↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
145/255

第142話 知らないページ

翌朝だった。


三人で簡単な朝食をとっていると、


彼女が看護師さんを見つめて言った。


「看護師さん、話があるの。」


「なに?」


「入院患者として、この病院にいさせてもらって、


今もこうしてお世話してくださって……


本当に感謝しています」


私はその言葉を受けて口を開いた。


「彼女、


しばらく私の部屋で一緒に暮らすことになりました。


娘さんを探すために、


力を合わせたいんです」


看護師さんは、


コーヒーを一口飲み、


カップを静かに置いた。


「ありがとう。


私はもう遠慮しないよ。


あなたたちに甘えるって決めたから」


彼女の表情がぱっと明るくなる。


「嬉しい。


看護師さんの役に立てることが嬉しい」


そう言って、


看護師さんの両手を握った。


「娘さん、


見つかると思います。


やる気だけじゃないんです。


本当に見つかるって、


素直に思えるんです」


私も頷いた。


「私もそう思います。


きっと見つかります。


彼女も私も、


今は無職で、


これからのことを考えなければならない立場です。


でも、


私たちは神様の助けを信じています。


だから、


やれると思っています」


看護師さんは微笑んだ。


「分かった。


神の子どもたちの力、


見せてもらうよ」


私は、


遠慮されないことが、


こんなにも嬉しいものなのだと知った。


頼られることが嬉しかった。


看護師さんは微笑みながら言う。


「退院手続きはいつでもしてあげる。


都合のいい時に言ってくれたらいいから」


そう言って、


コーヒーを飲み干した。


     *


朝食を終えると、


看護師さんは勤務へ向かった。


彼女が私を見る。


「退院手続きは、


もう少し後にしたいの。


引っ越しも……


と言っても、


着替えくらいしかないけど」


少し笑って続けた。


「私ね、


何かをする時、


心がけていることがあるの」


私は黙って聞く。


「行動して、


考えて、


また行動する。


簡単に言えば、


そういうこと」


少し間を置いた。


「でも一番大事なのは、


最初の一歩は、


考えることじゃなくて、


行動することなの」


私はドキッとした。


私はいつも、


考えて、


考えて、


結局動けない人間だった。


胸を突かれる言葉だった。


彼女は続ける。


「今からすることは、


何も考えすぎない。


娘さんの写真だけ持って、


マンションへ行く。


そこで考えればいい。


私はそうしたい」


「それがいい」


私は素直にそう思った。


看護師さんから教えてもらった住所をスマホに入れ、


写真だけを持って、


私たちはマンションへ向かった。


朝食を終えて、


まだ十分も経っていなかった。


私の生き方とは、


まるで違う。


でも、


彼女はいつも、


新しい景色を見せてくれる。


     *


電車に揺られること約一時間。


駅から十五分ほど歩くと、


目的のマンションが見えてきた。


私たちは、


その建物を見上げた。


すると、


エレベーターから、


三十代くらいの女性が降りてきた。


彼女は私を見て言う。


「ちょっと聞いてみるね」


そして、


迷うことなく女性へ近づいた。


「あの、すみません。


この女性を探しているんですけど、


ご存じありませんか?」


女性は写真を見るなり答えた。


「よく知っていますよ。


四〇三号室に住んでいた人ですよね」


少し表情を曇らせる。


「ちょっと……


かわいそうで、


見ていられなかったですよ」


彼女の表情が、


静かに引き締まった。


私はただ、


その後ろに立ち尽くしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。