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20 後ろめたさと肩身の狭さ

今日も秋の海は穏やかだ。

この駅で降りる人は少ない。


ホームの大きな時計は4:00を指していた。

階段を降りて砂浜に目をやる。

誰もいない。


もし、今日も老人が来てくれなければどうしよう。

あまり悪く考えるのはやめよう。


ただの風邪かもしれないし、ちょっとつまづいて脚を挫いただけかもしれない。


誰でもそんな事はよくある事だ。

考えても仕方がない。


買ったばかりのハーモニカを取り出して眺めてみる。


ハーモニカに触るのは小学校の時以来だと思う。

もっとずっしり重かった気がする。


音階を吹いてみる。

音階の吐くと吸うをまだ覚えていた。


びっくり

ドレミファソラシドがちゃんと吹けた。


何もしないでいると嫌な予感に押しつぶされてしまう。


4:30

故郷を適当に吹いてみる。

音階は吹けたのに曲になると全然出来ない。


あの老人の故郷は絶品だ。

自分でやってみるとそれがよくわかる。


5:30

老人は来てくれない。


やっぱり弱気になってしまう。

私は弱い。


もし、風邪とかで来れないなら、会う約束なんかはしてないけれど、自分の事は心配しなくていいと誰かに伝言をお願いしてくれるはずだと思ってしまう。


私がここに来る事はわかっているはずだ。


でももう家族はいないと言っていたし、ことづけを頼む人がいないのかもしれない。


ひとりでいろんなことを仮定して思い巡らせても意味はない。


そんな事はわかっている。


あの休ませてあげますという言葉のことを知りたいだけじゃない。


あの老人とは生きてきた時代は違うが、友だち以上の親しみを感じている。


思い上がりかもしれないが、老人もそう思ってくれている気がする。


6:30

まわりの空気が重たく感じる。


8:00まで待ってみよう。

それ以上は私にとっては危険すぎる。

心が安定していないので、昨日みたいになりかねない。


聞こえるのは波の音と電車の音だけ...


7:45

これが現実だ。

今、新たに決心する。


あと最低でも1週間毎日ここに来る。

1週間待ってみてそれでも現れてくれなかったら、その時はその時だ。


8:00

来てくれなかった。

表情を変えずに駅に向かう。

心をぐらつかせないために覚えた事だ。


私の場合だけかもしれないが、顔の表情とメンタルは連動している気がするのだ。


一度崩れると途中で止められなくなってしまう。


まわりからは不機嫌そうに見えていると思う。

自分を守るためだ。

どう思われてもいい。


部屋に帰ってベッドに座ると無表情の頬に涙が流れる。

世の中すべての人間に見捨てられたような孤独を味わっていた。


心は小学2年生くらいだ。


今日は薬を飲もう。

自分の部屋ならシャットダウンしても誰にも迷惑はかからない。


でもやっぱり考えてしまう。

あの海岸近くの入院出来そうな病院をあたってみようかと考えたりするが、名前も知らないので、教えてもらえそうにない。


薬を飲んだ。


私は毎日何をしているのだろう?

今するべきことをしているのだろうか?


社会から弾き出されたようになって、ただ海岸に通っている毎日、後ろめたさと肩身の狭さが、横たえた体にのしかかってきて、声を漏らして泣いてしまった。


睡魔が訪れ、今日の幕が降りた。

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