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神威(カムイ)の流転と聖なる詩片  作者: カムイ ピリマ(神はひそかに教える)
第壱部 『神威息衝く古代國』編
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第31倭 原典の 絶望超えて 此処に十界直霊せん 【後編】

其之陸 総て救う覚悟の下に 三位一体直霊せん(スセリ・イザナミ・楓之章)



 それは……純朴な乙女「スセリ」には、およそ解する事敵わぬ所業の連続であった……。


「あぁ、あぁぁああっ!! いやぁ、いやぁぁぁっ!!」


 余りにも浅はかで……甘かった。

 スセリは、大凬(レラ)の四氣王の試練で、「解った」つもりであったが、まさに「つもり」であったことを痛感させられる。


 地上から連れてこられた民達が、およそ存在してはならない姿へと「書き換えられて」逝くさま……。


「こんな獣がいたら面白くてよろしいと思いますわ!」


 民を護らんとする神威達に齎される、およそスセリの想い描ける限りなど、塵埃に帰す非道の所業。


「アーッハッハッハッ!

 こうすれば運びやすくてよろしいですわ!」


 抗うも、羽虫の如く叩かれては圧し潰されてしまう。

 そして、狂笑と共に蹴鞠の様に丸め直霊される神威達。

 そのまま怨嗟だけを搾り取られ告発の担い手(サタン)への供犠とされている。


「本に面白いですわ。

 抗いても徒労に終わりますのに。

 羽虫共の『想い』とやらは……珍妙でございますわ」


 絶望の淵に追い込まれ、自神の存在が崩れ去る直前……。


 それは、スセリの内に宿りし真なる根源神威之妹(イザナミ)の、懸命なる叫び(ピリマ)だったかもしれない……。



 浮かび上がる情景……。

 喜び合う二神。

 抱くは……前乃世のスサノヲ……。


「観て我が背!

 実(げ)に素晴らしき神威、ここに産み直霊致しましてよ!」


 イザナミは、ふらつきながらも満面の笑みで、産まれ直霊仕立ての赤子を大切そうに抱いて、最愛の神威へと歩み寄る。


「なんと! これは……『ナミ』、本当によく頑張りました!

 この子は本当に素晴らしいです!

 まさに僕の後を継いで太陽之神威(ウトゥディンギル)……いいえ、統治之神威(シュメールカムイ)と成る程の『器』の持ち主です……!」

 

 内に秘めた類稀なる権能をイザナギは見抜く。

 そして、無事の産まれ直霊に対し、彼は心底喜んで己の妹(いも)を赤子ごと丁寧に抱き上げる。


 二神で子神の産まれ直霊を心底喜ぶ光景……。

 告発の担い手(サタン)に「書き換えられる」前の……無垢なるイザナミの姿……。


(ね、わかるでしょ……?

 『あれ』は『ナミ』であって『ナミ』じゃないの。

 ……聴こえるでしょ? 彼女の嘆き(ピリマ)……)


 内なる楓の言の葉に、スセリは己を鼓舞し、怨嗟の総てと真寧に向き合う。


 想いを決めた途端、次なる情景が観えてくる……。

 それは、流転の幕間、その狭間のみ正気に立ち還りては、己の所業を心底恨む彼女の慟哭……。

 イザナミは、この刹那の刻に、告発の担い手(サタン)の記述に抗う神威を溜め込んでゆく……。


(……前回は……英雄王(はむし)に差し上げてしまいましたが……此度は……!)


 彼女の莫大な霊力が凝縮されてゆく……。

 それは穏やかで優しい蒲公英の黄色を帯びた御魂……。


「……わたくしは流転のたびに『狂気』に支配されてしまいますわ……。

故……わたくしの持ち得る霊力(ヌプル)と、『善かれ』の想念(イレンカ)を……。

 『あなた』に籠めて託しますわ……。

 どうか……『我が背(ナギ)』と『掌を取り合いて』世界を直霊せん事叶いますように……!」


 スセリは……慟哭する。

 決して恐れや絶望からではない。

 逃れられぬ絶望の中でさえ、一縷の望みに賭けて『すべてを救わん』と欲していたイザナミの、万物への慈しみの想いの広さと深さに。

 スセリの眼に新緑の輝きが戻ってくる。


「……ありがとう……根源神威之妹(イザナミ)さん……。

 あなたが身命を賭して注いでくれた『善かれ』の想念(イレンカ)が……ボクだったんだね……!

 二重(ふたえ)に浅はかでごめんね……!

 あんなこと……したいはず……ないよね……?

 だって……元気な赤ちゃん……嬉しかったもんね……?

 ボクとイザナミさん……どこも違わない……。

 悪いのは……悪いのは……!」


(そうよ。でもね……。

 『告発の担い手(かれ)』ですら、もしかしたら犠牲者かもしれない……よ?)


 楓が最後に齎す助言(ピリマ)。


「……うん。そう、そうだよね……。

 イザナミさんのように……。

 ボクは……『万物への慈愛』で、すべての存在と向き合って関わるよ!」


 瞬間、怒涛の様に流れ込む怨嗟の濁流。

 あまりの昏き重圧に、己の中からすべてを吐き出してしまう。

 唇から……眼から……すべてから。

 そして、全身からも。

 入り込んだ怨嗟の重さだけ、霧のように噴き出る真紅の霧。


(私も一緒に受け止めるわ……!

 一緒……だよね?

 大切な『竜輝《あのこ》』と世界の為に、『何をしても』、『何があっても』隣に並んで歩み続ける……そう『覚悟』したよね?

 なら……それなら……私の想いは……絶対に揺るがないわ!

 スセリちゃん! 貴女は? 貴女も……だよね!)


「楓ちゃん……! うん! ボクは……『ボクも』!

 『何があっても』『何をしても』……ゼッタイゼッタイに、『ヤチのそば』で、一緒に一生……『同じ目線で』歩いていく!!」


 魂の底からの覚悟に反応するのは……「大いなる真理」……。 


《……統治之神威(シュメールカムイ)と並ばんと欲する者よ……。

 其は、『万象に掌を差し伸べて 弥(あまね)く救い直霊せん』存在と成りし『覚悟』、持てるや否や?》


「持てます! ボクはもう決めたの!

 だからゼッタイ頑張るよ!」


 常に魂の在るが儘、素直に湧き上がる想いの儘に動くのが彼女、スセリ。


《……さすればすべてにおいて己より他者を慮り、慈しみを以って万象と接するが良い。

 妬み、嫉み、羨(うらや)み……怒り、恨み、我の欲す望み……。

 棄てず抱きてなお遣わんと叶うや否や?》


「する!

 遣ってしまっても、遣わないように頑張って、出来る様になってみせるよ!」


 スセリに響く、「大いなる真理」からの賛辞するかの如き笑い声……。


《直向きなる事……実に素晴らしきなり!

 さすれば此処に顕れ直霊叶わん……!

 受け取るが良い……。

 そして、過ちを犯せど直向きに『善かれ』の想いで歩むが良い……》


 朱金之光と共に「大いなる真理」……その顕現は去ってゆく……。


「あぅ……!

 な、なんか……ヘンだよ……!

 何かがボクから……出てきちゃう!」


 それは……深紅の怨嗟。

 観る間に勢いを増してゆき、視界を埋め尽くす程に噴き上がる。

 反射的にスセリは真寧に祈りを籠める。


(……後生善処……。

 次はもっと幸せになってね……。

 辛さは……ボクが引き受けておくから!)


「――『壱霊肆魂究極之直霊(いちれいしこんきわみのなおひ)』……!!」


 至極当然の事の様に、スセリが口伝に唱える究極神呪……。

 瞬く間に深紅の怨嗟は癒し直霊され、幸せそうに光を放ち、輪を廻らんと、さらなる天へと還って逝く……。


(……安寧なる流転の果てへと誘(いざな)われんことを……)


「……? え? いま、ボクが……想って……唱えた……の?」


 瞬時に「そうですわ」と、己の内より湧き上がる囁き(ピリマ)。


「え? こ、この感触……なんか……根源神威之妹(イザナミ)さんとボク……一緒になっちゃったの?」


 胸中に浮かぶ囁き(ピリマ)。

「その通りでございますわ」。 


(……とぉっても良いと想うよ、その想念(イレンカ)……。

 さすがは……『ナミ』の『良心』の結晶……ううん、さすがは『スセリちゃん』……ね!)


「楓ちゃん……!

 楓ちゃんとは……一緒じゃないんだね?」


 すると……「重なることも……ほぉら、出来るのよ」と、スセリの胸中に湧き上がる助言(ピリマ)。


(御安心なさい……わたくしもこのように別れる事も叶いますわ。

 『我が背』と其方が……。

 『睦言』に励まんとする刻などは……。

 こうして『離れること』叶いますから……安心して励まれると宜しいですわ……)


「む、睦ごっ……!

 そ、そんなのなんて、ヤチとじゃまだまだずっとずっと……」


 乱れる想いに巻き上がる新緑の旋風。

 共に舞い踊る朱色と栗色の花吹雪。


「なぁにもぅ、私たち相手に言い訳なんて、いらないわよ、ね?」


 楓からの、少しだけ呆れるような微笑みまじりの囁き(ピリマ)。


「実に正鵠を射ていますわ。如何なることも己の……」


 楓に共感し、覚悟を述べようとするイザナミの助言(ピリマ)。


 スセリは、察し、蒲公英色の髪を揺らして薄紅色に頬を染めるも、力強く迷わず頷く。


「そうだよね……!

 何がボクに起きたのか、何を授かったのかは……。

 ちょっと今のボクには難しいな……?

 でもね、『ふたりともっと仲良しになれた』……。

 それだけは……すごくわかるよ!」


 眼を輝かせてスセリは前方を見据える。

 瞬時に巻き起こる、新緑と朱色と栗色の三つ巴の旋風。

 心地良く吹き抜けてゆく大凬(レラ)が、当たり前の様に告発の担い手(サタン)の齎した虚無を、優しく微笑み詠い直霊していく……。


「ヤチ、お待たせ!

 ちゃんと、『みんな一緒に』ヤチのとなりに還ってきたよ!」


 かつての「ヒルメ」の境涯へと、想い顕し歩み始めた今のスセリには、「自分とヤチホコ」への絶対なる信頼と、「十信の位階」其之一、「信心」が魂の輝きとして放たれていた。



其之漆 業焔に 焼かれ顕れ直霊せん(ミケヒコ之章)



スセリは、自神の「還るべき処」であるヤチホコの腕に、そっと腕を絡ませる。


(なんでかな? 前と全然違う想い……?

 そ、その……ね、『好き』なんだけど……こう……もっと穏やかと言うか……不思議……)


 それは、ヤチホコが、すべての存在に抱く根源的な慈愛に近い想い。


(ふふ、そのうち解ると想うよ)


 楓の含みのある囁き(ピリマ)。


(その境涯に立ちて、なお『溢れる想い』ある刻こそ……儀を執り行う時宜(じぎ)ですわ)


 真寧に伝えるイザナミの助言(ピリマ)。


「どうも、ボク、よくわからないみたい……」


 自神の変化についていけず戸惑うスセリの感想(ピリマ)。


 気を取り直し見つめる先……。

 未だ彩の喪われし世界に捉われているミケヒコ。

 そしてそれを支えるように寄り添うヒメ……。


「……己が『魂(ラマトゥ)の在り方』を見い出せしおれ達には……このような技通用せん。

 それは……憔悴しきり蹲りし我が妹ミチヒメが、どこ吹く風と佇むさまでわかるだろう」


 観ると、ミチヒメは先程の儘、何事もなかったかのように、座り込んで青龍の快癒を受け休んでいる。

 彼女の四方を、鎮護の為囲む四人の緋徒(フィト)達も同様に、何事もなかったの如く佇んでいる。

 タカヒコは、最後に遺りし「回帰の呪檻」を見据える。


 「だが、想いに惑いあるものには……。

 この上なく恐ろしいものと成り苛まされるだろう……。

 しかし、その辛苦すら……」


 全てを看破して述べるタカヒコの言葉の先を続けるミカツヒメ。


「想いの丈で……己を磨く『最高の行』と成り得ますわ」


 穏やかに満面の笑みを浮かべ彼女は応える。


「……うん。

 それは何となく……ボクも解る気がするよ。

 あ、じゃぁ今のミケヒコくんも……!」


 以前とは種類の違う鋭さにヤチホコは感嘆して続ける。


「その通りですスセリちゃん……!

 『彼』は僕等を侮り過ぎました……。

 間もなくその因果が廻ると想います……!」


 ヤチホコの言葉が示す処は正鵠を射抜けないが、観ずる先を信じてスセリは頷く。

 そして自然と真寧に祈りを籠める。


「……息災延命所願成就……!」


 すると居並ぶ面々の氣力を纏め上げる。

 それは、祈りの力としてミケヒコ達へと注がれてゆく……。


(ミケヒコくん……ヒメちゃん……信じてるよ……!)


 静かにヒメが拳を握り締め、高々と突き上げる。


「どうやら……告発の担い手(サタン)は、僕達をこの世界に引きずりこむ事に専念しています……。

 待ちましょう。ミケヒコの還りを……!」


 ヤチホコの言葉に一同、真寧なる祈りを籠めて、ミケヒコとヒメを観護る。



 告発の担い手(サタン)の齎した魂の霊廟、「回帰の呪檻」。

 その中で、彼はミケヒコ目掛け爆炎を放つ。

 ヒメの援護も間に合わず襲い掛かる炎を、遥か下方から、霊体と化し顕れたオオトシが、磐船に集束させた四氣王の氣力を以って翻し直霊する。


「……心して……受け取りなさい、ミケヒコ……!」


 なんとオオトシは、サタンの放った漆黒の業焔を、ミケヒコへと注ぎ込む。

 それは……絶望と終焉の執念(イレンカ)を含む破滅の業焔。

 炎に呑み込まれたミケヒコが観せられし真なる絶望。


「……オレは……前乃世でも……根源神威之妹《ははうえ》を焼き祓い、深手を負わせた……。

 彼女を「石女(うまずめ)」にしてしまった……。

 彼等が使命……国生み、神産みを阻む最凶の災難……。

 故に、消沈し塞ぎ込むイザナミ。

 そこに付け入り齎された道化師の「深紅の怨嗟」……!

 彼女の姿を眼にし、怒り露わとした根源神威《イザナギ》たるヤチホコに斬り刻まれて、輪を廻った……のか……」


 ミケヒコは力無く跪く。

 自身への嫌悪感溢れる中、魂に響く「神威之啓示(カムイピリマ)」。


『……復讐したいであるか……? さすれば権能貸し与えん』


 響くのは、日向の祖神「ホアカリ」の助言(ピリマ)。


「復讐? 悪かったのはオレだろう?」


『産まれ直霊し赤子が、如何様なれど罪などあるべくもない』


 ホアカリは慈悲深く正鵠を射抜く。


「……。

 そう、だ……。

 オレは……それが言いたかった。

 だが、犯してしまった事は元に還せぬ。

 唯一の救いは、ヒメも母上も健在である事。

 オレは……この幸せを噛み締め、『護らんが為』であるならば、如何様な力なれど『強く欲す』!!」


『……フン。

 「統治之神威(あやつ)」には想う処ありき故……。

 少々懲らしめんと致さば……あろう事か、己が裔に諭されるとはな』


 ホアカリは、閉眼して遥かないにしえに想い廻らせる。

 しばし後、不敵に笑う。


『……其方があやつを上回りし存在となれば、我も胸のすく想いとなるであろう。

 よかろう。

 我が権能「貸し与え」ん!

 詠うが良い、緋徒《フィト》乃詩を。

 そして己が身へと……禁呪、「神威降臨乃儀(カムイトゥス)」を発し、我を顕現させるが良い!

 その為の巫女はそなたの傍についておるであろう?』


 ミケヒコは刮目し、ヒメへ振り向き、深々と長揖して願い奉る。

 そして朗々と詠い上げるは……「緋徒乃詩」。



「『緋徒(1)よ、此処の(9)蓋(2)、十六夜(168)の、緋徒(1)よ、緋徒(1)よ』!

 この詩に秘められし権能を以って、我は理を書き換えん!」


 突如上空に出現した荘厳なる門が、重厚な音を呪檻中に響かせて開闢(ひら)れてゆく。

 そして彼は、己が巫女を見据えて裂帛の気合を籠める。


「――ヒメよ!

 根源の巫女の権能(チカラ)を以って無理筋徹し、我が身へと祖神を降臨させ給え!」


 ミケヒコから届く真寧な、しかし強欲な想い。


「――ミケヒコ!

 承知いたしました。

 参ります……!

 我が捧げし想いの祈りにて、祖なる神威よ、先々を護らんが王に力貸し与えん事を!!」


 ヒメが全身を七絃に輝かせ神呪を発動させる。

 それは、祖神顕現(カムイ=エウン)の資格なき者が「力を強く欲す」為に編み出した禁呪、「神威降臨乃儀」。

 有無を言わさぬ呪法を以って、今、祖国日向(ひむか)の聖なる火の山より祖神が覚醒する。

 そして、瞬時に虚空を翔け昇り、世界を純白に染め上げる程の、白色に輝く火炎を纏い天界に顕現する。


「天火明(アメノ・ホアカリ)、此処に顕現せん! 我が裔よ、我を『強く欲せよ』!!」


 火明は、回帰の呪檻目掛けて燃え盛る天降りし岩の如く降り注ぐ!

 放たれし禁呪により、ミケヒコへと無理筋徹し「呪縛」されゆく。


「ぅぅぉぉおおっ!

 オレは、何があろうと『オレの想うがまま』……!

 禁忌の権能、強く欲っさんッ!!」


 己の身の丈を遥かに超える権能の奔流が、ミケヒコの身体を、魂をまさに「燃やし尽くして」ゆく。

 至る処の毛細血管が破裂し、さながら炎のように噴き上がるも、一向に構わずミケヒコは己が身に火明を受け入れてゆく。

 先の焔王の試練の際に瞳に宿した「赫之紅蓮」が、全身を「喰らい尽くさんばかり」に覆い尽くしてゆく。


「――ミケヒコ!

 何卒……超えて下さいまし!

 荒魂(あらみたま)たるミケヌイリヒコよ、ワラワを直霊とし、調和魂(にぎみたま)たる天火明と掌を取り合いて祖神顕現顕し給え!!

 発動、神威降臨乃儀(カムイトゥス)!!」


 ヒメは両掌を胸の前で組んで跪く。

 そして、真寧な祈りを籠めて爆炎を見つめ禁忌の神呪を発動させる。

 

 空間中を覆い尽くさんばかりに拡大していた、鮮血の朱霧と赫之紅蓮が、虚空で静止し、爆縮する様にミケヒコに還ってゆく!


 それは、ミケヒコ自身までもが圧し潰されんばかりの凄絶な勢い。

 練炭の如き人型の黒塊から浮かび上がるは、荘厳なる神威の雷光。

 迸り付与される直霊のヒメの霊力。

 女神の幻影と化した彼女の両の掌に携えられしは、荒魂と調和魂。

 それを己が胸中へと納め直霊した途端、幻影は黒塊へと降ろし直霊されてゆく。

 瞬間、響き渡る火山の咆哮の如き轟音。

 爆音と共に噴き上がる「赫之紅蓮」に黒塊が吹き飛ばされる。

 虚空に浮かび顕れるは、全身に赫之紅蓮を纏い、天も地も覆い尽くさんばかりの莫大な紅蓮の氣力を秘めた存在、「日超至火之王(アメノ・ホアカリ)」。

 

『――貴様のこの無理筋は長く持たぬ。

 さぁ、忌々しき根源神威(イザナギ)に見せ付けるが良い!

 陽光(トカㇷ゚チュㇷ゚)すら阻み遮り猛り狂う、日を超えし『赫之紅蓮(シパセ=アラフレ)』を!!』 


 ホアカリの檄で、告発の担い手(サタン)の眼前に降り立つ。

 それは、かつてスサノヲの予見にあった「日超至火之王」。

 今、ミケヒコは神威ならぬ身に無理筋徹しその権能を揮う。


 その刻、告発の担い手(サタン)の待つ玉座へと、「根源の国」より「湖面を照らす優しき神威」と化したミヅチと、「倉稲之魂」と化したキクリも舞い戻る。


 瑞月は、キクリより受け継いだ大地の氣力と、自神の大海の氣力で鏡背と鏡面を織り成し、瞳には優しき月光が宿る。

 倉稲之魂(ウカノ=ミタマ)と化したキクリからは、究極の陽数を顕す、山吹色の豊かな九尾が神々しき白金色の霊光を放って輝いている。

 そして、快癒を終え、ミチヒメも力強く立ち上がる。


 覚醒した仲間たちに囲まれ、銀髪紅瞳のヤチホコは、居並ぶ皆の背後に浮かび上がり静かに告げる。


「告発の担い手(サタン)。ここに今『十界の顕現』集いしなり!」

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