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第102話 隠された証拠

この中庭の花を見ていた。


いろんなことが頭の中を駆け巡る。


花。


太陽。


月。


夜空の星。


本当に全部、神様が作ったのだろうか。


分からない。


でも、偶然が重なり、自然淘汰が繰り返されて今ここに存在している――


そう考えることにも、違和感を覚えるようになっていた。


偶然が重なっただけだというなら、


私も、


この花も、


彼女との出会いも、


みんな意味のない出来事なのだろうか。


そんなふうには思えなかった。


花壇の花びらに触れてみる。


柔らかい。


生きている。



ももが食べ終わったのだろう。


私の膝の上に乗ってきた。


小さな体の重みが伝わってくる。


生きている。


命の重みが、ちゃんと伝わってくる。


この世界に存在しているものには、


すべて意味があるように思えた。


私はなぜ神はいないと思って生きてきたのだろう。


いや、違う。


そんなふうに考えていたわけじゃない。


考えてこなかっただけだ。



彼女がまた私の肩をぽんぽんと叩いた。


「なに?」


「神様は本当にいるんだよ」


「えっ!」


私は思わず振り向いた。


「何で急にそんなこと言うの?」


「言いたかっただけ」


「……私が考えてること分かるの?」


「分からないよ」


彼女は首を振った。


「神様は本当にいるって言いたくなっただけ」


カールが彼女の足元に来た。


そして左足の包帯に鼻を近づける。


そのあと、私を見た。


不思議だった。


何かを知っているような目に見えた。


私はお茶を一口飲んだ。


冷静になるんだ。


理性的に考えるんだ。


彼女の言葉も、


カールの行動も、


偶然だ。


神様の語りかけのように考えるべきじゃない。


そう自分に言い聞かせる。


しかし、その時もう一つのことに気づいた。


私はなぜ、


神はいないと考えようとしているのだろう。


何を守ろうとしているのだろう。



彼女がじっと私を見ていることに気づいた。


そして言った。


「神様はいない?


私にはね、神様がいないという証拠は一つも見つけられなくなったの」


そのあと、


彼女の口から衝撃的な言葉が飛び出した。


「でも、神様がいる決定的な証拠は、人間には隠されているの」


私は思わず身を乗り出した。


「なんで?


どうして?」


夜風が吹き、


彼女の前髪を揺らした。


そして静かに言った。


「信じるため」


「……信じるため?」


「そう。


信仰によって生まれ変わるため。


そうじゃなかったら、すべての人の神様にはならない」


私は黙って聞いていた。


「理解できる人だけ理解できる神様なら、


すべての人の神様じゃない。


何かが出来る人だけ受け入れられるなら、


それも、すべての人の神様じゃない」


私は言葉を失った。


それは彼女自身の知恵とは思えなかった。


気づかないうちに、


私の立っている場所が揺れ始めていた。

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