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第177話 今できること

お昼前。


午前十一時四十五分。


「じゃ」


それだけ言って、


看護師さんは、


娘さんのいる警察病院へ、


一人で出かけていった。


ここの病院へ転院するための、


手続きを進めるためだ。


部屋には、


彼女と私。


それに、


ももとカール。


看護師さんと、


向こうの病院との話が、


うまく進むように願っていた。


これからのことを、


今から心配しても仕方がない。


全部が一気に、


うまく進むわけではないかもしれない。


それでも、


この部屋には、


落ち着いた時間が流れていた。


突然、


彼女が座り直した。


そして、


話し始めた。


「私、


これからどうしたらいいか、


ずっと考えてたの。


看護師さんや、


娘さんのこともあるけど……。


私自身の、


これからのこと。


何がやりたいのか。


何ができるのか。


それを、


ずっと考えてた」


もう、


何かを決めている。


そう感じた。


彼女は、


ももを膝の上に抱きながら言った。


「この病院の一階にある、


あのカフェ。


アルバイト募集してたの、


見た?」


「えっ。


見てない。


アルバイトするの?」


「うん……。


面接してもらおうと思ってる。


お給料が少なくても、


なんとかやっていく。


それでね。


看護師さんがやってる、


メンタルの会を、


お手伝いしたいの」


「メンタルの会の、


手伝い?」


「うん。


看護師さんもボランティアだから、


当然、


お金にはならないって分かってる。


でも、


私の体験が、


誰かの役に立つかもしれない。


やってみたいの……」


「看護師さんには、


話したの?」


「まだ。


何にも話してない」


少し間を置いて、


彼女は続けた。


「看護師さん、


メンタルの会だけじゃなくて、


仕事が終わったあとに、


子どもたちのベッドを回ってるでしょ。


ももとカールを連れて。


あれも、


ボランティアだと思うの。


それも、


私にできることがあるなら、


手伝ってみたい」


彼女は、


ももの背中をゆっくり撫でた。


「私ね。


この病院の屋上で、


生まれ変わったような気がしてるの。


将来どうなるかって、


今はそんなことより、


今、


何ができるのかを考えたい。


私、


もう決めてるの。


どう思う?」


「もちろん賛成だよ。


応援する」


「うん。


ありがとう」


私は、


彼女のことが、


少し羨ましくもあった。


自分の進む道を、


まっすぐ見つめている。


そんな彼女が、


輝いて見えた。


私はまた、


少しだけ、


置いていかれたような気持ちになった。


でも、


私は私のままで行く。


それでいい。


焦らなくていい。


そう、


自分に言い聞かせた。


彼女は、


突然立ち上がった。


「じゃあ、


今から一階のカフェに行ってくるね。


面接してもらえるかどうか、


とにかく聞いてくる」


「今から?」


「うん。


聞くだけだから。


すぐ戻ってくる」


そう言って、


そのまま部屋を出ていった。


*


十分もしないうちに、


彼女が戻ってきた。


「アルバイト、


させてもらうことになった!」


「えっ!」


私は、


思わず声を上げた。


「履歴書とかは?」


「名前を書いただけ。


ここの病院に入院してることも、


看護師さんの部屋に泊まってることも、


全部知られてた。


オーナーさん、


女性なんだけど、


看護師さんの昔からの友達だったの。


それに……。


屋上でのことも、


全部知ってた」


私は、


少し呆気に取られていた。


彼女の決断力と、


行動力には、


やっぱりかなわないような気がする。


でも、


私だって、


やる時はやる。


スマホとタブレットに、


別れを告げたことを思い出した。


……いや。


あれは、


少し違う気がする。


あの時は、


追い詰められて、


やるしかなかった。


そんな感じだった。


まあ、


そんなことはどうでもいい。


私は、


私のままで行くんだ。


今日は、


彼女と一緒に、


素直に喜びたい。


そしてその時、


私は、


神様の存在を強く意識していた。


彼女のために、


道が開かれているように思えた。


神様が、


導いてくださっている。


そんなふうに、


心から思った。


彼女は、


新しいミルクパックを開けた。


そして、


ももとカール、


それぞれのお皿に注いだ。


二匹は、


美味しそうにミルクを飲み始めた。


彼女は、


何も言わなかった。


でも、


二匹にも、


一緒に祝ってもらいたかったのかもしれない。


私は、


そんな彼女を見ながら、


少し笑った。

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