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第193話 神様、助けてください

「娘の夫から、


病院に電話があったって」


看護師さんが、


ゆっくり話し始めた。


「娘の病室を教えろって、


かなり強い口調で言ってきたらしいの」


私と彼女は、


顔を見合わせた。


私たちは、


娘さんのお隣の奥さんから、


夫のことを聞いていた。


暴力的なところがあり、


話が通じにくい人だったと聞いている。


私は、


口には出さなかったけれど、


どうして娘さんは、


そんな人と結婚したのだろうと思った。


結婚する前は、


違う人だったのだろうか。


それとも、


少しずつ変わっていったのだろうか。


でも、


今それを考えても仕方がない。


彼女が、


看護師さんを見た。


「大丈夫ですよ。


今できることを、


一緒にやりましょう。


私たちも協力しますから」


「ありがとう。


そう言ってもらえると、


心強いよ」


看護師さんは、


スマホを手に取った。


「警察病院から、


元刑事さんにも連絡してくれたみたいだから、


私からも電話してみる。


もし今日お会いできるなら、


今から行ってみようと思うの」


「電話してみてください」


彼女が言った。


「向こうのご都合がよければ、


私たちも一緒に行きます。


ねえ?」


彼女が、


私を見た。


「うん。


もちろん」


彼女は、


今度はももとカールに向かって言った。


「もう一回、


お留守番だよ。


分かった?」


そして、


二匹の晩ご飯とミルクを用意すると、


トイレを済ませるために、


急いで中庭へ連れていった。


看護師さんが、


元刑事さんへ電話をかけようとした、


その時だった。


スマホが鳴った。


画面を見た看護師さんが、


すぐに電話に出た。


「もしもし」


「はい……」


「はい……。


ありがとうございます」


しばらく、


相手の話を聞いている。


「はい。


私も、


お会いしたいです」


少し間を置いた。


「今からでも、


よろしいでしょうか」


看護師さんの表情が、


少しだけ緩んだ。


「ありがとうございます。


では、


後ほど伺います。


失礼します」


電話を切ると、


私を見た。


「今から、


行くことになったよ」


そして、


少し気遣うように言った。


「あなたは、


無理しなくてもいいんだよ」


「私も行きます」


私は、


すぐに答えた。


「何か、


できることがあるかもしれないから」


看護師さんは、


しばらく私を見ていた。


「ありがとう……」


十分もしないうちに、


彼女が、


少し息を切らせながら戻ってきた。


ももとカールも一緒だ。


「トイレ、


終わりました。


ご飯とミルクも、


用意してあります」


看護師さんは、


何も言わず、


私たち二人を見た。


そして、


ゆっくりうなずいた。


私たちも、


うなずいた。


「カール。


もも。


またお留守番だよ。


何度もごめんね」


看護師さんは、


二匹の頭を撫でてから、


ドアを開けた。


廊下へ出る。


私の胸が、


いつもより速く動いている。


私は、


少しのことでも、


体の中まで緊張してしまうことがある。


それが分かったのだろうか。


彼女が、


私の顔を覗き込んだ。


「大丈夫?」


私は、


小さくうなずいた。


*


エレベーターの中で、


彼女が言った。


「私、


元刑事さんにお願いしてみようと思います」


「何を?」


「私たちにも、


できることがあれば、


させてくださいって」


彼女は、


真剣だった。


「何でも、じゃなくて……。


私たちにできることを、


できる範囲で。


きっと、


何かあると思うんです」


看護師さんが、


静かにうなずいた。


*


私たちは、


電車に乗った。


看護師さんを真ん中にして、


三人並んで座る。


しばらく、


誰も話さなかった。


私は、


小さな声で言った。


「三人で、


祈りませんか」


二人が、


私を見る。


「ここで、


声には出さないで。


三人で心を合わせて、


祈りましょう」


彼女が、


すぐにうなずいた。


看護師さんも、


少し遅れてうなずいた。


そして、


私に聞いた。


「声には出さないけど……。


何て祈ればいいの?」


彼女が、


静かに答えた。


「『神様、


助けてください』


それだけで、


いいと思います」


看護師さんは、


しばらく彼女の顔を見ていた。


そして、


大真面目な顔で言った。


「それなら、


できそうだ」


三人とも、


目を閉じた。


電車は、


静かに走り続けていた。

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