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17 母の優しい声


苦しそうな様子はなかったが、無理されてるのかもしれないと思って、今日はこれで帰りますとだけ言って小さく手を振り、駅に向かった。


大丈夫なのだろうか?

気になるが考えても仕方がない。


その日、部屋に帰る途中で老人が今まで書いた言葉をひとつひとつ検証するように思いを巡らせていた。


休ませてあげますという言葉について、確か世界中の人が聞いたことがあると証言していると言っていた。


心の中に不安や恐れがあると、それが夢に出てくるように、起きている時に言葉となって幻聴のように聞こえてしまうことがあるのかもしれない。だとすれば、ある程度説明はつく。


多くの人が、不眠や仕事の悩みを持って疲れているのだから...


でも、私が聞いたあの休ませてあげますという言葉は、あまりにもリアルだった。

心だけで聞いたのではない。

2回ともこの両耳ではっきり聞いた。


あの老人はその言葉の説明をしようと思って、あの原爆の話を始めたのだ。


どんな繋がりがあったのだろう?


太陽がひとつという話もはっきり掴みきれない。

何を言おうとしていたのだろう?

神は唯一だと言いたかったのは分かったが、わからないのは休ませてあげますと言ったのが神だという説明にはなっていない。


私が八重子さんのケロイドの話を聞いて怖くなって、話が途切れたので、大切なところが聞けないままになってしまった。


それに、あの苦しくなった時飲んでくださいと書いてあった薬...


いづれにしても老人の年齢を考えると残された時間は長くはないはずだ。


私に伝えることができればそれで十分だとも言っていた。

この言葉も気になる。


だめだ...


やはりこれ以上考えると心にダメージを受けそうな感じがしている。


何か違うことに心を向けなければ...


部屋に入って冷蔵庫を開け、プリンを食べて深呼吸を繰り返してみた。

少しプリンの味が感じられるようになっている。


もう少し努力して食べなくてはだめだ。

たまご豆腐とお粥のバックを取り出し半分ずつだが食べることが出来た。


もどす感じはない。

嬉しい。

少し気持ちが楽になっている。


今日はこれ以上、老人のこととあの言葉のことは考えないことにする。


夜眠れなくても気にしないでいよう。


朝5:15

やはりあまり眠れなかった。

目が覚めたとき、ふと母に電話しておくべきだと感じる。

私のことを心配しているはずだ。


母からは連絡してこない。

私をそっとしてくれているのが分かる。


母を安心させたいが、嘘はつけない。

何て言おう。


考えること自体が心の負担になってしまう。


何も言えなくてもいい。

声だけ聞いてもらおう。

それが今の私に出来ることだ。


電話に触れる手が重い。


母が電話にでた。


「もしもし...」

母の優しい声だ。


「もしもし、お母さん...

.................。...............。」


泣き出してしまった。

言葉が出てこない。


母は

「いいよ...いいよ...電話くれてありがとう」

と言って声をつまらせた。


「うん...」

受話器を置いた。

それだけいうのがやっとだった。


かえって心配させるだけの電話になってしまった。


仕方がない。

これが今の私なのだ。


母が心配して今晩にでもここに来てしまわないだろうか?


何も考えないようにしよう。

医師の言葉を実践するんだ。


心に負担をかけない。

心に負担をかけない。


声に出して自分に言い聞かす。


また体が鉛になっていった。

私はなんでこんなややこしい病気になってしまったんだ...。

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