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神威(カムイ)の流転と聖なる詩片  作者: カムイ ピリマ(神はひそかに教える)
第弐部 『時空を超えし幻の軍勢』ラーマーヤナ(一書)編――秘幻乃神謡 其之壱 昔日英雄乃詩――
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詩片の狭間 英霊乃館 継承と招待の為の比武

「……あの刻はね、もう本当に驚かされたわ!」


 想い還し困った様に笑いながらミチヒメは言う。


「しかも伝承に名高い『あの方』を名乗るから……。

 それも、『本当』にそうだったなんてね……!」


 静かに馨しい乳(カフェオレ)を注ぎ直し、ミチヒメは続きを話し始める。


「あの後ね、実はわたしの後を追って……」




 幾度か月が廻りし後、ミチヒメを追って王子授乳せし大地(クスターナ)の純陀(チュンダ)の元へ辿り着く巨躯の武人。

 ミチヒメの叔父、ウガヤ「漆拾壱世」。


「ウガヤさん……。

 アンタじゃ……いんや、わしゃでも『刻さ超える事』は叶わないべさ。

 したけども……一つだけ道があるべさ!

 それは……」


 彼女が言うには、「夢幻乃軍勢(エイン=ヘリャル)」の住まう「英霊乃館(ヴァル・ホル)」は、この世界の理の外にあるらしい。


「おめぇさんの父神、スサノヲさんさ住まう処、根源の国(ストゥ=モシリ)とおんなじだべさ!

 『記述』さ免れて霊性乃身体(ヌプルケゥエ)だけだから、『刻』が無いんだべさ。

 したから……」


 チュンダが続ける話が齎す福音(ピリマ)。


『英霊乃館(ヴァル・ホル)から夢幻乃軍勢(エイン=ヘリャル)としてなら、どの刻にも顕し直霊叶う』と。


「したけども……あそこさ、ウガヤさんの祖となる『伍拾世』さんさいるべさ……。

 彼に勝たねぇと、きっともって顕し直霊すっこと、許して貰えないべさ……」


 ウガヤは柄にもなくあからさまに不敵に笑う。


「僥倖なり!

 永き刻で最高に勇猛なる祖霊と比武叶いし事。

 このウガヤ、至福の極みなり……!」


 チュンダは苦笑い浮かべて思わず本音が漏れる。


「やっぱあんさんもエパタイ(ばか)だべさ。

 だけんども、わしゃそんなエパタイが好きだべさ!

 したっけ英霊乃館(ヴァル・ホル)の館主なんてやっているべさ。

 よしゃ!

 こいつさ連れて行くと良いべさ。

 おーい、付与精霊(イレス)!

 こっちさ来ると良いべさ!」


 チュンダが奥へ呼びかけると、彼女よりも更に小柄な……まさに小人と言えるような愛くるしい善男乃子(ヲノコ)が出て来る。


「どうしたの『爺さん』?

 あぁ、この緋徒(フィト)……だね?

 だって、霊力(ヌプル)まったくないもんね……」


 そう言うと「イレス」と呼ばれた彼は静かに眼を伏せ何かを観じ取っている。


「……『爺さん』とは、どなたの事なりしか?」


 当たり前のことを聴かれた様な面持ちで、イレスと呼ばれた小人は小首を傾げる。


「そんな爺さんって言ったら爺さんの事だよ?

 うん……いいよ……。

 ぼく、あなたの事気に入った、ついていく!」


 チュンダは親指を立てて頷く。


「そう言うと想ったべさ!

 ウガヤさん、いい成人男性(ニシパ)だべ?」


「うん、とっても。

 この緋徒になら、『ぼくのすべて』を捧げても良い……」


 イレスは、心なしか山桜(カリンパニ)の実の様に頬を朱に染め俯く。


「やっぱし観る眼あるべさ、イレス!

 流石わしゃの『眼』の欠片から打ち直霊しただけあるべさ!」


 チュンダが言うには、万象を見抜くという、彼女の「真理眼」、其の一部から打ち直霊した「如意宝珠」と言う存在らしい。


「まだ完璧な技じゃないべさ。

 したけども『霊力』だけは付与出来るべさ。

 ウガヤさん、あんさんならこれでバッチシだべ?」


 イレスは、莫大な霊力を宿し、月光を浴びる度にそれを増やし蓄えられると言う。


「……解んなくても良いんだけんども、英霊乃館(ヴァル・ホル)さ在る処なら……いくらでも慈愛之月光(クンネ・チュプ)浴びれるべさ!」


 何故かチュンダは遥かな上空を見つめて言う。

 昼夜問わず。

 在り得ぬがそう言う事だとウガヤは肝に銘ずる。


「委細承知!

 実に……有難きなり!」


 ウガヤの快諾にチュンダは満足気に大きく頷き、満開の笑顔で親指を力強く立てる。


「したらけっぱると良いべさ、ウガヤさん!

 いっくべさぁっ!

 神威顕現! 探求之神威(オーディン)!」


 突如、大地之石鍛冶(ドゥウェールグフ)の小さき乙女が、自分並みかそれ以上の巨躯の神威へと顕現する。


「こ、これは……!

 流石に読めぬなり!

 実に……素晴らしき気勢なり……!」


 氣力を極めたウガヤは、瞬時に秘めし莫大な氣力を観じ取る。


「そっちゃも……。

 『ウガヤさん相手』なら試したいけど、今はダメだべさ。

 すぐ終わらせねぇと、管理者達(アイツらさ)ばれるべさ!

 英霊乃館(ヴァル・ホル)でけっぱって、彼の刻のミチヒメちゃん達さ助けてやるべさ!」


 チュンダより直霊したオーディンが不敵に笑い拳を突き出す。

 丁重に長揖し、拳を突き合わせる。


「……筆舌に尽くし難き感謝なり!」


「なんもさ!

 いっくべさぁっ!


 天空之神呪(ハヴァー・マール)! 英霊招還(ラ トォー・ヤン)!


 したら、けっぱるべさーっ!」


 ウガヤはオーディンの神呪で、有無を言わさず彼の館へと「招還」されてゆく……。


 飛ばされた先……。

 「英霊乃館」にて彼を待ち受けるは、屈強なる「夢幻乃軍勢(エイン=ヘリャル)」達。


「我等に連なりて『彼の刻』に顕現したくば、見事勝ち抜いて観せよ!」


 静かに礼をするウガヤと、つぶらな瞳を輝かせて、不敵な笑みを浮かべるイレス。


「付与精霊(イレス)殿!」


「うん、わかった! 付与霊呪(ラムハプル=ヌプル)!

 槍よ、神威と成りて万象を撃ち抜いて!」


 刻の無い英霊乃館にて、彼とイレスは、神威ならぬ「緋徒」の身で、夢幻乃軍勢の、幾百幾千の猛者達を次々と打ち倒してゆく。

 夢幻乃軍勢達を軒並み打ち倒し、最後立ちはだかるのは……「ウガヤ伍拾世」。


「実に素晴らしきなるかな、我が裔よ!」


 逞しい顎ひげを蓄えた伍拾世がウガヤへ送りし賞賛(ピリマ)。


「光栄の極みでございまする……!

 然らば、このウガヤ漆拾壱世、大切な姪を助く為、此処より彼の地へ顕し直霊せんが為、いざ尋常に比武せん!」


 ふたりの武はまさに拮抗している。

 ウガヤが連撃で 伍拾世の身体目掛け、人体の急所たる心身道交孔(マルマ)を突こうとするも、すべてを熟知している彼に読まれてしまい、間一髪の処で躱される。


「良き狙いなり。

 だが、『技』では我に一日の長ありしなり。

 これでは、『久遠の合掌』にもならぬである!」


 同様の連撃を、伍拾世はウガヤ以上の精度で放ってくる。


「ぬぐぅ!

 ……流石なり」


「……其方が出来し事はただ一つなり」


 静かに告げる伍拾世。

 その言の葉に、覚悟に到ったウガヤは、調息し始める。


「ふぅ……はぁぁぁああっ!!」


 爆発的に吐き出した息吹により、氣力を極限まで研ぎ澄ます。


「……其方は霊力(ヌプル)遣えぬのであろう?

 其処な従者、遠慮せずとも遣うが良い!」


 先達故のゆとりをみせる伍拾世。


「伍拾世殿……。

 我が、イレス殿の霊力と『掌を取り合いし刻』……。

 努々侮らぬ様、十全に氣力研ぎ澄まされよ! イレス殿!」


「うん、わかった!

 それからね……『イレス』って呼んで、ウガヤさん……」


 イレスはどこか甘やかな口調で伝え、小さな身体で必死にウガヤの肩にしがみ付く。

 そして、つぶらな大きな瞳を輝かせてイレスは絶唱する。


「いくよ! 究極乃付与(シパセ ラムハプル)霊呪( ヌプル)!

 ぜんぶウガヤさんの中へ入って……!

 ぼくのすべての霊力よ、氣力と掌を取り合いて『神威』と成れぇっ!」


 それは今まで蓄えたすべての霊力の暴風。

 観る間にウガヤの身体ごと輝きはじめ、氣力は「神威之力」へと極まり直霊されてゆく。


「おぉ、おぉ!

 実に、素晴らしきなり!

 よもや……。

 始祖須佐の王(オアシ ハヤスサノヲ)以外に、此処まで神威遣えし者顕わるるとは……!

 流石は……『直に血を受け継ぎし者』なりか……!」


 彼が言うには、スサノヲは悠久の刻をただ独神、根源の国(ストゥ=モシリ)にて管理の記述より世界を護りし狭間、稀に現世に降臨し裔を遺す事があるという。

 ウガヤも其のひとりである。


「……稀、とな?

 我等……須らく父神の血、受け継ぎしものなり……」


 ウガヤの言う通り、彼を筆頭に、タギリ、オオトシ、そしてミチヒメ……。

 皆、子であり孫であり、スサノヲの血を受け継ぎし者ばかりである。


「実に不可解な程に稀なる事なり!

 其方等の刻……。

 如何程の試練待ち受けしであろうか……。

 良かろう。

 まずは其の神威、真なるや否か、此処に顕してみせるが良い!」


 そう言うと伍拾世は、深淵まで沈み込む様に調息し始める。


「封于于于于《ふぅぅううう》……。――覇啊啊啊啊《はああああ》っ!!」


 途端、彼の全身を包み迸る尋常ならざる気勢。

 それは、在ろう事か、今のウガヤ同様の権能の極み、「神威之力」。


「我は……其方と違い、彼の始祖王の傍系なり。

 だが、此の地にて極限まで研鑽積みしなり。

 想いの強き事、それ即ち己の内に眠りし無限乃希望(カムイ=レンカ)を、極みの域まで錬り上げる事叶いしものなり!

 ――参る!」


 瞬時に伍拾世が「消え去る」。


「――見事っ! ぬぅん!!」


 ウガヤは槍を前面に両の掌で突き出して、渾身の力で交差させるように捻る。

 強烈に鳴り響く激しく擦れ合う金属音。

 吹き荒れる氣力の暴風。

 

「ほぉ……よもやこれを受け止めしとは、天晴なり」


 眼前一寸先で観えるは……伍拾世の槍先。

 背中を冷たい汗が激しく流れ落ちる。


「見事は……其方なり。

 斯様な鋭き槍撃……まさに我が父神以来なり!」


 全身を駆け抜ける戦慄と恐怖。

 だが、それ以上の歓喜と闘志が炎となり、弱き想いを焼き尽くしてゆく。


「然らば此度は此方から参る。

 この技こそ、『始祖須佐の王』より受け継ぎし至高の一撃なり。

 いざ征かん! ぬぅん!!」


 槍を正中に構え、ウガヤは極限まで自身の気勢を高めてゆく。


「実に、素晴らしきなり……!

 氣力(トゥム)は我を遥かに凌駕せん」


 その猛き高まりを眼に、想わずこぼれる伍拾世の感嘆(ピリマ)。

 ウガヤは一瞬禅定なる笑みを浮かべ、大きく背中を見せる程に身を捩る。


「それは悪手なり。

 比武に於いて背をみせるなど!」


 伍拾世は、素早く流麗に、刻を置き去りにする程の迅さで踏み込んで詰め寄る。


「有乎乎乎乎王《うおおおおう》っ!!

 全貫穿(ゼンカンセン)撃槍突(ゲキソウトツ)!!」


 伍拾世の気配(けわい)を観じ取り、練り上げた力を瞬時に爆発的に解放させる。

 ウガヤは凄まじい勢いで左脚で踏み込み、弓を引き絞るが如く左腕を後方へと強烈に裏拳の様に振り払う。

 瞬間身体が独楽の様に激しく廻天し、目にも止まらぬ迅さで槍が撃ち出されてゆく。

 

「此処なり!」


 そこで更に右脚を滑る様に踏み出して、更に肩を、前腕を捻じ込む様に槍を突き出す。

 その刻、左脚から螺旋を描き、竜巻となりて「眞理乃命脈」を貫き徹し、神威之力が槍を覆い尽くして征く。

 それはまさに、万象を貫く「神威之槍撃」。


「な!? 我にすら……観えぬ!!」


 疾風怒濤の竜巻は、伍拾世の肩を掠め、館の壁面を貫いて遥か彼方まで吹き荒れてゆく。

 静かに抱拳の礼をして槍を納めるウガヤ。

 肩に遺る衝撃に、静かに後方を見遣り、呆然自失となった後、らしくなく豪快に笑う伍拾世。


「見事!

 研ぎ澄まされし氣力の『観』にて、我を捉える事叶いし故のあの構えなりか……!

 良い。

 此度は其方へ譲りしなり。

 こちらの刻でも、己を磨き練り上げてくるが良い!」


 伍拾世は満足げに槍を降ろす。

 氣力を納め直霊し、ウガヤへと向き直り抱拳の礼をする。


「……忝き!」


 ウガヤは片膝をつき、深々と長揖する。


「委細構わぬ。

 それよりも……。

 其方の生くる刻、一体如何なる事起こりしであるか……?」


 ウガヤは今迄に起こりし事、スサノヲより賜りし予見など、己が知り得し事のすべてを伝える。


「それでは其方の刻に……。

 彼の『希望之神器』、産まれ直霊する事叶うと申すであるか?」


 ウガヤは神妙な面持ちで深く頷く。


「まさに運命(さだめ)変わらん帰路となりし刻なり……!

 重き責、双肩に圧し掛かりしも弛まず歩むが良い。

 彼の刻へと赴きしならば、其方が伍拾世を名乗るが良い!

 我が称号、其方の内に観えし「希望之閃光」へと、今まさに此処に託さん!」


 伍拾世はすべてを解す。

 そして優しく、力強くウガヤの肩を叩く。

 静かに差し出す掌。

 握られるは、今しがた比武で遣いし槍。


「恐らくは……この『刃を落としし槍』こそが至高の武具とならん。

 ふっふ……。

 『あやつ』なら、恐らくはそうするであろうからな」


 不敵で少々悪戯めいた笑みを浮かべて伍拾世は伝える。


「其方をこの『館』へ送りし探求之神威(オーディン)。

 彼の神威は、戦にて、熱く自由なる想い持ちし闘士を、敵味方問わず愛でしなり。

 故、武に長けし者出て来るならば……。

 必ずや『最も恐ろしい女神(ネルトゥス)』召喚せん。

 後に遺りしは……。

 『輪を廻らぬ』尋常なる比武となるは必定なり」


 神威達の想いすら見抜きし祖王の慧眼に、ウガヤは改めて敬服し深々と長揖する。


「実に素晴らしき慧眼なり……!

 其方が申すのであるならば、まさにそうなるのであろう。

 この槍、有難く頂戴いたす。

 祖王よ、其方の裔の活躍、とくと御覧をば……!」


 覚悟の笑みを浮かべ、ウガヤはイレスと共に颯爽と戦場へ赴いて征く。

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