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神威(カムイ)の流転と聖なる詩片  作者: カムイ ピリマ(神はひそかに教える)
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第19倭 双角の顕現、新生の乙女

 一行は純陀チュンダの下に還り、湖より手にした「至純の水」を渡す。彼は笑みを浮かべ頷いて受け取る。そしてヒメへ向き直り、右目の眼帯を上げ、万象を見抜く様に、紅蓮の輝きを放ち見つめる。


「なるほど、ラーマさまが刻を。……そりゃミチヒメ、良かったべさ。どら、『真理眼(シンノ=インカラ)』……! む、こいつぁ身体ケゥエの元さなる『浄き白玉(エピルタㇰ)』が足りねぇ」


 真理眼輝かせる彼が言うには、白玉河に眠る「浄き白玉(エピルタㇰ)」を選りすぐり集めて来いとの事。

 しかし、二つの河の源にある、王子授乳せし大地(クスターナ)の始祖王祀られし神殿を、代々の王が護っており、彼の許可なく神聖な河へ立ち入ることは叶わない。


「が、今のおめぇ達なら、きっともって良い玉さ集めさせてもらえるべさ!」

 

「……某もそう思いまする。必ずや彼の王も認めて下さるでしょう」


(……去り際のラーマ様の啓示ピリマ、そして『始祖王を祀りし』代々の王。――もしや!)


 先の英雄王ラーマ顕現の為、鉛のように重くなった身体をオオトシは起こす。


(わたくし)も、いえ、『(わたくし)が』参りましょう……」


 ヤチホコ達は、河のほとりの開けた処に雷鳥を降り立たせ、水源にある神殿を目指す。

 辿り着くと、護衛に囲まれて仁王立ちで一行を待ち構える人影が。当代の王、「ヴィジャーヤ・キールティ」。彼は、深々と長揖する班勇に一瞥し、一行の前に悠然と立ちはだかり高らかに叫ぶ。


「『緋之神威連使徒(フィト)』たる証を顕してみせよ!」


 掛け声と共に彼の背後の神殿より光が迸り、落雷となって河へ降り注ぐ!

 すると観るも巨大な水龍が顕れ、彼を包みこむように蜷局を巻く。


祖神顕現(カムイ=エウン)! 双角武神(ヴェッサヴァナ)!」


 掛け声と共に顕れしは……独特な鎧を纏い、水牛を彷彿させる立派な角を携えた神威。

 それは、かつて身内の裏切りにより「天超飛翔神威(カンナ=カムイ・)之城(チャシ)」を奪われ、天界の守護より堕とされた、「神威之色身体」喪いし毘沙門天(ヴァイシュラヴァナ)

 彼は異界での修行の果て、魂は地上に黄泉還るも、己を繋ぎ止める肉体を持ち合わせていなかった。

 砂漠の民の苦しみの声(ピリマ)を聴き、救済の為に彼が編み出したのは、己が血脈を器とする禁忌の呪法。

 ヴィジャーヤは、今まさに自らの身命を以って、武神を現世へ繋ぎ止めたのである。


「――っ! 僕が証を顕します! カンナ!」


 ヤチホコが、虚空(ニス)の権能を解放して挑もうとすると、ヴィジャーヤは厳しく切り捨てる。


「生半にしか目覚めておらぬ虚空(ニス)など……相手にならぬ!」


 圧倒的な凄まじい力により一蹴される。


「余と同様、代々祖神を祀り、祈り受け継ぎしモノのみが到れる境涯なり!」


 その言葉を聴き、すべての歯車がかみ合う音がオオトシの脳裏に鳴り響く。


「……ヤチホコ、感謝いたします。(わたくし)は、貴方と共に鏡水顕導神(ヤィ=モ=トーヤ)様と邂逅した刻より、常々想念イレンカ廻らせておりました。先日のラーマ様ご降臨、そして今まさに直面せし事象にて悟りました。何故、(わたくし)が父君より『緋徒フィト乃詩』を賜りしかを!」


 流麗で淀みない立ち姿で、ヴィジャーヤに相対する。


「我が名は大倭乃国ヤマトゥムナの王オオトシ。祀りし祖神、刻を超え集いし虚空ニス達の啓示ピリマによりて、ここに真理悟りしなり!」


 裂帛の気合を籠めてオオトシは、「緋徒フィト乃詩」を朗々と詠い上げる。


「――『緋徒()よ 此処の()()・ 十六夜(168)の・ 緋徒()よ ・緋徒()よ』! 

 次なる詩を以って『祖神顕現(カムイ=エウン)』させ給え! 『布留部ふるべ由良由良都ゆらゆらと布留部ふるべ』!」


 オオトシの背後から、紅蓮の虚空ニスが溢れ出し、巨大な神霊が浮かび上がる!


(良くぞ解き明かししなり! 我が子オオトシよ、今まさに、神呪の誓約に従い顕れん!)


 それは、根源の国(ストゥ=モシリ)でヤチホコが「儀」の際にまみえた、今世の彼等の父神であり、前世のイザナギ(ヤチホコ)の子神、荒ぶる銀髪を猛らせる歴戦の巨躯、始祖須佐の王(オヤシ ハヤスサノヲ)であった……!


「『大倭乃国ヤマトゥムナの王よ、素晴らしきなり! 始祖須佐の王(オヤシ ハヤスサノヲ)よ、久しきである! いざ尋常に『神威之比武カムイ・ヌカラ』と参ろう!』」


 ヴィジャーヤと双角武神は、完全同調して共に応える。


「こ、これは……? 身体ケゥエが尋常ならざる軽さに!? これが真なる『祖神顕現』……なのでしょうか……」


(左様。『血脈を紡ぐ者(ウルオカタ)』重なりし刻、権能限りなく吹き上がりしなり!)


(――DNA認証による権能の励起! 届きますか雷鳥フミルィ?)


(……想念受信可能範囲です。想念者マスターのご推察の通りです。同一遺伝子の螺旋の重複により、一時的ですが、爆発的に身体強度、能力を向上させます……)


「……ふっふ。故、ヤチホコ、其方のその身体ケゥエならば、極限解放叶うなり」


 確信を確認するヤチホコに、スサノヲと化したオオトシが微笑み、すぐさま双角武神へ向き直る。

 黒曜石の様な深みある漆黒の瞳が、紅蓮の虚空に煌く。すべてを猛らせるスサノヲの紅蓮の虚空ニスにより、オオトシは、己のアペ氣力トゥムを、究極の「大焔アペヌィ」まで高めて解き放つ!


「『アペ』猛りし刻『ワッカ』姿喪い消滅せん! 『焔神(イレスカムイ)剣閃(トゥィエ)』!!」


 真輝銀シキンナカネの剣から、紅蓮の焔が咆哮を上げる! 剣閃と共に放たれた灼熱の三日月が、すべてを燃やし尽くしながら斬り裂いてゆく!


「させぬ! 極大水龍破イ・シカリ トコロカムイ!!」


 ヴィジャーヤも、水龍の如くうねる巨大な波が紅蓮を押し返す!


「我らが『希望』を護りしヒメの為、推して参る! 父神よ、大いなる虚空ニスを以って大焔を極みまで猛らせ給え!――燃え上がれ!(わたくし)想念イレンカ! はぁぁっ!!」


 迷い無き断固たる想いを籠めたオオトシが、ヴィジャーヤを水龍ごと斬り伏せた!


「『……見事なり!』 余は『我も』そなた等を認めよう! そなたもそうでありましょう、始祖須佐の王殿よ?」


 顕現せし始祖須佐の王(オヤシ ハヤスサノヲ)は、満足気な微笑みを携えゆっくりと頷いて告げる。

 

「オオトシ……否さ『饒速日(ニギハヤヒ)』よ。然る刻、後の『世界之王(カント=ルガル)』たるヤチホコ、『日超至火之王アメノ・ホアカリ』たるミケヒコと、三柱の想念イレンカ重ね、『地上之王モシリルガル』としてこの権能を放たれよ! この儀叶いし刻、世界モシリの悠久なる平和が、『大いなる真理』に約束されるなり!」


「『饒速日』! 天降りし、大倭乃国ヤマトゥムナの始祖王ではないか!」


 ミケヒコの驚きを耳に、ミチヒメも驚嘆を籠めて見つめる。 


 父神の言葉を、三柱は魂に刻み付ける。


 「饒」の字を掲げる、豊饒の大地の民「大倭乃国(ヤマトゥムナ)」。其の王オオトシ。

 「速」の字を掲げる、天翔ける天之鳥船アン・ヴィマナ祀りし民「意宇国オウナ」。その未来王ヤチホコ。

 「日」の字を掲げる、日を宿し、命の炎を燃やす民「日向(ひむか)之国」。次代の火之王ミケヒコ。


地上之王モシリルガル」。それは、民の世界を統べる者であり、天よりすべてを護る「世界之王」ヤチホコと対になる存在。

 授かりし呪法、「天照国照彦(あまてるくにてるひこ)天火明(あめのほあかり)櫛玉饒速日(くしたまにぎはやひ)(のみこと)」は、ヤチホコ(天照)オオトシ(国照)ミケヒコ(彦火明)の三柱が共調して発動させる、強大な「平和祈願の神呪」であった。


 ヴィジャーヤと双角武神は、スサノヲを顕現させたオオトシを認め、力強く掌を握り合う。


「強く氣力トゥムを発し、観ずると良い」


 ヴィジャーヤより助言を受け、一行は浄き白玉(エピルタㇰ)を探す。


 ヤチホコたちは白玉河の冷たい水底へ潜り、祈るような想念イレンカを籠めて、滑らかに白く透き通り光る無数の玉を見つけ出した。それらを純陀に渡すと、彼は大きな器に至純の水を注ぎ、その中にヒメの彫像を立て、取り囲むように浄き白玉を配置し、思念金乃槌イレンカ ハマルを振りかざし咆哮した。


「今だべ! おめぇたち全員の想念イレンカ氣力トゥムを、ここさ叩っ籠め! 生命を形造るにゃ『五大』すべてが不可欠だべさ!!」


 ヤチホコのニス、スセリのレラ、ミケヒコとオオトシのアペ、キクリのモシリ、ミヅチのワッカを、ミチヒメが莫大な氣力トゥムで後押しして放つ。全員の想いを合わせ、一心にヒメの回復を願う。

 すると、浄き白玉は寄り集まり彫像を包みこむ。そして一つの大きな繭を形成し、脈打つ様に光を放ち始める。


「灰燼に眠る無垢なるラマトゥよ、新たなる『器』に宿り生まれ変われ! 『身体新生アシリパワヌプ』!!」


 純陀は、神呪と共に思念金乃槌イレンカ ハマルを渾身の力を籠めて振り下ろす。すると、一瞬ヒメの姿が観えるも、すぐさま吸い込まれ、繭は目も眩む程に輝いて激しく脈打ちはじめた。しばらくして亀裂が入り、溢れる光と共に彼女は顕れた。

 乳白色の透き通るような肌、生命の力強さとしなやかさを観じる、細く伸びた腕と小鹿の様な脚。ミケヒコ同様の、輝く炎のような髪をなびかせて清浄さの中に強さを秘める。

 閉眼していた彼女は、静かにその眼を開く。それは、曾ての黒き瞳とはまるで隔絶していた。

 万象を見通す深淵を想起させ、宇宙そらに浮かぶ水の惑星ほしの様な虹色に輝く瞳を携えた、目を見張るほどの美しい神威の乙女。


「こいつぁ、この嬢ちゃんの瞳は……! 求道の果て、すべてを引き換えに得た、わしゃの『眼』を超えた完全なる『真理眼(シンノ=インカラ)』だべさ!」


 純陀は、己が身命を賭して得た真理の一端――「紅蓮」の(まなこ)を輝かせ、すべての光を兼ね備え眼前に降臨した「七弦真理」の奇跡を凝視する。

 渇望せし「全なる真」を携えた虹色の深淵を前に、驚嘆露わに己の魂を激しく震わせる。


「……ワラワは……ヤチホコ殿! ご無事――そ、その右の腕! 斯様な覚悟を以って……! スセリ、其方も()に凄まじき道歩まれましたか。オオトシ殿……良くぞ其処まで『緋徒フィト乃詩』、詠い上げて下さりました。

……ワラワのこの『瞳』は? この身体ケゥエに満ちし猛き氣力トゥムは……。あぁ……聴こえます。観じます。今、ワラワは、万象と――合一あわせ鏡の如く、己が現身(うつしみ)として寄り添うております!」


 ヒメは瞬時にすべてを観徹し、自身の変貌に驚嘆を露わにするが、それすらも瞬く間に悟る。


「……まさに七絃備えし『真理眼』だべさ! わしゃの一弦(紅蓮)が霞む程、なんでも、どこまでも『観える』……完璧な天弦べさ!」


 純陀は、感動を禁じ得ぬ面持ちで、想像を絶する「最高の成果」を誇らしげに見つめる。


「おかえりなさい、ヒメさん。本当に、良かったです……」


 ヤチホコは、全霊を供犠し己を救った彼女の、清浄なる再臨に万感の想いを抱く。露わになった彼女の肩に、慈しみを籠めてそっと彼女の法衣を羽織らせた。


「……今のヒメさんには、小さくなってしまいましたね」


 童女の彫像から乙女へと生長を果たしたヒメの肢体に、ヤチホコは喜びつつも、うまく羽織らせきれず苦笑した。

 そして、護りし自由(左手)と抱きし覚悟(右手)で――。

 命芽吹きしヒメの小さな掌を、至宝を扱うが如く丁重に、そして感謝を籠めて優しく包み込んだ。


(……あたたかい! 『想い』と共に伝わって……これが……緋徒フィトの温もり……。応える様に、ワラワの胸中からも、『想い』が溢れてまいります……)


 思わず頬を伝い一筋涙が流れる。その温かみも観じられる。


「ヒメ……! 還って来てくれて……本当に、ありがとう……!」


 ミケヒコもヒメの手を取り跪いて言う。


「ミケヒコ……。左様でございます。故、これより先、ワラワに対し、負い目など持たずに歩まれて下さりませ」


「……忝い……! これからも、頼むぞ!」


 ヒメは優しく微笑んで頷く。


「とても素敵です。笑顔の中に、ヒメちゃんの想念イレンカが溢れています……!」


 ヤチホコは安堵と慈しみの想いを籠めて微笑み返した。


「……やっぱりまた『毒』振りまいているわね。でもそうね、本当に素敵よ、ヒメ!」


 彼に対して「またか」と呆れながらも、ミチヒメもヒメの復活と新生に喜びを露わにする。


「ないだって、思った以上に見事成ったっしょ! これこそが生命宿らさって生きる宝玉、『如意宝珠(イレンカ・タㇰ)』だべ! 想いを無限のチカラに出来る身体だべさ!」


 覚醒したヒメの身体は、如意宝珠の恩恵により、懸念だった氣力トゥムの欠乏を克服していた。消耗の激しかった『付与快癒呪』を自在に行使し、純陀をして「完璧」と言わしめる虹色の瞳は、千里先の因果さえ探知する能力を得た。


 純陀の神業を目の当たりにしてヤチホコは戦慄した。

 ルースが示した「民衆ウタラの智慧」とはまた違う、彼の示した「神威と自然の理」の素晴らしさに。


天之鳥船アン・ヴィマナや聖塔。ああ言った『神威之遺産』さは、『技』と『理』、その両方が手を取り合わさらないと造れないモノなんだべさ」


(……「主」の綴りしこの世界は――素晴らしいんだ! みんな価値があって、補い合えばこんなにも美しい奇跡を起こせる……。なのに、何故管理者はこれを『滅び』へと導くんだ? そして……すべての生命は『五大』を宿す……なら、どんな存在だってもしかして……)


 その自問に、純陀が応える。


「そうだべ。実は誰もが、無限の可能性さ秘めているんだべさ。……したけどもヤチホコ、今のまんま聖塔さ行っても、残念ながら扉は()かさらないべさ」


 純陀は、神威之遺産の真実を告げる。

 四氣王に認められし緋徒フィト虚空ニスの遣い手、そして祈りの巫女による「根源神威」の霊力ヌプル氣力トゥム。その三位一体が集い、根源たる「神謡者カムイ・ユカラ」の権能を顕現して初めて、伝説の扉は開かれるのだと。


「したから誰も開けぬ伝説の扉なんだべさ。が、やるんっしょ? したら、陰陽の四氣、それぞれ誓約叶いし今、一度雒陽(ルゥォヤァン)さ戻り、女媧ジョカさんさ尋ねるのが近道だと思うべさ」


 純陀に丁重に長揖し、助言の通り一行は、再び大陸の都へと雷鳥フミルィの翼をはためかせる。新生したヒメの、陽光(トカㇷ゚チュㇷ゚)を受けて輝く虹色の瞳に希望を抱き、至純の碧き湖携える砂の海を東へ煌きを振りまいて翔け抜けていった。

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