↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
22/234

22 老人のノート

梅干しのおにぎりをひとつ持ってセルフレジで精算する。


スーパーではこんなお客は珍しいだろう。

コンビニならおにぎりひとつだけでも別に普通だと思うけど...


そんな事を考えながら、私は挑戦者の顔をしてスーパーを後にする。


半分だけでも完食するんだ。


無理をせずゆっくり食べれば、半分くらい何でもない。

自分にいい聞かせる。


クラッカーやビスケットは口の中で柔らかくなるので私にとっては固形物ではない。


でも米粒は別だ。

ペーストになる感じが微妙に違う。


飲み込む時、拒否反応が出てしまう。

喉が閉まってしまうのだ。


まるで鵜飼の鵜のように喉が締めつけられたようになって飲み込めない。

たぶん私独特の症状だと思う。


失敗すると、脳がその感じを記憶してしまい、また回復が遠のいてしまう。


こんな感覚、誰が分かってくれるだろう。


部屋に戻った途端に食べれそうな感覚が消えていた。

どうしたんだろう?


もどしてしまった時の記憶に怖気づいてしまっていた。


分かった。

構わない。

無理しない。


計画を変更することは恥ではない。


もう少して山頂だという時の登山家のように、危険を察したら引き返すのが英断というものだ。


クライマーの登頂とおにぎりを食べることは次元もレベルも比べられないが、私にとってはほぼ同じだ。


おにぎりを半分に切ってお鍋に入れ、お湯を注いでお粥にした。


ゆっくりスプンで口に流し込む。


無理をしなかった自分を褒めたい。


午後3:00になった。


バッグには老人用の紙コップ2つ、プレゼントするハーブのティーパック、暖かいハーブティーが入ったポット、それにハーモニカ...


今日、老人と会える事を願って、目を瞑って深呼吸を2回した。

部屋の鍵をかけ、駅に向かう。


*


海岸に着いたのは3:40。


誰もいない。

老人が来るとしたら、4:30から5:00くらいの頃だろう。


私は砂浜に座り、ポットのハーブティーをカップに注いてあの老人のようにゆっくり味わうように一口飲む。


そして、バッグからハーモニカを取り出して故郷の最初の部分を吹く。


何度か繰り返し吹いていると、

少しずつ上手くなっていくようだ。


その時、砂浜を歩く音が後ろから聞こえてきた。

振り向くと、50代位に見える女性。


看護師さんの白衣を着ていて、その上に紺のカーディガンを羽織っている。


笑顔で話しかけてくれた。


「それ、ハーブティーですか?」


「えっ...あっ...はい....」


「間違いないようですね...

これ預かってきました」


女性は真っさらに見えるノートを1冊渡してくれる。


表紙を見ると、ハーブティーのお嬢さんへとなっている。


あの老人のあの綺麗な文字が印刷されたように綴られていた。


下の方には小さくハーモニカ爺さんよりと書いてあった。


良かった。

生きていてくれたんだ。

ありがとうございますと礼を言うと


その女性の表情が少し曇った........ように見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。