第102話 隠された証拠
この中庭の花を見ていた。
いろんなことが頭の中を駆け巡る。
花。
太陽。
月。
夜空の星。
本当に全部、神様が作ったのだろうか。
分からない。
でも、偶然が重なり、自然淘汰が繰り返されて今ここに存在している――
そう考えることにも、違和感を覚えるようになっていた。
偶然が重なっただけだというなら、
私も、
この花も、
彼女との出会いも、
みんな意味のない出来事なのだろうか。
そんなふうには思えなかった。
花壇の花びらに触れてみる。
柔らかい。
生きている。
*
ももが食べ終わったのだろう。
私の膝の上に乗ってきた。
小さな体の重みが伝わってくる。
生きている。
命の重みが、ちゃんと伝わってくる。
この世界に存在しているものには、
すべて意味があるように思えた。
私はなぜ神はいないと思って生きてきたのだろう。
いや、違う。
そんなふうに考えていたわけじゃない。
考えてこなかっただけだ。
*
彼女がまた私の肩をぽんぽんと叩いた。
「なに?」
「神様は本当にいるんだよ」
「えっ!」
私は思わず振り向いた。
「何で急にそんなこと言うの?」
「言いたかっただけ」
「……私が考えてること分かるの?」
「分からないよ」
彼女は首を振った。
「神様は本当にいるって言いたくなっただけ」
カールが彼女の足元に来た。
そして左足の包帯に鼻を近づける。
そのあと、私を見た。
不思議だった。
何かを知っているような目に見えた。
私はお茶を一口飲んだ。
冷静になるんだ。
理性的に考えるんだ。
彼女の言葉も、
カールの行動も、
偶然だ。
神様の語りかけのように考えるべきじゃない。
そう自分に言い聞かせる。
しかし、その時もう一つのことに気づいた。
私はなぜ、
神はいないと考えようとしているのだろう。
何を守ろうとしているのだろう。
*
彼女がじっと私を見ていることに気づいた。
そして言った。
「神様はいない?
私にはね、神様がいないという証拠は一つも見つけられなくなったの」
そのあと、
彼女の口から衝撃的な言葉が飛び出した。
「でも、神様がいる決定的な証拠は、人間には隠されているの」
私は思わず身を乗り出した。
「なんで?
どうして?」
夜風が吹き、
彼女の前髪を揺らした。
そして静かに言った。
「信じるため」
「……信じるため?」
「そう。
信仰によって生まれ変わるため。
そうじゃなかったら、すべての人の神様にはならない」
私は黙って聞いていた。
「理解できる人だけ理解できる神様なら、
すべての人の神様じゃない。
何かが出来る人だけ受け入れられるなら、
それも、すべての人の神様じゃない」
私は言葉を失った。
それは彼女自身の知恵とは思えなかった。
気づかないうちに、
私の立っている場所が揺れ始めていた。




