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獄楽天 〜地獄のような世界でも酒カスの俺は幸せに生きられる〜  作者: 脳楽
鬼人偏人編

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三杯目:裏の裏の裏はおらぁ!

【いっき、いっきっ、それよいしょ、わっしょいっ】

「ぎゃはは、ぶべべ、いいぞーもっとだ、豪快にいけ!」


 バーのカウンターに寝そべってあんぐり口を開ける俺と、スミノフとテキーラを手に酒を注ぎ込むイバラ。

 一人餅つきのような的確な動きで、ごっきゅごっきゅと飲み干す暇に、レモンをきゅっと絞って天からお塩までパラパラしてくれる。


 みなぎるねぇ。

 俺のエンジンは特別製、オクタン値がどうのなんて細かいことは言わない。

 微細でもアルコールが入っていればそれが俺のガソリンとなるのである。

 なーにが二日酔いじゃ、こちとら365日酔いで入る隙間もねぇんだ。


「ふはは、いまなら誰にも負ける気がしねぇ!」


 足をぐんと体によせ、反動を活かしネックスプリングで飛び起きる。

 酔いのせいか大口のせいか、本当に力がみなぎっているようだった。


【親分かっこよいっ。けど、現実だいじ。イバラたちはしっかり弱肉っ】


 イバラが自分の頭の上で、人差し指をのばし角のようにたてた。

 牛くんね。あれは無理だ。A5はある。ステーキハウスでなら勝てるのに。


 しかし冷静だね君。球食ってからまたIQ上がったんじゃないか。

 口調はあんまり変わらないようだけど、言葉の奥に知性を感じるぞ。

 俺も負けてはいられない。


「うむ、検討しよう。まあ部下の意見も率先して取り入れる、そんな上司でありたい俺だ。頭には入れておこう。これからもその調子で頼むよ。でもいい感じなのも事実なんだよな。さっきの球のせいか?」


 ぐるぐると肩を回していると、イバラが双眸《そうぼう》を薄めて俺を見た。


【ありけるっ。お酒呑む、上昇が見えるっ。それは親分の染み付いた在り様っ】

「ん? どういうことだ。実際変化があるのか、それとも性根が酒カスって悪口か?」

【良い口っ、んー、んー、ここは混沌、表と裏がぐちゃぐちゃ。空気は裏界《りかい》がいっぱいなので、決まりは在理《ざいり》が定める。裏界では、みんな仕分けられる。親分は〝鬼〟! イバラと一緒っ】


 うへへーと笑うイバラの言葉に、俺はホルマリンの代わりにアルコールに浸かった脳をフル回転させる。

 度数によっては火がつきそうだ。


 混沌、まあ世界が混ざっているということだろう。

 いまも部屋中に赤い霧が蔓延している。どんどんと濃ゆさが増しているようだった。


 裏界《りかい》というのは、こいつらの故郷なのか、住んでいる場所と捉えられる。

 在理《ざいり》、決まり的な話か。

 在り様……文脈的に、個人の性質の話か。

 そうなると仕分け、そして鬼ねぇ。


「いいか、外れてたら訂正しろ。世界が裏と混ざって、法則がそちらに寄った。空気? 世界? に触れることで元々表にいた者も根底の性質しだいで、なにかしらの能力が現れ、種族的な派閥に自動的に所属する。これでどうだ?」


 俺の言葉に、イバラがどひゃーと後ずさった。


【にゅわっ、千人に一人っ。イバラ子分で満足なー】


 まあまあ、それほどでもあるね。

 でも日本人ならわりとたどり着くぞきっと。

 サブカル知能指数が無駄に高い国だと思う。


 しかしそうなると、体以外にも影響もありそうだ。


 携帯を試しに触ってみる。

 動画サイトには接続できたが、ホームにはなんか目玉とか肉塊とかブツブツいってる青白い女などのサムネがズラッとおすすめされている。

 ゲロゲロ動画や幽チューブなどへの路線変更で無い限りは、これも異常か。


 試しにバーのテレビをつける。

 井戸から女がゆっくり這い出てくる画面が映ったが、すげえ遅いので消す。

 自衛隊にでも入って頑張ってもろて。


 最後に117へ電話するも暗い女の声で【今あなたの家の近くにいるの】と時間じゃなく位置情報を教えられた。

 聞いてないんだけどと思いながら「わあ、君もブラジルかい。パーティの準備して待ってるよアミーガ」と伝えて切った。


 なるほど。


 科学の法則自体グチャってそうだな。それでも動くのは、いわゆる在理とやらが影響しているのか。

 まあ当たらずとも遠からずかな。

 携帯の充電の表示も666%だし、単発かよ。しけてんな。


 さっき撮ったイバラの写真を見ると、輪郭がぼやけた影の薄い知らない人が映っているので、結構前からこうなってはいたみたいだ。


 これはもう一過性のものではない。

 これからこういう世界で暮らしていく可能性が非常に高いと予測できる。


 しいて例えるなら難易度バグったオブ・ザ・デッド系か、歩くのもドゥーンも後日も見たが。

 強いて言うならショーンが好きだ。

 それはおいといて、そうなるとココからは動くべきだろう。


「イバラ、そろそろ移動する。そこらの客の死体がもってる背負う袋に酒を詰めてくれ」

【ガッテンっ】


 カウンターテーブルから飛び降り、俺は店の裏側に入る。


 足元には一人の死体が転がっていた。

 血で染まった金髪にサングラス、ラフなパーカーの三十代の男。

 彼はここの店長だった男だ。


 気のいい男であり、バーの売上があがるからと俺に程々に良くしてくれていた。

 まあキャバのボーイだったら即首にすると言っていたが。


 先ほど戻ってきてみればこの有様である。

 店の他の席に座っていた客も三匹の餓鬼に食い漁られていた。

 当然俺にも襲いかかってきたが、鎧袖一触《がいしゅういっしょく》で肉にしてやった。

 段ボールを破いて捨てるくらいの手応えだった。


 壁にかけてあるタオルを、死んだ男の顔にかけてやる。

 気まずいだろ、無言で目が合うとな。美容室の洗髪と一緒だ。


 棚に押しつぶされそうなほどに狭いキッチンの奥に入る。

 目的は消火器などが置いてあるスペースだった。


「お、これこれ」


 壁に設置された赤い枠のある透明なボックス、南京錠がかかった扉の奥には、消防斧が収納されている。

 赤い刃、黄色く塗られた金属製の柄と巻かれた黒い樹脂の滑り止め。

 長さは肩から腕ほどにはあって、頼りになる見た目をしている。


 鍵はない。どこかにあるが探すのも面倒だ。


 小指から折りたたむように拳を握る。

 躊躇わずに正拳、強化プラスチックだろうが容易く突き破った。

 血も出ず痛みもない。

 頑強さや力など、生物としての格が一つ上がっているような感覚だ。


 消防斧を手に取り、イバラの元へと戻る。

 うちのチビは、詰め放題セールの主婦みてぇに、黒いバックに酒をパンパンに入れていた。

 持つの俺なんだぞそれ。


「これと、これは置いてけ、動きづらい。飲んでもいいぞ」


 ワインと麦焼酎のボトルを数本ぬき、二本残っていた包丁の内の一本をイバラに渡す。


【にやけちゃうっ、イバラのっ】


 俺には斧もあるし、いい感じに二刀流にでもしてくれ。ロマンがあるから。


 あと背中に一升瓶いれて持って帰ろうとするのはやめなさい。

 間抜けな背面キャノン状態で動きづらいだろ。酒なんてどこでも売ってるんだから。

 ほら、惜しいならここで飲んで。


「勿体ないといえば、さっきの餓鬼のガキボールはもう拾ったか?」

【未処理っ、でも親分とイバラは、アレもう用無しっ】

「ほう、理由は」

【むーん、最初ので格付け完了っ、もう命なくすで、魂がひれ伏し混ざるっ】


 あー、ということは、あれか。


「じゃあ餓鬼球はもう二人ともいらない。犬球は、イバラはまだいるのか?」

【感嘆っ】


 おーけーおーけー。種族的な話か。

 一度格付けしとけばマウントとれて、あとはボコるだけで取り込めるわけね。

 そうなるとあの珠の色は種族か強さで変わるのか。


「ちなみに、俺は〈鬼〉だろ。犬と最初にイバラが食ってた親父はなんだったんだ」

【〈邪《じゃ》〉っ! 鬼は〈邪〉っ好き、おやつ! だから親分とイバラでも犬、亡くせたっ】


 紫は〈邪〉で、有利不利があると。

 法則が在理って名からして概念か。五行みたいな。


 犬は格上だったが〈鬼〉だからまだ勝てた?

 にしても親父は〈邪〉かよ解釈一致でウケる。餓鬼に瞬殺《しゅんころ》されてたもんな。


「じゃあ苦手なのは?」

【〈妖《よう》〉っ、なんかこー、なんかっ、怖っです】


 イーっとしている。

 まあ確かに鬼って多くのイメージはパワーっぽいし、絡め手系っぽいやつは苦手そうか。


 いいねぇ、情報が増えてわりと方向性も見えてきたな。

 そして、目標も定まってきた。というか変わっていない。


 俺はこんな世界でも、自由に生きたい。

 自分勝手にっ! 好き勝手にっ! 生ぎたいっ!


 完璧だ。

 名シーンで薄めたし許されるだろうね。嫌悪感と感動でカロリーゼロよ。


 とはいえ、命が羽毛より軽い世の中で、好き勝手するには安全と力がいる。


 それはここにいては手に入らない。

 先程は慌てて動く方が危険だったので戻ったが、もう動く頃合いだ。

 というかここに居続けると、たぶん死ぬ。

 大通りのやつが来ては、お前がボールなっ、にされてしまう。


「なあイバラ、お前なにかしら、気配? 相手の位置みたいなのわかるだろ」

【嗜む程度にっ、でもお手並みしだいっ】


 そうだよな。あっち行くなだの、犬が来ただの、あれは敵わないだの、俺よりも察知能力高いものな。

 ただ察知できない場合もあるって感じだ。実力差とか色々か。


「じゃあもっかい確かめるけど、このまま大通りに戻るとどうなる?」

【短くも、これまでに感謝っ】


 死ぬのね。


「じゃあ、このまま上に登って、五階から隣のビルに移ってここから離れる」

【なくもなく、まんざらないっ】


 なんか微妙だな。キレが悪くない。肉だけじゃなく食物繊維もとるんですよ。


「もしかして、上になんかいるのか?」

【へい、きっと〈邪〉の二廻《ふたのえ》ある。イバラ達より一廻《ひとのえ》分強っぽい、でも……ふたり共すればっ、いけんく、な!】


 ひとのえ、ふたのえ?

 使い方的に階級的なアレで、数字があがると強いのか。

 もう少し詳しく聞きたくもあるが、最低限はわかったので今は必要ではない。


「なら迷うこたぁねぇな。上に行くぞイバラ、勝てる奴は全部ぶっ殺す」

【イバラよりっ、鬼だなぁ】


 なにを他人事みてぇに。お前も子分なら同じことするんだよ。

 行けなくもないなら行くんだよ。全部行けないなら行けないところも行くんだよ。


 上のやつをぶっ殺して魂沌球食って。

 また上のやつぶっ殺して食って、そうすりゃいつか俺の上はいなくなる。

 単純な話で、わかりやすい目的で気分が良いじゃねぇか。


「ふははは、出陣だー」

【にゅわーーー】


 俺は斧を、イバラは包丁二本を掲げてバーから出ていく。

 外は少しだけ肌寒いが、酔いの回った体にはちょうど良い具合だった。


 大通りの騒がしさを無視し、暗い非常階段を登る。五階まで行く必要があった。


 このビルの裏にはみっちり張り付くように別のビルが建っている。

 窓は互い違いで下の階の窓からは外にでれない。


 なんのための窓やねんと思うが、これは逃げられないようにわざとそうなっている。

 夜の街の路地裏の店である。そういうやつも集まる。


 でも五階まで行くと話が変わる。

 建った当初はここも裏も四階であったが、その後こちらだけ違法増築しているせいで、頭一つ高いのである。


 四階まですんなり進む。

 だがそこからが問題だ。

 五階への階段は、わかりやすい後付の金属壁とドアによって塞がれている。

 結構分厚そうで頑丈なので壊すのは選択肢にない。


 面倒だし、絶対にうるせぇ。


 しかしもう一箇所、実は五階に上がるための階段がある。

 場所は四階を占めている店の中である。

 妙な場所だが、たぶんビルの中に孤島でも作りたかったんじゃない。


 警戒しながらフロアにでる。フロアの端から灰色の廊下を進む。

 チカチカ瞬く蛍光灯は、現在なにを動力に光っているのか。

 中で小人さんが自転車でも漕いでいるのか、棒を掴んで回しているのか。


 今のところ異常はないな。

 ここのフロアには一店舗しかない。

 接待飲食店営業《キャバクラ》の届けをしている店であるが実際の中身は不明だ。

 たまに酒を頼まれて運んだこともあるが、カスほどに興味がなかったので自分から近づくこともなかった。


 エレベータの扉の前を通り過ぎると、先には黒と金色で装飾された置き看板がある。

 さあ後少しとのタイミングで、突然赤いベルベット張りの店の扉が勢いよく開いた。

 飛び出してきたのは赤いドレスの嬢である。


「助けてっ、バケモノがっ」


 俺を見つけるなりそう言って、勢いそのままに抱きつこうとしてくる。

 すっと避ける。誰だお前、当たり屋かよ。


「きゃっ、なんでっ」


 べちゃと転んだ嬢が表情を引きつらせ俺を見る。なんか文句でもあるのか。

 うちはお触り禁止ですぅ。そういうの別料金でぇ、在庫も切れててぇ。

 一昨日きな! 来ても帰りな!


 ぺっと唾棄し、俺は斧を手にドアを蹴っ飛ばして勢いよく店に乗り込んだ。

 外に逃げられない以上、俺に選択肢などない。そうとなればいっそ収穫じゃ。

 ぐへへ、タマちゃんは俺が頂く!


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