表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神威(カムイ)の流転と聖なる詩片  作者: カムイ ピリマ(神はひそかに教える)
33/35

第20倭(前編) 攻防の都 大地の試練

其之壱 口にする温もり、語らずとも届く想念


 ヒメは、純陀チュンダ謹製の、「神秘の霊薬」とも言える粥を、心行くまで堪能している。


「……なるほどね。新たな身体ケゥエ氣力トゥムが全く足りていないのね。良いわ、任せて。彼の者に根源の生氣を……付与生氣呪(ラムハプル=トゥム)!」


 雷鳥フミルィを目覚めさせた刻同様、ミチヒメは莫大な氣力トゥムを解放しヒメへと流し込む。


「あぁ、これは……この情景は……!」


 銀髪をうねらせ雄々しく構える巨躯。傍らには恐らく自神であろう巫女。戦慄を覚えた二神が迎え撃つは……。


――バチィィンッ!


 雷ノ神威(カンナ・カムイ)を浴びせられたかの様に、付与していたミチヒメの両掌が弾け飛ぶ。


「――痛っ! な、何今の? ヒメちゃん平気?」


 心配してミチヒメはヒメの法衣を捲るが、傷跡一つない。


「……ご心配いりませぬ……。恐らくは可能な限り、氣力トゥム頂けたかと存じます。ミチヒメ、ありがとうございます」


 礼を述べ、ヒメは先ほどの情景を思い出し思案している。


(あの情景……恐らくは前之世の出来事……。『根源の巫女』重なりし故の想起でありましょう……)


(……ヒメ殿のご推察の通りです。偶然ですが根源の氣力トゥム霊力ヌプルが一つに重なりかけた為、ラマトゥに封ぜられし『廻られし記憶』が想起された模様です……)


「こ、これは……雷鳥フミルィ殿の囁き(ピリマ)が……!」


 思わず声を上げるヒメに、ヤチホコは驚いて尋ねる。


「ヒメさんも雷鳥フミルィと想念で会話可能なのですか?」


(……可能です。今、彼女の『感応の力』は、根源たる『神謡者カムイ・ユカラ』に準じます。それは現在の想念者マスターをも超えます……)


「成程……斯様な事に。雷鳥フミルィ殿ご教授感謝いたします。……ヤチホコ殿、必ずや次こそ、彼の者弄せし策、この瞳にかけて見抜きて打ち破らん事を」


 拱手と共に、ヒメは驚嘆するヤチホコを真っすぐ見つめて誓う。頼もしいと頷き、ヒメの想いに輝く腕でヤチホコも応える。ヒメの氣力の充実に対し、喜び露わにミケヒコが駆け寄る。


「ヒメ、良かったな! 今の状態ならば、オレと比武叶う程に強き氣力(トゥム)を観じるぞ!」


 恐らくはそれも可能と。しかしその氣力トゥムを『瞳』に集めれば、観えざる理までとらえる事叶うとヒメは一同に伝える。


「前から素養はあったけど、今はそこまで観えるのね……!」


 神威之眼(カムイ・インカラ)を遣えるミチヒメが感心する。


「先に観えし情景から、恐らくは刻を超えて観ずる事叶うかと。――ヤチホコ殿、雒陽(ルゥォヤァン)、彼の者の手に落ちております……!」


 瞬間、ヒメは鋭く目を細め都の上空を睨む。ヤチホコとミチヒメも見遣るが、以前同様格子状の数理に張りめぐらされている。


「どう言う事? 前と同じように観えるわ?」


 ヤチホコもミチヒメと同様に、以前と変わりなく観えるらしく頷いている。


「……我が『愛すべき主』、これは、「数理」自体が書き換えられています……!」


 一瞬、女神の姿に戻って都を見据えカンナが戦慄く。


「格子状の数理自体、先の伏犠殿と異なる記述が張り巡らされております。このまま向かわれる事、実に危うきかと――雷鳥フミルィ殿、其方の『眼』、暫しお貸しくだされ。参ります……万象の理よ、我の前に真なる姿顕し給え! 『真理眼(シンノ=インカラ)』!」


 雷鳥フミルィの眼より、「七弦真理」の虹色に輝く光が縦横無尽に放出され、万象を見抜く!


「観えました。『数理の檻』の網目をすり抜けし処、大地の女神が施されし『狭間の大地』、あそこへ降り立ちます。雷鳥フミルィ殿、ワラワの想いのまま動きて降り立ち下さりませ!」


 ヒメと感応した雷鳥フミルィは、船体を翻し、数理を読み解いて網目を潜り抜ける様に目的地へと着陸する。


「……恐らくは管理者の眼、免れしかと存じます。今のうちに」



其之弐 憂う女神、向かう試練


 一行はヒメの先導の元、監視の網を潜り抜けて宮殿内部へと向かった。順帝の座の奥、真なる玉座にて待つは……女媧ただ一神であった。


「お久しぶりです女媧さま。ヤチホコ、陽の氣修め舞い戻りました。外の数理は? そして……伏犠さまは?」


 途端、憂い露わに女媧は項垂れる。


「彼のジェスターに数理の檻、書き換えられし事存じております。――斯様な事を! 組み上げし数理完璧故、一点の綻びにより崩壊へと誘われ、虚を突かれ書き換えられしでありましたか」


 看過するヒメを、女媧は驚愕の面持ちで見つめ返す。身体を成すは如意宝珠(イレンカ・タㇰ)、見据える瞳は「七弦真理」を宿す虹色の真理眼。


「……良くぞ戻られました、創世の筆ヤチホコや、久方ぶりでございます。其方も、その伴侶もまた一つ道を進み事、この女媧、しかと観じておりますわ。そして、そこな乙女(メノコ)よ……まさに、『世界照覧者(モシリインカラ)』と相成りましたか。……左様、この国の現状、そなたの見抜きし通りでございますわ」


 女媧は、大地の女神たる威厳を保つも、その掌に持つ蘆笙(ロショウ)の震えを隠しきれなかった。天を仰ぎ、小刻みに震えし薄紅色の美しい唇に含み、美しくも悲哀を観じる音色を奏ではじめる。すると、虚空に格子状の縛鎖に捉えられし伏犠の姿が浮かび上がる。


「我が背は……己が綴りし『完璧なる数理の迷宮』に閉じ込められております……! 彼の管理者ジェスターは、数理の檻の破れぬ事を逆手に取り、『歪み』を一文書き入れる事により、己自らを閉じ込める檻へと変貌させてしまいました。ただ一文、『数理の管理の残酷さ』を書き込まれた事により、自責の想念イレンカに苛まされ、自らを閉じ込めてしまったのでありますわ」


 大地すべてが悲しむような氣力トゥムが辺りを覆う。


「平和の為、切り捨てざるを得ない処もありました。まさにそこを突かれているのですわ。今、一文数理が綴られる度、『棄てられし怨嗟(ウェンイレンカ)』に苛まされ、我が背のラマトゥは斬り刻まれております……! 妾の愛の想念(イレンカ)が、どれほど地脈振るわせ叫びしも、それすら『悲鳴の記述』に書き換えられ届く始末……冷徹な数理施すには、我が背は優しすぎたのですわ……」


 女媧の瞳から、慟哭を顕す琥珀色の滴が溢れ、床に落ちる度に輝く瑠璃へと変わる。


「……我が愛すべき主。私に連なる『赤子』を助けに行ってもよろしいでしょうか?」


 背負いしカンナの静かな囁き(ピリマ)。ヤチホコは深く頷く。


「……ならばかつて比武されし空間へ。数理の迷宮存在せんが処へと、妾が誘いましょう。こちらでございますわ」


 女媧がそう言いながら蘆笙ロショウを奏でると、音色の響く先に扉が顕れる。

 するとヒメが、ヤチホコが背にするアメノオハバリ(カンナ)へ手を差し伸べる。カンナは静かに宙に浮きその小さな掌に収まる。


「我が主よ、ここは因果を見抜く彼女と一緒に向かいます」


 浮かび上がる情景の、更なる深淵を見抜きヒメも頷く。


「おそらくは、ワラワが適任かと存じます。そして……」


 ヒメの見遣る先は、拳を握り締め力強く頷くミチヒメ。


「わかったわ。一緒に行きましょう、ヒメちゃん、カンナさん!」


 扉を潜る彼女たちを見送ると、女媧はキクリへと向き直す。


モシリの乙女……今世はキクリ、そして虚空ニスの遣い手たる新たなる創世の筆、ヤチホコや……。今の内でございます、此処の地下深くより繋がりし霊山へと案内あない致しましょう。陰陽一柱ずつ手にし今、モシリの四氣王と契る事叶いますわ。その力を以って彼女たちを助け、何卒我が背をお救い下さいまし」


「解りました。行きましょうキクリ姉。オオトシ兄、スセリちゃん、そちらはよろしく頼みます」


「……ミヅチも、ここでおにいさまの楯になります。お気をつけて」


 一行に抱拳の礼をし、健気に見つめるミヅチの頭を優しく撫でる。

 そして、大地の胎内とも言うべき洞窟を、女媧に誘われてキクリとヤチホコは進んでいく。



其之参 怠惰の大地、絶望の風

 

 ヒメ達に続き、ヤチホコ達が大地の深淵へ消えた直後、得も言われぬ気怠い熱気が庭園を包み込む。


「……ああ、本当に面倒。どうしてキミ達、大人しく消去(デリート)されてくれないのかしら……」


 揺らめく蒸気から顔を覗かせ顕れたのは、真輝金(オリハルコン)の仮面を斜に被った道化師の乙女。佇まいから年の頃は今のヒメと同程度であろうか。


「ヒヒッ! 『八大罪障ウシュ ナムタグガ』の一柱、アケィディア。キミの『怠惰アドゥズィ』でコイツ等を生ける屍に変えちゃえ! ヒャハハハ!」


 上空には煌く黄金の城。響き渡る道化師の狂笑。それに対し、気怠そうに手を振り、一行を見遣り、溜息の様な「想いの息吹」を投げかける。うねる様に庭園の土が盛り上がり、暗緑色の油粘土の様にぬめる肌と、黄泉の大穴の様な眼を携える潜土蛇竜トィヤラサラゥスが数体、地響きと共に咆哮する。


「アイツは『モシリ』! ならボク達が。……風猛りし刻 大地を崩し古びさせ滅す――『風神斬刃レラカムイエムス』!!」


 スセリは大凬(シパセ=レラ)を纏い、班勇と共に風の刃を放つ。

 軽い溜息と共に、事も無げに構える彼女の掌より放たれるは「猛りし地の理」。

 空を乱舞しながら襲い掛かる刃が、瞬く間に緩やかにその動きを止められ霧散する。それと同時にスセリと班勇も凍り付いたように動きが止まり、足元に開いた昏き大地の咢に呑み込まれてしまう。


怠惰アドゥズィが命ずる。……『隔離冥界之大地キ・ガル ディドリ』。……風の隔離アイソレーション……完了。永久とこしえに昏き大地にて微睡みなさい……」


「スセリ! 班勇殿!」


 ミケヒコが剣撃で咢を狙うも間に合わず、うねる様に咀嚼する様に、元の地面へと戻ってしまった。


「おい! 二人は何処へ! 返答次第では、幼き乙女メノコと言えど……容赦せん!」


「あぁ……お前たちは……これの相手をしてると良いわ」


 モシリ氣力トゥムを猛らせて、潜土蛇竜トィヤラサラゥスが暴れ狂いながら襲い掛かってくる!


 ミケヒコとオオトシの二人が炎の剣閃を放つも、見る間に炎が消沈し霧散する。。


「くっ、五大の理を最大に遣いしか。猪口才な――火猛りし刻 地焼き尽くすなり! 極めて猛ろ! オレのアペよ! ぅぉおおおおっ! 炎神之(イレス=カムイ=)竜巻(ペウプンチセ)!!」


 己のすべてを猛らせて、ミケヒコの火災旋風が潜土蛇竜達へ襲い掛かる。


「……モシリアペ喰らい新生せよ……」


 アケィディアが軽く指先で円を描くと、暴れ狂う火炎を喰らいつくし、焼成された大地の鎧を纏って潜土蛇竜は咆哮を上げる。


「これは……。我々アペでは撃ち祓いし事困難な様です……! スセリ達封じられし今、せめて彼女(アケィディア)の助力を封じねば」


 アペ二人とワッカ一人……。共にモシリに活力を与えてしまう存在と言う手詰まりの中、オオトシは理の糸口を必死に探さんと、静かに、心の内では激しく、活路への想念イレンカを廻らせていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ