九杯目:袖振り合うかは俺が決めんだ
仕事をする男の味方、作業服屋の店舗内。
両手のひらに目玉をつけた、ボロボロの着物を着た盲目の僧侶のような爺が発狂しながら俺に襲いかかってくる。
【悪党に殺された恨み、はらさでおくべきか】
「当事者にはらせボケ!」
消防斧で肩からバッサリと切り、倒れたところを炎を纏った右足で踏みつけた。
絶叫。
燃え盛る炎の中で、おどろおどろしい声を残し妖怪爺が焦げた骸にかわる。
【取ったりっ】
イバラが焼死体から取り出したのは、二廻の〈邪〉の球である。
久々に見たな。これなら仮拠点の片付けをマリとさせず、干岩も連れてきておくべきだっただろうか。
二廻に至れば使える能力も生えてくるかもしれないし。
いや、まだ早いな。
イバラから受け取った球を俺はゴクリと嚥下する。
体の中に何かが満ちる感覚はするが、それは激しいものではない。
もう一息で大人の階段登りそうな感じはするんだがな。
まあ、それまでは干岩には我慢してもらうとしよう。
わりと人間性はわかってきたが、今のところは俺が三廻にたどり着くまで能動的に干岩を二廻しようと思えない。
戦力を取るか、用心をとるかの天秤だ。
【親分、先に奥の裂け目の片付けっ】
「ん、ああ、行くから引っ張んな」
ズボンの裾を引かれるがまま奥に進み、レジカウンターを越えた店の裏側に入る。
椅子やテーブル、補正用のミシン、開封中の段ボールなどの先にそれはあった。
空間が引き裂かれたような赤黒い裂け目。乱曼荼羅がいたビルで見たものと同じだ。
「んで、これをどうすりゃいい。縫っちまうか」
なみぬいしか出来ねぇよ俺、強すぎて巾着みたいにする自信がある。
【茨貸す? ふふっイバラも冗談わかってきたかっ】
きゃっきゃと喜んだあと、イバラは裂け目を指差した。
【在力を流して支配。火でぼぉってしてもよかれっ】
財力が滅んで在力が支配する世にってことね。まあよくわからんがものは試しか。
丹田から力が渦を巻き、右手に流れて炎が生まれる。
栓を抜いた風呂の水みたいに、吹き出た炎が裂け目に吸い込まれていく。
表界と裏界を区切る裂け目の輪郭が、炎を飲み込むほどに明るくなる。
韓国バーの壁で光るネオンみてぇだ。
発光する裂け目が一際大きく輝いた。そしてすぐに光量を落として安定した。
【わっ、親分、はじめての縄張りっ、お祝い】
「ほう、全然わからないが、これであのクソ目玉とかも出てこねぇのか?」
【むー、ここは薄いから、ない。小さいの、親分が主張してる、ないっ。恐れないのが、表で上書きしたら、終わりっ】
はいはい、そういう感じね。
基本は早いもの勝ちで、霧が濃い状態で裂け目を空白にしとくとやべぇのがくると。
犬の縄張りと似たようなもんで、在力の気配で格下を追い払うんだな。
裏からこない理屈はよくわからんが、上書きするには表側からでないと駄目、と。
結構、面白いルールだな。
つまり俺が最強になって裂け目を手中に収めていけば、バケモノ相手だけならエリアの濃度も調整できるってことだろ。
いいねぇ。
「なあイバラ、俺は何廻までいきゃ神になれる?」
【神? それはみーんな九廻、本当の神様たちっ】
「げ、九もあんのかよ。ちなあの目玉はどのくらいだったんだ」
【んー、んー、七くらい? 三と四まではまだ見る、そこから先は壁、越えたらお化けたちっ】
げ、あれで七かよ。じゃあ九はまじでゴッドだな。世界もフリーズすんだろうね。
「でも一回は拝んでみたいもんだな神ってやつ、友達にはなりたくねぇけどさ、うるさそうだし」
【ん? 神? 親分たちも知ってるっ、だれも知ってる。だって神達の形は、表から裏にんーっと、にゅうにゅうしてきた形】
にゅうにゅう? あー流入ね。形が流入ってーとつまり。
「もしかして、こっちの伝承とか有名なやべぇのがいるって話?」
思い出してみれば確かに、どこか聞き覚え、見覚えのあるような奴がいた。
【そう! 裏は元々形がないだった。でも表からぎゅうぎゅうしてきて形になった。昔は裏から少しずつ溢れてたけど、最近はまったく漏れなくて溢れたっ】
へえ、表裏で循環してたわけね。
イメージが裏にいって形になり、溢れて妖怪やバケモノとして表に出てきた。
まあ昔話にはよく出てきたもんな。今じゃせいぜい怪談くれーなもんだ。
「にしてもずいぶん詳しいな。お前らみんなそうなのか?」
俺の言葉に、うーんとイバラが唸る。
【イバラは産まれてからずっと、にょろっと渦につながってて、ふわっとわかる。だからイバラかしこいっ。でもほかの餓鬼はかしこくなかった。でもイバラも、伸び盛ってから色々わかるようになった、まだ深いはよめない】
持って産まれた仙才餓鬼才の能力か。
偉くなると情報回線太くなっていくのかね。
お前、賢くてよかったな本当。じゃなかったら最初の段階で絶対ぶっ殺してたぞ。
まあそれは俺も一緒か、イバラに出会えた時点でかなり運が良かった。
足元のイバラの頭、二本のツノの間にぺしんと手を乗せる。
ほーらよしよし。
【んーっ、んーっ】
気持ちがいいのか、前後に船を漕ぐようにセルフ撫でられしている。
まあイバラ先生からのご教授も、今日はこのあたりで良いだろう。
着替えの確保という、ここに来た本来の目的を果たすのだ。
さて、と見渡す。
周囲には様々な商品が溢れている。
頑丈そうな作業着から手袋、肌着や下着まで色々だ。
最近の作業服屋はもう何屋かわからねぇな。
俺は大きな布バッグに、服やロープや手袋など適当にポイポイと放り込んでいく。
お、5Lとかあるじゃん。これは干岩用だな。
バカデカサイズのつなぎやジャンパーを入れる。ガタイが良いと着替えの調達も面倒だな。
女性用のインナーもある。
女の下着なんぞわかんねーし、フリーサイズを持っていけばいいか。余裕ができたら自分で探せって話だ。
引っ張るタイプのキャリーワゴンにポコポコと荷物を突っ込んで、俺はいったん店を後にする。
また必要になったらくればいいだけだ。どうせ人もいねーしな。
漁りが終わった後。
都市高速の下のでかい道路を、キャリーワゴンを引っ張りながら移動する。
乗り捨てられた車、焦げたトラックの横を進む。俺の奏でるゴロゴロだけが響く。
なんとなく向かっていたのは、ショッピングモールだ。
この道路をあと十分も歩けばたどり着くだろう。
移動は基本的に一人で歩いていた。イバラにはわざと距離を離し身を隠してもらっている。
索敵をしてもらっているのと、なにかあった時に俺を助ける役目だ。
いきなり飛び出てジャジャジャジャーンつって、二人とも幻覚をかけられたら馬鹿がすぎるからな。
そんなイバラからの報告が来るまでもなく、俺はそいつを見つけた。
黒い乗用車のタイヤに寄りかかるように、座り込んでいる老人。
死体か化け物か、イバラがなにも反応しないあたりまさかの人間か。
まずは麦焼酎をグビリ、気分は下町のボナパルトだぜジョセフィーヌ。
体に活力をみなぎらせ警戒しながらも接近する。
キャリーワゴンの音に反応し、グレーのポロシャツにスラックスの老人がのろのろと顔をあげた。
今のところ、おかしな気配はない。妙な圧力も感じない。
「おお、おおお、本物の人か? 祈りが通じたか?」
起き上がり、無造作に近づこうとしたので、俺は即座に手振りでとめる。
こんな場所にいる時点でかなり怪しい……
まあ最近このあたりを俺が狩りまくってるせいで、バケモノが少なくなっているし、無事に迷い込む可能性もなくはない。
「動くな爺さん。両手をあげそのまま後ろに下り、後ろを向き目を閉じろ。安心しろ殺すほど暇じゃない。俺がここから去るまでの間そうしてるなら、お茶と食い物を少し置いていってやる」
一本のペットボトルと黄色い箱の棒状栄養食を地面に置く。
一日一善だ。
屑に無制限募金していたせいで、コンビニ募金に金を入れることはとんとなかったが、いまでは爺に水を撒く余裕もあるってなもんだ。
いや気分がいいぜ。善行を積んだし、これでレバー叩けばペカるかもしれねぇな。
「じゃあそういうことで、達者でな爺さん」
「まてまてっ、おい。見捨てる気か、冗談じゃろ。何を考えておるんだお前」
なにもクソもあるか。冗句を交わす仲じゃねーだろ俺達。
「なんだ爺、急にハリキリやがって。動くなっていってんだろ。鼓膜までフルマラソンくれーの距離でもあんのか?」
作業服屋でゲットした腰袋に突っ込んでいた斧を手に取り威嚇する。
爺は体を怯えさせながら顔で怒るという器用な真似をみせた。
笑いながら怒るくらいしかみたことねぇな。
「貴様はっ」
「なんだいきなり尊敬語で呼んでよ、擦り寄りか」
「あーいえばこういう……まあいい、なあ助けてくれんか。困っとるんだよ」
入れ歯砕けるんじゃないかと思うくらい歯ぎしりし、急に猫撫で声を出してきた。
でたでた、金なくなってタカリにくる親父がよくやってきたやつだ。
「世界がこんなで俺も困ってるんだが、俺が助けるかわりに、爺さんはなにをしてくれるんだ? 何ができて、何を俺に与えてくれるんだ?」
それは、俺なりの最終勧告だった。
爺はそれを聞いて考えるでもなく憤慨した。
「見返りがないと人助けもできんのか。こんな世の中になって、手を差し伸べることもできんのか!」
正論めいたことを喚き散らす爺さんに俺は、
「当たり前に助けられると思ってるやつ、助けられる代わりになにも差し出せないやつが生き残れる世界じゃもうねーんだよ。手を伸ばして人の足引っ張るやつは諦めて死ね。水と食い物は俺からの供養だ、とっとけ」
はっきりと言い捨てた。
「――ッ!」
激怒した爺が何か言おうとしたが、足元のコンクリートの残骸を背後の車に投げつけ黙らせる。
「次は当てる」
助手席のドアを貫いた弾丸に、爺は俺に飛びかかる気力を失ったようだった。
呆然と立ち尽くす爺だったが、放置して去る俺の背に我に返ったのか叫び声が飛んだ。
「外道め、この鬼の子が。必ず天罰が下るぞ、儂が予言してやる。必ずだ!」
妙に通る声だった。吠える爺の目が、ギラギラと輝いているように見えた。
知るかぼけ。三途の川で吠えてろ。
まったくなぜこういうやつが世の中に存在するのか。昔からそうだ。
金を貸してくれとか、見逃してくれとか、なぜ助けられようとしているやつが、断られると偉そうに怒鳴り散らすのか、俺には微塵も気持ちがわからなかった。
一瞬だけ、ここで殺しておいたほうが後腐れないかと過ったが、やめた。
それをやり始めると、恐らく俺の考える幸せな生活とやらにたどり着けなくなる。
まあ爺が害意を持ち俺に攻撃の意思を向けたなら、躊躇いもなく始末したが。
今日は本当になんだというのか。
本当によく人に会う日だ。
ショッピングモールに向かっていると、今度は前方から二人の男がやってきた。
同年代くらいだろうか、茶髪で爽やかな顔つきのジーンズに白シャツの細身の男と、黒髪の真面目そうな顔をしたカーディガンを羽織った男だった。
茶髪の男は手に先を研いだシャベルを、黒髪は二本のナタを持っている。
だがなにより気になったのは、茶髪の男の肩の上だ。
よく見れば黄色いイタチのような獣が乗っていた。知性を感じさせる瞳で俺を睨んでいる。
明らかに裏界の存在だ。もしかしたら痩せすぎた電気鼠なのかもしれない。
ぶちぎれ十万ボルトでも撃ってくる可能性がある。
俺の警戒心は一気に跳ね上がっていた。
五メートルほどの距離をあけ、お互いに足をとめる。
空気がピリついている。妙な動きが一つでもしたら――
「あれ? その馬鹿みたいな美形、もしかして薬道……おまえ薬道か!」
黒髪の男がふいに俺の顔をみて反応した。
ぱっと顔をほころばせ、ナタを腰に吊るした鞘に収めた。
「久しぶり、生きてたんだな」
「誰だお前、馴れ馴れしいな新手の詐欺かなにかか」
「ええ、俺だよ高校二年の時同じクラスだったさぁ――」
そういって男は名前を言ったが、俺は全く覚えていなかった。
高校二年、確かに俺はギリ学校に行っていた。
もしかすればこいつもいたかもしれないし、いなかったかもしれない。
なんだったか、焼肉チェーンみてぇな名前だった気もするなぁ。
まあ別にいいか、俺にとっては興味の無い話である。
「ふーん、そうかそうか」
「絶対覚えてないだろ薬道、相変わらずだなー。ああこいつはおれの友達だ」
ナタ野郎の言葉に、茶髪がなにやら名前をほざき白い歯をみせて微笑んだ。
「薬道君だったかな、よろしくね」
握手をしようと言わんばかりに手を差し出し、近づこうとするスマイル茶髪を俺は斧を抜いて牽制した。
「パーソナルスペースはお互いに守ろうぜ。俺は人見知りだしよ。緊張して手元を狂わせるかもしれない。こういう世の中だ。理解してもらえると嬉しいね。わけのわかんねぇ鼠もいることだしなぁ」
「わ、わかった」
バチっと茶髪の肩で紫電が瞬く。わ、本当に電気でた。
【誰が鼠だ? この雷獣様に失礼な口をきく餓鬼め。おいお前らも油断するんじゃない。こいつかなり〝喰ってる〟正面からやりあっても怪しいぞ】
自分で不利を口走るとは馬鹿か、背後で奇襲狙ってるウチのイバラを見習えよ。
ぐっと重心を落として臨戦態勢になるも、慌てたように茶髪が止めた。
「やらないやらない。なんでそんな争いたがるのさ。そっか、薬道君も珠で強くなってるんだよね。一人だと警戒もするよね。わかるわかる。いまさ、僕たち困ってる人探して救助してるんだ。仲間になろうよ一緒にみんなを助けよう!」
「確かに……薬道いたらまじで頼りになりそうだし、いいな!」
天啓を得たと言わんばかりに笑顔になる茶髪と、嬉しそうに頷くナタ野郎。
お前ら、誰と誰で話をしているんだ?
大学のイベントサークルばりにテンションをあげる二人をみて、多少あった興味も俺の中から消えていった。
「悪いが断る。じゃあな。またどこかで会ったら見て見ぬ振りをしてくれ」
「は、おい薬道、まてよ――っうわ」
さっさと横を通り抜けていく俺に追いすがろうとするナタ野郎だったが、その進行方向の地面に、宙空から飛来した茨が数本突き刺さる。
「ッ!」
「どこからっ」
ほら見ました? 気が利くんすよウチのイバラ部長は。
一歩たりとも動けなくなった二人を置いて、俺はじゃあなと手を振り離れる。
爺よりはマシってだけだったな。
それなりに人手は欲しいが、あれは駄目だ。
俺とは相容れないタイプだ。少し喋っただけでわかる。
せめて意見交換しながら話が進むなら理解もできるが、勝手に話を盛り上げて「そう思うよな」と肩組まないでほしい。
そんな友好深めてもねーし、深める気もない。
まあ一つ間違いなく言えることは、悪いやつではないのだろうね。
だからきっとアイツらは、さっきの老人にだって手を差し伸べるだろう。
否定はしない。俺がやらないことをやるやつを褒めたいくらいだ。
生き方の好みだよ。
だから、お互い好き勝手に暮らしましょうねって話さ。
流石にこれで終わりと思ったんだけどな。
二度あることは三度あるというのか、また人に出会うとは。
出会う、というのは言葉としては正確でもないかもしれない。
夕暮れの中、逢魔が時とも言える時間。
ビルの建築現場に奇妙な音が響いていた。
がぁん がぁん
硬い何かを打ち付ける音。その奥に、息遣いとなにかのうめき声が聞こえた。
イバラを見ると、指を一本立てて返してくる。
反応は一廻、雑魚だ。
たとえ〈妖〉でもイバラを待機させておけば危険はない。
スチール製の仮囲いの切れ目、建築現場の入口に足を踏み入れる。
四階程度まで伸びた建物と足場、落下防止の布の先に出来かけの一階に入り込む。
音がでかくなる。
コンクリートの壁に、うるさいくらいの音が反響していた。
がぁん がぁん
無意識で、音に合わせるように前に進む。
暗い、薄暗い建物の奥に、音の原因がいた。
そいつは、地面にぺたりと座り込んだ女だった。
きっと高校生なのだろう。背中に学校名の入った紺色のジャージを着ている。
しかし、ただの学生といって良いかは躊躇われた。
岩を持っていた。赤子の頭ほどもある、コンクリートの残骸を両手で抱えていた。
振りかぶり、打ち下ろす。
【ぃ、ぃ……ぎぃ……ッ】
振るった先には?マークの上部をギュッとすぼめたような、工事現場用のロープ杭がある。
そしてその杭は、餓鬼より一回り大きい鬼の体に幾本も刺さっていた。
標本の虫のように、体に何本もの杭を差し込まれた鬼。
よく見れば女の周りには数匹の鬼が同じように杭だらけにされ死んでいた。
血で濡れそぼった長い黒髪が、岩を振り下ろすたびに揺れる。
やがて最後の鬼が動かなくなり、ようやく女がこちらを向いた。
紫色の血で染まった顔に輝く、オニキスにも似た黒い瞳。
切れ長の双眸とすらっとした鼻筋、濡れたカミソリを思わせる冷たい表情で、猛禽のような女が俺を睨む。
「あなたも、お父様を殺した化け物の仲間かしら。そうならば早く襲いかかってきてくれない、もう立ち上がるのも面倒なの」
声音は冷静なのに、裏に潜む沸き立つ憎悪を感じる。
そばには男の死体があり、彼女は隠すように座っていた。
言葉からすれば、あの死体は彼女の父親なのだろう。
死体を守るその姿に、人に愛され飼われた鴉のような女だと思った。
頭が良く、しかし恨みを決して忘れない激情を併せ持っている、と。
冗談をいうのも、嘘をつくのも、なんとなく違う気がした。
「音が気になって見に来ただけだ。水ぐらいだったらくれてやるがいるか」
腰袋にいれていたペットボトルをほらと見せると、女は岩をごとっと落として言った。
「貴重な水でしょ、自分で飲みなさい。そういうのは、私以外の女の子にしてあげてちょうだい。だから、私のことは気にせず、触らないでもらえるかしら。もし、それ以上近づくようなら、自分の責任は自分でとるわ」
べえっと舌を出し、八重歯を見せて軽く噛んで見せる。
そこには恐怖ではなく、決意のみが垣間見えた。
「なにを想像したかしらねぇが、俺は商売上手だからよ。墓まで共にする女じゃなきゃ、俺を売る気はねぇよ」
あぐらをかいて答え、コロコロとペットボトルを転がし渡す。まったく近づく気はない。
女は目をしばたかせていった。
「なによ、それ」
ふらっと、体が揺れる。
「随分と、いい心がけ……じゃない――」
言い捨てて、緊張の糸が切れたのか横向きに倒れた。
触らないといったし、どうしたもんか。
考えていると、背後の影からイバラが姿を現した。
【小さいのが集まってきた。いかがっ?】
言われてみれば、気配がする。
日が隠れ闇夜が落ちる。紛れた子鬼がいまもうぞうぞと目を光らせていた。
まあ、タマちゃん集めのついでか。
斧を抜き、酒を呑む。
いいだろう。端から端まで、雁首飛ばしてやるか。
【親分、なんだか楽しそう?】
そうか? やっぱり妙なヤツみつけるとさ、テンション上がるよな。




