもいい。


自分の言葉で、神様に話してみよう。


それも、祈りなのだと思う。


私が信じている神様は、この宇宙を、そして、すべての命を造られた方だ。


その神様が、私の言葉を聞いてくださる。


私は、そう信じている。


考えてみると、すごいことだ。


これ以上のことがあるだろうか。


そういえば、聖書にこんな言葉があった。


『わたしはあなたの祈りを聞いた。あなたの涙を見た』


確か、そんな言葉だった。


私がどこにいても、神様に話しかけることができる。


泣いていても、


うまく言葉にならなくても。


神様に聞いていただける。


そう信じられることが、今の私には嬉しかった。


神様なんていないと言う人もいる。


そう考える人がいることも分かる。


でも、


私は神様がいると信じている。


神様を信じる。


それでいい。


ああ、


また、すっきりした。

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