最強犬、無一文で人間生活を始め……?
リン――。
リン――。
管理室の隅に置かれた黒電話が鳴り、管理者は受話器を取る。
「はい……はい…………えっ?……はい」
管理者は、電話を切ったあと、眼鏡をかけ直し私を見た。
「サリーさん、あなたの処分が決定しました」
(さて……どうやって逃げようかなぁ
第五封印まで解除すれば逃げれるけど……
でもなぁ、あれやると、ミルクが激不味になるし、
そのあとは、力が一定期間出なくなるからイヤなんだよなっ
めんどいなぁ、ミルク不味くなるのは避けたいなぁ)
「コホン、ンン、よろしいですか、
サリーさん、あなたの処分が決定しました。
あなたは人間の機微をあまりにも理解していないという結論になりました」
「ん?機微?」
「次の世界では、人間として生活していただきます。
期間はあなたが人間の機微を理解したと、上級管理者が判断するまでです」
「?」
「なお、犬への変身は禁止します」
「……は?え?」
「以上です。それでは、ごきげんよう」
管理者は一礼して部屋を出ていった。
白い空間に残された私は、脳の処理が追いつかない。
処分が決まった?人間?
「…………え?ちょっと待って。え?何それ!犬になれないの?
ミルクもらえないじゃん!!ねぇ!!」
私の声だけが空間に響く。
「犬だから、タダミルクもらえたのに!!」
どこからともなく、事務的な声が流れる。
『働いて購入してください』
「違うの!!タダだから美味しいんでしょうがぁぁ!!」
『なお、初期資金はありません』
「無一文!?」
『住居もありません』
「ホームレス!?」
『就職を推奨します』
「働きたくない!っていうか、働いてたよ!頑張ってたよ!」
『以上です』
「終わるなぁ!私の話を聞けー!」
白い光がサリーを包み込む。
「せめて!せめてミルク券一枚ぃぃぃぃ!!」
その悲痛な叫びだけを残して、サリーは次の世界へ転送された。
最強犬サリー
世界を三つ壊した罰は、人間の機微を理解し、普通の人間として働くことだった。
☆ ☆ ☆
ドシャァァン!!
「いたたたた……まじかよぉ……転送雑すぎでしょ……」
私は土煙の中から起き上がり、土を払っていると、後ろから怒鳴り声が飛んできた。
「おい、お前!」
「ん?」
振り向くと、鎧姿の男たちや、ムチを手にした男たちが、こちらへ駆けてくる。
「見つけたぞ!」
「逃げた奴隷だ!」
「……は?」
振り返り、後ろを見たが、誰もいない。
もう一度男たちを見る。
「……私?」
「当たり前だ!そこを動くな!逃げるなよ」
ダッシュ!逃げる一択!
「おまえ!奴隷のくせに!命令に従え!」
「いやいや、意味わからん。
逃げちゃダメな理由になってないじゃん」
「お前は奴隷だ!」
「だから?」
「だから逃げるな!」
「だから逃げるんだって!!捕まえようとしてる人から逃げるのって、
生き物として普通じゃない?」
男たちは顔を見合わせたので、
そのままお互い見つめ合っていてくれ~~
「……なんだこいつ」
「じゃ、私は普通の生き物なので!全力で、逃げます」
「待てぇぇぇ!!」
「やだぁぁぁ!!」
その日、少女と奴隷商人の追手たちが、
全力疾走する光景が目撃されることになる。




