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獄楽天 〜地獄のような世界でも酒カスの俺は幸せに生きられる〜  作者: 脳楽
鬼人偏人編

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20/25

十九杯目:獄中で楽を得れば、世の全てが天と成る(前)



 決着のあと、裂け目を掌握し斧やカルカダンの球などを回収した。

 シシケンたちの死体は手つかずのままだ。

 個人的には、黒木以外にも球があるのかとか興味はあったが、ここで遺体をバラすのはあまりに悪手。

 せっかく上げた俺の株をドブに捨てる行為だ。

 埋葬をする義理もないし、あとは朽ちて風化してくれ。


 見渡す。

 みんな、揃って疲れきった顔をしている。

 気持ちはわかるけども、鑑識官《かんしきかん》じゃないんだ。

 惨殺現場に居座っている意味はない。

 俺は追い立てるように皆を引き連れ移動した。



 グラウンド手前の大階段まで来た。

 天邪鬼はもういない。

 ここの今の主は俺だ。

 仮に生き残りがいたとしても、脱兎の如く逃げた後だろう。


「よし、体育館組は全員揃っているな」


 図書室に残っていた者はここにいないが、俺の知ったことではない。

 大学の講義みたいに、階段へ座った皆を見上げる形で、俺とイバラが並びたった。

 下手に繕ってもしょうがないなと、まず自分の希望を口にする。


「俺なりにわかりやすく話すが、長々とやりとりする気はない。だから質問も一旦受け付けない。これを飲めない者は、いますぐこの場を自主的に立ち去ってくれると手間がない」


 少しざわつくが、立ち去る者はいない。

 良かった。この程度も守れない奴と俺は集団行動をしたくない。

 じゃあ、と俺は口火を切った。


「俺の知っている限りだが、いま世界中が似たような状況になっている。現状だと、無事なエリア、マシなエリア、終わっているエリアと地域で差がある。強いて言うならここはマシなエリアだ」


 動揺が走る。


「そ、そんな」「ここよりひどい所が?」「冗談はやめてくれ」


 絶望したような顔をした者が複数名いた。

 自分たちこそが渦中だと思っていたのかもしれない。


「ちなみにだが、俺と仲間は、無事なエリアからわざわざここに移動してきた。理由は簡単だ。すし詰めになった安全エリアで暮らすのが嫌だったからだ。絶対に暮らしづらいし、いつまでもそのエリアが安全という保証もないからな」


 シン、と空気が凍りつき静まり返る。

 じゃあどうしたらって感じだろうな。

 そこで俺は指を三本立てて示す。


「俺は一人ひとりの相談を受けるほど親切じゃない。だが最低限選べるように、三つの選択肢を提供する。好きなものを選んでいい。この中に好みの選択肢がない場合は、自分で考えて自分の責任で勝手に行動するんだ。俺はそれ以上は知らん」


 指を一つ折る。


「一、今ある食料を残していくから、このままここで過ごす。選ぶなら、最低限の生き方だけは教えてやる」


 さらに一つ折る。


「二、近くの安全エリアまで逃げる。こちらの指示に完全に従うという必須条件を飲むならば、エリア内まで纏めて送ってやる。着いたら後は自由に解散だ」


 そして最後の指を折る。


「三、俺が拠点にする予定の場所に居を構え、生活を良くするために働き暮らしていく。ただ、三つ目を選ぶなら相応の覚悟をしてくれ」


 堂々と腕を組む。隠す気はないと双眸を据える。


「俺はこんな世界でも楽しく愉快に過ごしたい。酒を飲んで、美味い飯を食って、たまに贅沢なつまみを楽しんで、綺麗な寝床でペットを撫でくりまわしたい!」


 嘘などない。言う必要もない。


「だから俺は自分でそういう場所を作る。そのために、俺は自分にはできないことを埋める誰かを求めている」


 一呼吸おき、続ける。


「ハッキリと言っておく、誰も彼もは受け入れない。文句ばかりいう無職はいらん。まじで来るな。男も女も関わらず、自分にできる仕事すらしない奴は力ずくで追い出す。それを可哀想だとか文句を言うやつも、一緒くたに消えろ」


 これは例え先生方でもかわらない。

 知識の教授、経験則による現場への指示。

 形はなんだっていいが、元気に動ける内はなにかの仕事をしてもらう。

 でも、と俺は付け加える。


「それでもこんな地獄の中で、天国を目指すというなら、俺の出来る範囲でまとめて面倒をみる。好きに選んでくれ、それがいまここにいる者に残されている自由だ」


 俺は言うべきことを告げ、口をつぐんだ。


【一番のりはイバラっ】


 イバラが俺の右足へコアラのように抱きついてくる。

 君は最初から勘定に入っているの。選ぶ立場じゃないわけ。

 ほら、大人しくしてて、俺の威厳とかが薄れちゃうから。


「え、この流れオレたちも選び直す感じですか」

『いまさら解雇されても正直困ります』


 干岩とマリも怪訝な顔だ。うるせえ、お前らも勘定内だよ。


「私も、まだ薬《やく》さんとの約束もありますから」


 叉月がすっくと立ち上がった。義理堅いことだ。


「サツキン、じゃあわたしと父さんも?」

「そりゃ陽子と一緒に父さんも行くさ」


 叉月につられ黄虎親子が手を上げる。


「求められるってのはいいねぇ、じゃあおじさんも米作っちゃおうかな。家族を食わせないといけないから」


 米先生の農厳《のうげん》が朗らかに言い、球磨がシワだらけの表情を崩した。


「儂は最初の返事からかわらんよ。酒蔵一同、全員坊主に着いていく。真っ当に仕事ができるならどこでもええわい」


 球磨の言葉に三役と、他数名が手を上げ笑っている。

 思わず、俺は「よっしゃ」と心の中でガッツポーズを掲げた。

 はいはい、と新たな手が上がる。


「ほーらほら金錠のおじさんだよー。一緒にお酒も飲んだ僕だよ。いや当然着いていくさ、ほら金さんやっくんの仲だものね!」


 体を折り曲げ、手をもみもみーとしながら金錠がでてきた。

 どうやったらそこまでの胡散臭さを出せるんだろう。


「金さんもちゃんと働いてもらうからな」

「そりゃもう! でもやることやったら怠けていいんだよね、ね?」

「当然だ。俺だってなにもなければ、そりゃあもう怠ける」

「いやっほーい、やっくんは話がわかるねぇ!」


 飛び上がり喜ぶ金錠、子供おじさんめ。

 とはいえ、理科室でやることはやる男だとわかっている。

 色んなことを器用にこなし、怠惰と酒を心から楽しむ金錠のことは、正直そんなに嫌いではない。


 そこからなし崩し的に、理科室で一緒に働いていた者たちが名乗りを上げた。

 さて、俺にとっての主要メンツは揃ったが、あとは何名が着いてくるか――

 ガヤガヤと集まる人々の喧騒を聞きながら、真剣な顔で悩む残る者たちを待つ。



 それからしばらく。

 十分ほどの間、あちこちで小さな相談の輪ができた。

 暇な時間、なにを言わずとも金錠はわざわざ図書室に残ったメンツを呼びに行き、かわりに説明まで行った。

 痒いとこに手が届く、孫の手のような男である。


 金錠の話の後、上に残っていた班で、着いてくると答えたのは二人だけだった。

 ある意味当然なのか、アップル君とマッシュ君の二人である。


 二人は少し照れたように「やりがい、まだまだ感じたいんで」と言った。

 へへっじゃねーよ。スイカの皮くれぇ青臭いやつらだ。

 まあいい、馬鹿みたいなサボり方しやがったら即ぶっ飛ばすからな。


 さて、なんだかんだ二十数名が俺の元に集まった。

 ここに残るものはおらず、A班含む上位班を中心とした十数名は、安全エリアに逃げることを選択した。


 俺を信用できないから。

 家族が残っているから。

 子供がいるから。

 国を信じているから。

 色々な理由があるようだ。


 ただ、安全圏に逃げる人が多いのは少し意外だった。

 どう考えても生活大変なのに。

 もしかしたら、図書室組にシシケン達を全員ぶっ殺したと話した際、A班の男がギャーギャーと掴みかかってきたのをぶっ飛ばしたのも原因だったのかもしれない。

 殺してないだけいいじゃん。



 それから、まずは俺達と行動を共にする人々を仮拠点につれて帰った。

 干岩とマリを仮拠点に残し、イバラと俺と叉月は早々と学校へトンボ返りする。


 非常に面倒くさかったが、安全圏に逃げる人たちを送った。

 三廻の圧力を全開に、イバラの感覚を頼りに安全ルートのみを選択することで、道中は安全に進めた。


 まあ疲れただのなんだの文句をいう女や、感化されて大きく出てくる男はいた。

 案の定、体育館にいなかった奴らである。

 俺からすればボランティアでしかないので、文句言うなら後は自分で行けと突き放すと、黙りこくった。


 そう言われることくらいわかってただろ。なぜ我慢ができないのか。

 まあ、どうせ短い付き合いだ。俺の知らない場所で好き勝手に生きたらいいんじゃない。

 はい解散! と俺は全員を都会におかえり、と解き放った。


 少し安全圏の状況を見たが、わりと終末味を感じさせていた。

 店、戸建て、マンションなどの割れたガラス窓。

 道路にはゴミが散らかり、所々で喧嘩する声も聞こえた。


 エリア端の時点で、すでに河川敷や道路の脇に寝そべっている人たちがおり、住居スペースが足りないことが伺えた。


 リスクを取らない選択肢が、自分の首を締めることもある。

 まあ、最終的には残ってたやつが正しかった、という結果もあるかもしれないけどな。

 それでも、俺は自分で決めた道筋で生きていくなら後悔はない。



 帰りは少し寄り道しながら戻った。

「近くを通ったら頼む」と皆から渡されていたメモの住所を尋ねて回ったのだ。


 一応事前に聞いていた家族間でしかわからない情報を証拠として話をしていった所、不可思議なことに帰る頃には十数名の道連れができていた。

 なんなら行く際より数名増えていた。


 あまり知らない人を増やしたくないのだが、今回は仕方あるまい。

 これで住民の働くモチベが上がるなら、後の俺のためとなる。

 家族の無事を伝えた時、ボロ泣きしながらお礼を言われた。

 別に、そんなに悪い気もしなかった。



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