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獄楽天 〜地獄のような世界でも酒カスの俺は幸せに生きられる〜  作者: 脳楽
鬼人偏人編

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十九杯目:獄中で楽を得れば、世の全てが天と成る(後)


 合鴨の行列よろしく戻る途中、大通りに店を構える車屋で夜を過ごした。

 試しに外に鍵をさしたまま放置されていた車を動かしてみたが、うんともすんともいわなかった。

 何台か試したが同じだ。


 前にも試したことはあるが、その時も動かなかった。

 複雑な機構になると、一廻の空気ですらまともに稼働しないらしい。

 ただ寝床がわりには便利だ。虫とかも気にしないでいいし。


 夜、皆が寝た後に、イバラの感覚を頼りに叉月用の球ちゃん狩りを行った。

 途中〈妖〉属性の敵に会い、試しに鬼面乱舞《きめんらんぶ》を発動してみると、無事に幻術に対抗することも確認できた。


 結構嬉しかった。ようやく〈妖〉への対抗手段を得られたのだ。

 まあ、実は幻術撒かれて逃げ回られるだけで、まだ全然ヤバいんだがね。

 今後は、こちらのリスクを、相手にバレないように立ち回らないとなるまい。


 その上で、吉報はもう一つ重なった。

 狩りも終わり、車屋の店内ソファーで夜酒を楽しんでいたところ、イバラと手を繋いだ叉月がやってきた。


「薬《やく》さん、イバラちゃんに洗ってもらった球を飲んでいたのだけど、さっき急に何かが先に進んだ感覚がしたの」

【ね、たいらも二廻きたっ】


 いいねー。エンカウント運がわりと良かったもんな。

 こりゃ帰ってすぐ干岩に伝えてやらねば。

 おやぁ干岩君、新人にすぐに追いつかれて悔しいかーい、つってねプププ。


 にしてもだ。

 幻術への対抗、戦力の増強。

 これはもういけるのではないか……遂に、俺の理想郷への大きな一歩がね。


「くくく……ふふふふ……はーはははは! 待ってろよ、毛玉どもめぇ」

「すごい楽しそうな所で申し訳ないのだけれど、新しい力が使えるようになったみたいだから確認してもらえるかしら」


 三段笑いで遊んでいる俺に、叉月は「ほら」と言った。

 ガラガラガラガラ

 暗い店内に、乾いた音が鳴り響く。

 積み木が崩れたようなその音と共に、叉月の背後に銀色のモヤで出来た骸骨が組み上がった。


 やっぱそっち系なんだ。


 成人男性くらいの身長と体格の骨である。

 骨は銀のモヤで覆われており、関節はそのモヤで繋がっているようだった。

 腕や頭部が体から時折離れ、叉月を後ろから守るような位置を保っている。


 試しにそっと叉月の方に手を伸ばしてみる――

 ペシィ、と髑髏が俺の手の甲を叩き払った。

 木の洞のような暗い眼窩で、じぃっと俺を見てくる髑髏野郎。


 おもしれぇ。

 ほーれ、ほーれ、ほれほれ。

 右手左手と高速で差し出される俺の手、払い続ける髑髏。


 速度はまあまあ、力はそこまで。

 だが逆に言えば二廻の初期でこれと考えるとかなり強く感じる。これも相性の影響か。

 全力でオラオラすれば勝てるが、そういう用途ではなさそうだ。


「みて薬《やく》さん、すごい杭も持てるみたい」


 ひょいひょいと杭を叉月が投げると、ドクロはそれをお手玉のように手にし、先端を俺に向けて両手で突いてきた。


「やめぇい」


 ダブルピースの状態で、杭を指で挟んでピタリと止める。やはり力比べでは負けない。


「あ、ごめんなさい、私すこしハシャイでしまったみたい。恥ずかしいわ。薬さんにはどうせ当たらないから、試してみたかったのね」


 白い指で顔の左右にあったドクロの腕を押し戻すと、叉月は肩越しにドクロをじっと見つめた。


「なんだか不思議ね。自分の能力だからかしら、恐怖より安心が湧いてくるの」


 元々ドクロで怖がるタイプじゃねーだろ。

 とか思っていたら、イバラが【フフン】と胸をそらした。


【待っていますかイバラ記帳! 発表するっ。でけでけー、でん!】


 見せられたソレに叉月と並んで目を落とす。

 名は『骨肉宣信《こつにくのしん》』とある。

 能力説明は……なになに、


[それがたとえ、思い出の欠片でも、側に]


 はっと、叉月が息を飲んだ。

 月光を浴びる銀のドクロは、ただ静かに叉月の側にいる。

 なにも語らず、なにも示さず、守護している。

 なんというか。

 イバラさ、ずるくないそれ。

 いつもとの温度差で、こっちまで思わず整っちまうよ。



 ◆



 仮拠点に戻ってきて三日。

 オレンジをこれでもかとぶち込んだテキーラ瓶を片手に、閑散とした都市高速の上に立つ。


「ふふ、呑気な面していやがるぜ」

【いやがるずぇぃ】


 燦々とふる太陽の下、肩車したイバラと一緒にホムセンで拾った双眼鏡を覗く。

 拡大された視界の先、何度も夢でみた建て構えのマンションがある。


 その屋上、ソーラーパネルと貯水タンクの間にやつらがいた。

 白黒の毛玉が踊っている。

 手をふらふら、足をあげてふよふよーと、揺れる海藻みたいな様子で陽光の下で遊んでいる。


 くそぅ。混ざりたい。

 違う、そうじゃない。

 これは情報収集である。

 彼を知り己を知れば百戦殆からずなのだ。

 白黒の周りには、よく見ればゾンビのように棒立ちした死体(おそらく)十数体と、

 その足元にまとわりつく数十匹を超える猫や犬がいた。


 なんで踊ってるのか、なんでワンニャンパラダイスになっているのかここからじゃ全くわからない。

 ただ、犬猫の様子からして、あの死体はおそらくここの住民だったのではないか。


 前回はこの死体たちは姿形も現さなかった。戦闘中もずっと屋上で突っ立っていたのだろうか。

 なぜ……

 守護だから? 戦わせる必要がない?

 戦力としているわけじゃない、とか。


 いまも、死体は別になにをするでもなく猫や犬にまとわりつかれている。

 白黒猫たちも、マタタビ棒を振り回したり、追いかけっこしたり好き勝手に遊んでいた。


 なんかさぁ。

 前から思っていたが、こいつらあまり敵意がないんだよな。

 負けた時も別に追いかけてこなかったし、どうしても命まで取ろうって感じでもなかったんだよな。


「んー」


 考えれば考えるほどやりづれぇ結論に至りそうになる。


【どうしたの親分?】

「だー、こまけーこと考えてたら面倒になってきたぜ。もう知らね、とりあえず行ってみてから決めるぞ」

【あいあい!】


 よっしゃーと肩の上のイバラを揺らしながら、階段をすっとばして下へ降りていく。


「いくぞお前ら、城攻めじゃー」


 地上で待機していた、干岩、叉月、マリに声をかけ、俺は目標のマンションを指し示し急かした。


「ちょっと薬道さん! あーもうなんで動物絡むとIQさがるかな」

「動物に話しかける時どうなるのかしら。少し興味があるわ」

『でちゅ、とか言ってたら……直視できないかも』


 うるせぇんだよ。早く来いよお前ら。

 おら、突撃だ!




「たのもーーーーーー、道場破りだ。道場主猫をだせーーい」

【せーーい】


 建物正面からズカズカと入り、イバラと一緒に叫ぶ。

 不意打ちされたらまじ危ないのだが、一応後ろに干岩達を控えさせている。

 それに俺の直感では多分ないんだよな。

 たぶんアイツラの性格だと俺の勢いに釣られて……


【にゃんだこらー、にゃにものだー】

 ばばーんと両手を上げる白いユデタマ。

【む、みたことがある鬼にゃ、こりずにまーたきたのかっ】

 マタタビ棒をぐるぐる回し、アチョーと構えるノリタマ。


「でたーーー、まんまと釣れやがったな俺の猫ども!」


 俺とイバラが拳と爪を構えれば、


【誰がおみぁの猫にゃ、尻尾巻いて逃げた鬼っこめ】

【愚かニャ、若さゆえの浅慮だにゃ】


 阿吽像の如き立ち姿で二尾の猫又が迎える。

 ごごごご、っと背後で鳴っていそうなほどの睨み合い。

 俺は、にやりと笑った。


「あの時は世話になったな。俺も気を引き締めて修行し直してきたんだ。見て驚けこの力ぁ!」

【イバラもっ】


 ふんと隠していた在力を二人解放する。気分は地球育ちのアルファベット戦士である。


【にゃにぃっ、この力、にゃあ達よりもっ】

【にゃん……だと、まさかこの短期間でここまで】


 反応いいなぁお前ら。

 俺は気分よく、酒95のオレンジ5のテキーラ超サンライズをごっきゅごっきゅと飲み下し、口元を拭う。


「俺の戦闘力はまだ上がるぞ。どうする勝負するのか。それとも大人しく〝今から〟我が家になるココに迎え入れられるかを選ぶがいい」


 俺の言葉をきいたユデタマがぺぇっと毛玉を吐いた。


【いきなり来てちょっとユデにはにゃに言ってるのかわかんにゃいな。イカれてるのか馬鹿にゃのか、どっちもか】


 ノリタマがシャーと牙をむく。


【まあ、にゃんにせよ戦いは避けられにゃーか】


 どうやら合意はなったようだ。では早速。


「よーーーし、では勝負のルールを決めるぞ、いいな!」

【いいわけにゃーだろ、勢いで押し切ろうとするにゃ】

【戦いにルールなどにゃい!】


 はいはい、そう言うと思ってましたー。

 お前ら妙に武人肌だもんな。

 でも俺は二匹を倒したいわけじゃないし、敵対したくもない。

 俺は真面目な顔で猫どもを見る。


「いいのか? 俺は勝負の範囲や人数、決着した後のことを決めたいだけなんだがね。お前らだって〝上〟の奴らを巻き込みたくねーだろ?」


 銀と金のキャットアイが、俺の言葉に窄《すぼ》まる。


【なんのことにゃ、どういう意味にゃ】


 ごまかそうとするユデタマ。


【……いい、聞いてやる。言ってみるにゃ】


 しかしノリタマが遮った。

 よーし、のってきた。


「建物を壊したくないから、勝負は外の駐車場で行う。人数は二対二、能力で出したものは数にはいれない。お前らの火の玉なんかもいくつ出したっていい」


 うんうんと頷く猫共。


「そして、範囲は最初に話し合って決める。範囲に入るのも二名だけ、外から中への援護攻撃は一切禁止だ。最後に、もし負けたら相手の言う事に一つ従うこと、これでどうだ。まあまあ公平だろ」


 ピクピク、と白と黒の耳が動く。


【そんにゃんでいいのか?】


 ユデタマは不思議そうに口をムニャムニャし、


【約束を違わぬにゃら、異論はにゃい】


 ノリタマは怪訝そうに目を細めた。


「〝約束〟する。ルールは必ず守るぜ」


 ふふふ。

 俺はニヤニヤしながら外に出た。



 駐車場、テニスコート二枚分くらいの範囲を適当に決める。

 いい感じの狭さだ。

 ユデタマとノリタマが待つ中央へ、俺は一人近づいた。


【ん? 手下の子鬼はどこにゃ】

【にゃんだ、いまさら怖気づいたのか】


 鼻をピクピクさせる二匹に、俺は言った。


「イバラはでないぞ、うちのデカいのが出る」


 幻術耐性ないと話にならんからな。

 ぷぴぃっとノリタマが鼻で笑う。


【あいつか、前に勝負はついてるはずだがにゃ】


 甘いぜ。


「ヌテラON生クリームくらいゲロ甘だぜ。かもーーーん干岩!」


 ズン、とまるでそんな効果音が幻聴で聞こえてきそうだ。

 俺の背後から、干岩が現れる。


【にゃ!?】

【にぃ】


 持ち前の巨躯、覆うように体に星布が巻かれている。

 キラキラしているラメ岩と言っていい。

 右手にはいつものレール。

 追加でいつもと少し違うのは、四肢にぐるぐると茨が絡まっていることや、幻影の煙がまとわりついてること、

 後は背後に銀色のドクロがくっついており、手にはイバラの包丁が二本握られていることくらいだ。


 うん、オカシイところはどこにもないな。


「紹介しよう、彼がフルアーマー干岩君だ」

【き、汚にゃあああああああ】

【お、おまえ、人として恥ずかしくにゃーのか】


 鼻面にシワを寄せて、二匹がうぎゃーと歯を剥いた。


「は? なにを恥ずかしがる必要がある。皆の心を一つに、皆のパワーを一心に集め、立ち上がった漢! 彼こそが干☆岩だ。美しい友情パワーだろうが。ルールだって何一つ破ってない! なあそうだろ?」

「ひぃ、ごめんなさい。もうオレが恥ずかしい」

「黙れぇい。無駄口などいるか、男の勝負だ!」


 鬼面乱舞を発動。幻術無効状態で襲いかかる。


【いやにゃあああああああ】

【でかっ、なんにゃあいつ】


 逃げ惑う猫ども。まてこらー。

 冷静になればまだお前らの方が有利なのになぁ、こっちの勢いにパニックになって気が付くまいて。

 ぐへへ。


 いやー、これは勝ち申した!

 これで俺も立派なマンションオーナーだ。困っちゃうね。

 どうしようかなー、名前つけちゃおうかな。

 ちょっとダサめの場末の感じがいいなー。

 ペット可、個別部屋、働きがいのある職場つき。

 飲酒休憩ありありのあり。

 キャッチフレーズは、

 地獄でも楽しめる天国のような場所!


「保護猫じゃーーーーい」

【うにゃあああ、幻術きかないにゃあああああ】

【あの岩っ、なんにも攻撃通らにゃいしまじ無理にゃああ】


 今ならなんと、喋る猫も完備しています。

 さあ、おいでませ『獄楽天』ってね!



 鬼人偏人編―完―



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