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第190話 虹が消えるまで

命あるものは、


いつか、


死を迎える。


その時を、


「虹の橋を渡る」


と表現することがある。


私にも、


いつかその時が来る。


それまで、


神様から与えられているこの命を、


大切にしていこう。


彼女も私も、


ぎりぎりのところで、


命を失わずに、


ここまで来ることができた。


あの体験を通して、


神様の存在を、


強く意識するようになったのは、


確かだった。


看護師さんの場合は、


私たちとは違う。


でも、


娘さんのことや、


患者さんたちとの出会いを通して、


少しずつ、


神様へ心が開かれていったのかもしれない。


私は、


今の看護師さんの穏やかな顔を見ながら、


そんなことを考えていた。


すると、


看護師さんが、


ゆっくり話し始めた。


「娘が、


私には会いたくないって言ってるくらいだから……。


私の病院へ転院することも、


今は受け入れたくないって言うかもしれない」


少し間を置いた。


「でもね」


看護師さんは、


私たちを見た。


「私は……。


『神は愛です』


っていう言葉を、


これから心から信じていくよ」


彼女は、


真剣な顔で聞いていた。


看護師さんは、


少し不思議そうに、


自分のことを話すように続けた。


「でも、


不思議なんだよ」


「何がですか?」


「私ね。


本当は、


あの言葉が嫌いだったの」


「『神は愛です』が?」


「うん」


看護師さんは、


小さくうなずいた。


「だって、


そうは思えないことが、


あまりにもたくさんあったから……。


神様が愛なら、


どうしてこんなことが起きるんだろうって、


ずっと思ってた」


少し黙ってから、


また言った。


「だから、


今の自分が、


一番不思議なんだよ」


彼女が、


ゆっくりうなずいた。


「分かるような気がします。


その不思議」


看護師さんが、


彼女を見た。


「私も、


苦しくなるまでは、


神様のことを、


こんなに真剣に考えたことなんてありませんでした」


彼女は、


言葉を選びながら話していた。


「苦しくなって、


自分だけじゃどうにもならなくなって……。


それから初めて、


神様のことを考えるようになったんです」


少し考えて、


続けた。


「でも、


今になって思うんです。


神様を信じる前の私は、


いったい何を信じて生きてたんだろうって」


看護師さんは、


黙って聞いていた。


「もちろん、


神様を信じてなかった時にも、


愛はありました。


誰かを好きになったり、


心配したり、


優しくしてもらったり……。


それは、


本当にあったんです」


彼女は、


少し首をかしげた。


「でも、


『神は愛です』


っていう言葉の『愛』は、


なんて言えばいいのかな……。


私がそれまで思っていた愛とは、


少し違うように感じるんです」


「違う?」


「はい」


彼女は、


少し考えた。


「大学で、


イエス・キリストの十字架の愛って聞いた時、


私、


何のことか、


全然分かりませんでした」


彼女らしく、


少し笑った。


「でも今は、


ほんの少しずつだけど、


分かるようになってきた気がするんです」


そして、


静かに言った。


「勉強して、


頭だけで分かるものとは、


ちょっと違うのかもしれません。


それも、


私には不思議なんです」


私は、


彼女の言葉を聞きながら、


考えていた。


彼女は、


ただストレートで、


行動力があるだけではない。


誰かが苦しんでいれば、


その人のそばへ行く。


できることがあれば、


迷わず手を伸ばす。


私は、


そんな彼女を、


何度も見てきた。


彼女の中で、


聖書の言う愛が、


少しずつ形になっているように思えた。


看護師さんも、


黙って彼女を見ていた。


少し驚いているようにも見えた。


私には、


そう感じられた。


ふと、


空を見上げた。


さっきまで、


あんなにはっきり見えていた虹は、


もう、


うっすらと残っているだけだった。


何にでも、


訪れる時があり、


去っていく時がある。


出会う時があり、


別れる時もある。


その時、その時に、


できることを、


できる範囲でやっていけばいい。


あとは、


神様に委ねる。


私は、


私のままで行くんだ。


その時、


看護師さんが突然、


両腕を後ろへ大きく伸ばした。


そして、


空に向かって言った。


「やっぱり、


私は幸せだー!」


私と彼女は、


顔を見合わせた。


そして、


三人で笑った。

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