第136話 彼女の思い
私たちは昔からの友人のように、お互いを見ていた。
少なくとも、私にはそう思えた。
いや……
それ以上だったのかもしれない。
笑い声が少しずつ消えていく。
海岸に静けさが戻ってきた。
カールはまだ吠え足りないような顔をしている。
看護師さんは彼女の隣に座ると、
今度は私に手招きをした。
私は看護師さんの横に腰を下ろした。
何か聞きたいことがあるようだった。
「神の子どもたちに質問があります」
彼女がすぐに答える。
「はい。
神の子どもは何でも答えます」
そう言って笑った。
私は黙っていた。
看護師さんが口を開く。
「あの老人の手紙のことなんだけど、
神様は宇宙の法則みたいな無機質なものじゃなくて、
意思や感情があるって言っていたよね。
あれって、どういうことかな」
私は考え込んでしまった。
しかし彼女は、ためらうことなく話し始めた。
「神様なんかいないという人でも、
毎日朝が来て夜が来ることや、
太陽の光で花が育つことは認めますよね」
看護師さんは静かに頷いた。
「違うのは、
それが偶然だと思うかどうかです。
偶然なら、
誰の意思もないことになります」
少し海を見つめる。
「だから老人が言いたかったのは、
もし神様に意思も感情もないなら、
神様はただの法則になってしまうということなんだと思います」
私は彼女の横顔を見つめていた。
「でも神様は法則じゃない。
聖書には、
『神は愛です』
と書かれています」
私は息をのんだ。
これを迷わず答えた彼女に驚いていた。
看護師さんも同じような表情で彼女を見ている。
彼女は腕の中のももに微笑みかけた。
「法則なんかに愛されても、
ちっとも嬉しくないよね。
もも」
そう言うと、
看護師さんの方を向き、
年上のお姉さんのような穏やかな表情で言った。
「意思も感情もないものが、
愛であるはずがないです」
私は不思議な気持ちになっていた。
彼女は、
私の手の届かないところまで歩いていく人なのかもしれない。
そんな気がした。
看護師さんは月を見上げた。
そして、
小さな声で言った。
「明日……
子どもに電話する」




