第130老人の手紙 ⑪
私の中で、変化が起こり始めているようでした。
それは神という存在に対する私の思いの変化です。
私はあの戦争の残酷さや苦しさを体験して、神概念が歪められてしまっていたことに気がついたのです。
終戦間近の頃、日本の神が神風を吹かせて、必ず日本に勝利をもたらせて下さると心の底から信じていました。
私だけではありません。
あの頃、日本中がそう思っていました。
そう教えられていたからです。
まったく疑ってはいませんでした。
あの頃は、私は日本には日本の神がいて、アメリカにはアメリカの神がいると思っていたのです。
そしてアメリカの神は偽物の神で、本当の神は日本の神だと信じて疑いませんでした。
前にあなたにもお話したことですが、もう一度お伝えしておきたいのです。
アメリカの神、日本の神と考えることは、ほんとうに愚かなことだと気がついたのです。
それは夕陽を見て、あの夕陽はアメリカの夕陽ですか?
それとも日本の夕陽ですか?
と問うているようなものだと分かったのです。
日本人の神こそ本当の神だというのは、あの夕陽は、アメリカ人のものではなく、日本人だけのものだと声に出して言っているようなものです。
私はこの愚かさに目が開かれたのです。
戦争は身近な人間の命を奪っていきました。
そのために、怒りと恨みに心が支配されてしまい、神概念がとんでもない方向に向かっていったのです。
その間違いに縛られていたことに気がついたのです。
夕陽も月も唯一です。
神も唯一です。
日本人には日本人の神がいるというのは大間違いだということがはっきりしました。
敵対心が生み出した妄想で真実ではありません。
今の若い人たちにも、私たちの間違った時代の間違った神概念を受け継がせてしまっていると私は感じているのです。
あなたがあの海岸で、私のハーモニカを聞いて下さり、そのあと不安と恐れが消えていったと言ってくださった時、私はもう死んでもいいと思えるほど嬉しかったのです。
それだけではありません。
あなたもあの休ませてあげますという声を確かに聞いたと言って下さった時、あなたに私の体験したこと、私が知っていることをすべて話さなければならないと確信したのです。




