第169話 その鼓動は眠らない
私は2匹を抱きかかえながら、
命とは何か?
生きるとは何か?
彼らの鼓動を感じながら、考えていた。
答えは見つけられそうにない。
でも、
両手に伝わる鼓動は現実だった。
私は今、
命そのものに触れている。
この2匹は眠っていても、
その鼓動は眠らない。
私は単純な理解が好きだ。
眠っていても、
心臓も呼吸も眠らない。
この事実。
それは、
生きているからではない。
生かされているからに違いない。
これ以上、
人生を難しく考える必要などない。
そう思った。
神様はいる。
もう、
疑うほうが難しい。
私の腕の中で眠っている、
ももとカールが、
優しく教えてくれている。
*
「クゥーン」
「クゥーン」
目を開けると、
私のすぐ目の前に、
カールの大きな鼻があった。
びっくりして飛び起きる。
いつのまにか、
私も眠っていた。
カールのこの声は、
トイレに行きたい時の声だ。
私にも、
それくらいはわかるようになっていた。
ももはまだ眠っていたが、
急いで2匹を中庭に連れていくことにした。
看護師さんがいつもするように、
給水シートを一枚。
トイレに流せるシートを一枚。
「クゥーン、クゥーン」
カールは、
もう待てないようだ。
眠っているももを抱きかかえ、
シートを持って、
中庭へ急いだ。
*
中庭に着く。
事なきを得た。
これも、
命の大切な側面だ。
私は、
この病院の中庭から見上げる、
四角い夜空が大好きだ。
2匹を自由に遊ばせ、
私は空を見上げる。
子供の頃、
友達と星のことを話していた。
「あの光って見えるのは、
雨が降ってくる穴なんだ」
そう言っている子がいた。
何で今、
こんなことを思い出すのだろう。
心が軽くなっている証拠かもしれない。
どうでもいいことを考えたり、
どうでもいいことを思い出したりする。
それは、
心が休めているからなのかもしれない。
ももは花壇の縁に登って、
体をくねらせるように、
背中を擦りつけている。
カールは金網に前足をかけて、
街の灯りを眺めている。
何を考えているのだろう。
看護師さんの帰りを、
待っているのだろうか。
私も、
ももの隣で、
花壇の縁に仰向けになってみた。
風が気持ちいい。
濃い紺色の夜空。
雲の向こうから、
月が見えたり、
隠れたりしている。
まるで、
月が夜空の海を泳いでいるようだ。
すべてが、
動いている。
この宇宙に、
止まっているものなんて、
あるのだろうか。
*
今頃、
看護師さんと彼女は、
何を知らされているのだろう。
そう思った途端、
私の中で、
また始まった。
『神様……
神様……』




