第182話 出会いを大切にします
夕方。
午後五時二十分。
私は、
ももとカールを連れて、
中庭でくつろいでいた。
誰もいない中庭。
優しい風が吹いている。
ももとカールは、
元気いっぱいだった。
二匹で、
中庭を走り回っている。
娘さんの状態は、
どうなっただろう。
あのマンションの504号室では、
どんな話になったのだろう。
私は、
悪い方へ考える癖があると、
看護師さんに言われていた。
でも、
なぜか今日は、
話がいい方へ進んでいるような気がしていた。
私は一人、
花壇の縁に座って、
これまでのことを思い返していた。
適応障害。
摂食障害。
そして、
あの海岸で老人と出会った。
あの海岸で、
生まれて初めて、
神様の声を聞いた。
あの声を聞いてから、
私の人生には、
不思議な出会いが続いた。
あの頃、
私は電車に飛び込みそうになったことがある。
自分を見失っていた。
自分が何をするか、
自分でも分からなくなっていた。
それを察した看護師さんが、
私の部屋まで飛んできてくれた。
看護師さんは、
私の命の恩人だ。
それだけではない。
屋上から飛び降りようとしていた、
彼女との出会い。
彼女がいなければ、
私はここまで回復できなかったと思う。
老人や彼女との出会いを通して、
私は、
聖書の神様を信じるようになった。
ほんの短い間に、
私の生き方は、
大きく変わっていった。
看護師さんと出会ったこと。
彼女と出会ったこと。
私には、
もう偶然だとは思えなかった。
そして今、
看護師さんの娘さんのことにも、
同じようなものを感じている。
娘さんのために、
私なりに、
できることを、
できる範囲でやっていきたい。
仕事探しのことは、
焦らなくていい。
それも、
神様に委ねよう。
私は目を閉じた。
一人で、
静かに祈ってみる。
「出会いを、
大切にします」
いつもの、
短い祈りだった。
それでいい。
神様には、
きっと聞こえている。
もういい。
死んでもいい。
そう思っていた頃には、
こんな生き方があるなんて、
想像もしていなかった。
神様に委ねて生きる。
私にとっては、
まったく新しい生き方だった。
古い自転車から、
新品の電動自転車へ、
乗り換えたような感じだ。
軽い……。
ふと見ると、
カールが、
ドアの前に座って、
こちらを見ていた。
二人が、
帰ってきたんだ。
私は立ち上がり、
急いでももを抱いて、
部屋へ戻った。
でも、
待っても、
二人は帰ってこなかった。
どうしたんだろう。
十分。
十五分。
二十分。
それでも、
戻ってこない。
カールも、
不思議そうに、
ドアの方を見ていた。




