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第104話 偶然の罠

神を信じる――


神の子どもとされる特権――


本当にそんなことがあるのだろうか。


神を信じれば、


神の子どもとされ、


特権が与えられる。


私はまだ、その意味を完全には理解できていない。


けれど、


もし彼女のように信じて生きていけるなら、


どれほど心が軽くなるのだろう。


宇宙のすべてを創った存在が、


自分の父であるという感覚。


それはどんなものなのだろう。


もし本当に、


そのように受け取ることができるなら――


そのような父を信頼して生きていけるなら――


確かに素晴らしいことだと思う。


それでも今の私には、


どこか現実離れしているように感じられる。


しかし彼女にとっては違う。


彼女が立っている場所こそが現実なのだ。


むしろ、


神などいない。


この世界は神の創造ではなく偶然の産物だ。


そう考える方が現実離れしているように見えているのだろう。


私は考え込んでしまう。


もし、


すべてが長い時間をかけて偶然に生まれたのだとしたら、


私は何のために生きているのだろう。


その時、


重大なことに気づいた。


自分も偶然の産物だということに。


意味もなく生まれ、


意味もなく生き、


やがて死んでいく。


死んだら終わり。


私はこれから先も、


そんな死生観で生きていくのだろうか。


意味のない人生。


偶然から始まった宇宙なら、


私も偶然の塊だ。


偶然なら神の介入はない。


神の愛も、


神の意思も、


神の計画もない。


最初から存在しない。


偶然とはそういうことだと思う。


私は本当に、


この宇宙が、


この世界が、


すべての命が、


偶然にできたと思えるだろうか。


出来そうにない。


でも、


私はこれからも、


そちら側を信じて生きていくのだろうか。


神など存在しないという生き方。


すべては偶然の産物だという考え方。


私はそれに納得できるのだろうか。


その時だった。


彼女がももを抱いて何か話している。


カールが立ち上がり、


前足で彼女を抱きしめた。


ももに嫉妬しているようだ。


思わず笑ってしまう。


命は愛を必要としている。


動物も人間も同じだ。


愛が必要なんだ。


その瞬間、


ふと思った。


もし本当に、


この宇宙も、


この命も、


すべて偶然だとしたら――


愛とは何なのだろう。


父が、


「お前のためなら何でもしてやる」


と言ってくれたことも。


彼女が、


「あなたのためなら何でもするから」


と言ってくれたことも。


あの老人が、


最後の力を振り絞ってノートを書き上げたことも。


看護師さんが、


私たちのために時間を使い続けてくれていることも。


全部偶然なのだろうか。


私はそうは思えなくなっていた。


何かが分かりかけている。


何かが掴めそうだ。


でも、


まだ言葉にならない。

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