↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
220/235

第217話 あふれ出る想い

ペンが、


止まらなくなっていた。


出来事も。


その時、


私が何を考えていたのかも。


できるだけ、


そのまま書こうと思った。


*


第三章


そう。


忘れられない言葉がある。


『休ませてあげます』


老人は、


この言葉について話してくれた。


世界中で、


多くの人が読んできた言葉だと。


あとになって、


私は知った。


本当に、


聖書の中に書かれている言葉だった。


それを知った時、


私は驚いた。


信じるか、


信じないか。


その前に、


私には一つ、


どうしても消せない事実があった。


私は、


あの海岸で、


その言葉を、


この耳で聞いた。


なぜ、


私にも聞こえたのかは、


今でも分からない。


それでも、


私は確かに聞いた。


でも、


私が神様を信じるようになったのは、


あの言葉を聞いたことだけが理由ではない。


老人のノートに、


私の心を動かすものがあった。


太陽を見て、


老人は考えたという。


これは、


日本人の太陽なのか。


アメリカ人の太陽なのか。


そんな分け方をする人はいない。


太陽は、


誰の上にも昇る。


それと同じように、


神様を、


日本人の神、


アメリカ人の神、


どこか一つの国の神として分けて考えていた自分は、


間違っていたのではないか。


老人は、


そんなふうに書いていた。


神が本当に神であるなら、


一つの民族だけの神ではなく、


すべての人の神なのではないか。


その言葉が、


私は忘れられなかった。


老人は、


戦争で両親を失った。


妹さんも、


助けることができなかった。


長い間、


アメリカを憎んだ。


そして、


自分の家族を奪った国の神だと思っていたものまで、


憎むようになった。


その怒りは、


やがて、


キリスト教を信じる日本人にまで向かっていった。


でも、


老人は、


自分の考えを揺さぶられる出来事に出会う。


亡くなった妹さんを思いながら吹いていた、


あのハーモニカ。


『ふるさと』


『春が来た』


『春の小川』


『さっちゃん』


『犬のおまわりさん』


自分が長い間、


大切に吹き続けてきた歌の中に、


日本人のクリスチャンが作曲したものがあることを知った。


老人は、


怒った。


七十年近く大切にしていたハーモニカを、


海へ投げ捨ててしまった。


*


第四章


書いているうちに、


老人の心を、


少しだけたどっているような気がしてきた。


老人は、


長い時間をかけて、


自分が抱えてきた戦争の痛みや怒りが、


神様を見る目にまで影響していたことに、


気づいていったのだと思う。


アメリカ人の神。


日本人の神。


どこかの国の神。


そうやって分けられるものではない。


神は、


すべての人の神なのだ。


老人は、


最後には、


そう受け止めるようになった。


そして、


亡くなる前、


自分がたどってきた道を、


ノートに書き残した。


そのノートが、


看護師さんを通して、


私の手元へ来た。


考えれば考えるほど、


私は、


あの海岸で老人に出会ったことを、


ただの偶然だったとは思えなかった。


あの頃の私は、


適応障害で、


頭の中がぐちゃぐちゃになっていた。


走ってくる電車を前に、


自分でも怖くなるほど、


追い詰められたこともあった。


そんな時だった。


私は、


あの海岸で、


『休ませてあげます』


という声を聞いた。


そして、


老人に出会った。


今、


こうして、


私のためのノートを書いていると、


ばらばらだった出来事が、


少しずつ、


つながって見えてくる。


看護師さんとの出会い。


彼女との出会い。


そして、


彼女が屋上から飛び降りようとした時、


なんとか助けたいと思ったこと。


助けてもらうことばかり考えていた私が、


誰かを助けたいと思った。


あの時、


初めて、


見る方向が少し変わったのかもしれない。


自分のことしか見えなかった私が、


誰かの痛みを見るようになった。


そして、


振り返ってみると、


その一つ一つの中に、


神様がいてくださったように、


今の私には思える。


ノートを書いていると、


そのことが、


少しずつ分かってくる。


私は、


ペンを止めずに書いた。


問題が解決することだけが、


人生のゴールではない。


心配事が、


全部なくなれば、


幸せになれる。


そんなことでもない。


一つの問題が終わっても、


また別の問題がやってくる。


これからも、


悩むことはあると思う。


苦しくなることも、


きっとある。


それでも私は、


神様は愛であると信じたい。


そして、


心配になった時も、


苦しくなった時も、


自分一人で全部抱え込まず、


神様に委ねながら生きていきたい。


それが、


これからの、


私の生き方になればいいと思う。


私は、


一人のクリスチャンとして、


この生き方を、


歩いてみたい。


今日は、


ここまで、


素直に書けた。


私は、


ノートを閉じた。


なんだか、


嬉しかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。