↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神威(カムイ)の流転と聖なる詩片  作者: カムイ ピリマ(神はひそかに教える)
第壱部 『神威息衝く古代國』編
12/103

詩片の狭間 雲上の揺籃、結ばれし三つの想念

  地上の喧騒を置き去りに、天之鳥船《アン・ヴィマナ》は北を目指し天を舞う。

 陽光に照らされた黄金に輝く雲海が、外壁を透過して眼前に映し出され、見渡す限りに広がっている。


(高度一佰肆拾弐里?

 あ、変換されて……!

 僕の知る単位に!?……10,000m……!

 単位すら僕に合わせてくれるのですね……。

 そして雲海の上……間違いないです、成層圏に至っての飛翔。

 なのに全く船内に変化を観じません。

 与圧も慣性制御も完璧……)


「もはやこれは『オーパーツ』なんてレベルじゃないです!」


 思わず声に漏れてしまうも気付かずに、ヤチホコこと綴詩竜輝《つづうたりゅうき》は、眼前の薄膜より、想いを夢観(み)る様に頭の内に直接映し出される、膨大な言の葉(データ)と光景に見入っている。

 それは知り得るどの様な電子の魂(システム)よりも滑らかに動き、どんな操作体系も及びもつかない直感性である。


「またヤチ変なこと言って。

 その光ってずっと観ていて平気な……あぁっ! す、すごい高さ。

 こんな処まで跳んだ事なんて……。

 ねぇヤチ、これ本当に落ちないよね……?」


 ヤチホコの左前方の座にて、スセリは、美しい彫刻が施された肘掛けを必死に握りしめ怯えている。

 理解不能な未知なる領域を前に、つぶらな瞳を潤ませ、今にも温かな滴が溢れそうである。


「大丈夫ですよスセリちゃん。

 どことなく……僕の知る『外なる智慧』と似通っているのです。

 雷鳥《フミルィ》は僕達の氣力《トゥム》と、恐らく陽光(トカㇷ゚チュㇷ゚)も活力に換えて、僕の想念《イレンカ》のままに羽ばたいています。

 だから大丈夫です。

 『僕』が決して落とさせませんから」


 中央の操舵の座で薄膜に包まれたヤチホコは、白銀の髪を翻し、微笑みを湛え神威之音声を優しく響かせる。

 そして、そっと震えるスセリと掌を重ね合わせる。

 その仕草からも双子の兄であるはずのヤチホコは、社に祀られし神像の如き崇高さを放つ。

 スセリが呆然として固まる中、ヤチホコは、この素晴らしい「雷鳥」に対し想い廻らせている。


(しかしこれは……僕じゃ理解出来ない程の、限りなく機械語に近い高圧縮高速言語!

 それでいてまさにあの『詩』の様な……。

 『想いを詠い実行する』……のでしょう……か?)


 己が命名した『概念機関《コンセプト・エンジン》』。

 まさしくその通りであると、ヤチホコは感嘆の想いを抱き激しく思考を廻らせる。


「……ふふ、スセリ、怖がらなくても大丈夫よ。

 わたしが与えた氣力は、かつてのラーマさまの國、『豊饒乃大地《コーサラ》』までも行けるわ。

 何よりこの子、優しくて強いのよ」


 反対に座するミチヒメが懐かしそうに壁面を撫でる。

 二つ遡りし刻、英雄王と翔け抜けた空を瞳に映しながら。


 「英雄王《ラーマ》」と聞いて竜輝としての考古学的知識が囁く。

 まさに神威之遺産としか言いようのないこの「雷鳥」。

 これは……一体いつの高度文明なのか?

 それともこれすら産み直霊《なおひ》叶うのが『詩』なのか……?


(……想念者《マスター》。

 思考閾値超過により、『眞理乃命脈(シンノ・クスル)』に微細な異常波形感知……)


 雷鳥の、どこか慈しみを孕み微笑んでいるかのような囁き(ピリマ)。


(……そう言えば雷鳥《フミルィ》、先ほど僕の事を何と呼んでいましたか?

 『造物主《アークマスター》』って一体……?)


 一拍沈黙を置いて彼の頭の内にだけに届く返答《ピリマ》。


(……『造物主』。

 それは先程の想念の通りです……。

 世界を『詩』で綴り、理(ことわり)を奏でる『創世の主』に準ずる『神謡者《カムイ・ユカラ》』の総称です。

『想念者《マスター》』の魂《ラマトゥ》……。

 その、真なる呼称でも……ございます……)


 途端ヤチホコの頭の内に、竜輝とも異なり、何もない虚無の海で宙に何かを描き綴る「誰か」の残像が通り過ぎる。


(僕が、『創世の主』……に準ずる?

 まさか、この世界はそいつ等の綴りし『詩』だとでも?

 そんな……僕はただ、滅びゆくこの世界を救いたいだけですのに……)


(……管理者権限発動……。

 現在これ以上の情報開示は不可能。

 しかし、想念者《マスター》の生長により封印の解除は可能です……。

 現状、目的地、神聖城国(パセ=コル=モシリ)へ集中されることをお勧めいたします……)


 考え込むヤチホコを観て察したミチヒメが、白銀の髪をそっと撫でる。


「何を悩んでいるのかは解らないけど、今のあなたの白銀の髪と紅い瞳。それはわたしが二つ遡りし刻観たもの……。

 共に闘った『英雄王《ラーマ》』さまが……『あの刻』に放ったのと同じ輝きをしているわ」


 ミチヒメの言葉を聴いてヤチホコは、あの刻の話を思い出し我に還る。


(そうです、彼女の冒険の為にも……!)


「『あの刻』も……雷鳥《フミルィ》と翔け抜けたのですね」


 胸中に燻る想いが一瞬胸を貫く。

 ミチヒメの瞳に憂いの翳りが浮かぶも、すぐさま強い意思を宿した眼でヤチホコを見つめ返す。


「……遥かな刻を超え、『お兄さま』と呼ばせてくれた……。

 『わたしのすべて』を包んでくれたあの方と奏でた『詩』が、今のわたしを形造ったの。

 それはわたしの中の紛れもない真実。

 ヤチホコくん、あなたに抱かれた刻観じたの……。

 今のあなたが詠う『詩』……。

 それはきっと……『あの刻のわたし達』をも救ってくれる……。

 まさに『希望の詩』なのだと。

 わたしはそう信じているわ」


 ミチヒメは、胸元の首飾りに煌く、透き通る美しい宝玉をそっと指先でなぞる。

 そして、微かに頬を染め、灯った想いを密かに重ねヤチホコを見つめる。


「……大丈夫です、到らなくても、辛苦のすべてを分かち合えなくても……『想い』はあなたと同じです。

 ミチヒメさんの『詩』も、『真実』だと、僕が詠い直霊してみせます!」


 ヤチホコは、鈴音を響かせて、知らずに紅に輝かせた瞳でミチヒメを見つめ返す。

 その清廉に響き渡る声と、焦がされる様な眩し眼差しに、彼女は直視しきれず咄嗟に目を逸らしてしまう。


「エパタイ(バカ)。

 貸しにしておいたはずなのに、あなたって本当に……!

 もう、『ラーマさまと同じ眼』でそんな表情……。

 ううん、その、ありがとう……」


 壁面に映る雲海へと視線を逸らす。

 だが一瞬だけ、何かを己に言い聞かせているヤチホコを見つめ返し、ミチヒメは感謝を顕す。


(……彼女に負けない様、彼女の過去すら護れる様に……!)


 その刻、スセリが間を取り持つ様に、二人の腕に絡み付いてくる。


「ヤチ、ミチヒメさん。

 ボクもね……風《レラ》から聴こえるの。

 それは、今を生きようとするみんなの鼓動。

 ボクは、ボクもね、この世界《モシリ》、そしてこうしている今がとても大切で……大好きだよ!」


 スセリの言葉が柔らかな風となり二人を包んでゆく。

 天之鳥船と言う揺籃の中、ヤチホコは、己の「誓い」、そしてミチヒメの「強さ」とスセリの「優しさ」が、一つの大きな「想念《イレンカ》」として重なり合い育まれていくのを観じる。


 ミチヒメがヤチホコの肩にそっと頭を預ける。

 それは挨拶や貸し借りではない想いの顕れ。


「忘れないでヤチホコくん……。

 わたしはあなたの『刻を造る』拳。

 あなたの『甘くて強い』想いを貫く為に、わたしは『隣《ここ》』にいるの」


「ボクもだよヤチ……。

 ヤチがヤチで居られるように、想いを繋ぎ止める為に。

 ボクはボクらしくヤチのそばに……。

 そしていつか『隣《そこ》』が似合う風《レラ》になって……」


 山桜《カリンパニ》の実の様に頬を赤らめ、おずおずとスセリも頭を預けて来る。

 ヤチホコは、二人の肩を慈愛を籠めて優しく抱き寄せ、深く頷く。


「行きましょう。

 管理者の『終焉の詩』を、僕等の手で、自由と幸福の『生命の詩』へ詠い直霊す為に!」


 三人の想念が強く重なり、雷鳥《フミルィ》は一段と輝きを増す。

 そして、陽光煌く黄金の雲海の上を、彼の地へ向かい力強く翔け抜けていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。