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弟子入りと引越し

「ゼルクさん、どうしましょ? この状態……どうしたらいいですかね?」

「……」

(今の僕に、聞かれても、ちょっと時間が欲しい。覇を受けて吐くなんて、

サリーさんは、中層……いや、深淵の深層だっ!たった一瞬だった。

一瞬で、戦闘モードでもなく、ただ覇を漏らしただけで、ハハハ、神の領域とはあの事を言うんだな、凄すぎる)


「師匠と呼ばせてください!弟子入りを認めてください」


「えっ?弟子入り?なに?この状態からなんで?!俺の相談、聞いてました?」


「はい!僕は役に立ちます!王都の馬鹿連中の相手なら特に!是非、僕を弟子にしてください!サリー師匠」


(お願い、どうか、お願いします)


「グレン!何この人、急に、なんか嫌なポーズしてる!」

「待て、サリー、たぶん土下座ってやつだ」

「どげざ?」

「あぁ、土下座」

「師匠!すいません、土下座が嫌なら立ちます!どうか弟子にしてください!」

「グレンさん、いえ、グレン様は兄弟子です!」

「なんで俺まで!?」

「兄からもお願いしてもらえませんか?」

「待って、ゼルクさん、もう違う意味で混沌としてますよ?俺、いつからこんな巻き込まれキャラ?」


(兄弟子よ、それは知らない。

身体を起こそうとしても、まだ力が入らない……)


「大丈夫か!」

「中で何があった!」

「救護ギルドに連絡だ!」


 ピコン。

 ピコン。

 

 ピリピリ、ピリピリ。

部屋中の通信機が鳴っても、 ギルド長達は、視界の横でまだ白目。


サリー師匠が、通信機を睨んでいるが、

流石、師匠!何事にも動じない!

一生ついていきます!


「サリー、お前マジで問題児だろ?」

「グレン、私はいい子だよ?」

「……」


(兄弟子よ、サリー師匠はいい子ですよ?)


☆☆☆


二日後。


ギルド長と副ギルド長は、無事に目を覚まし、後遺症等もなく仕事に復帰。

メリッサさんも、まだ顔色は悪いものの仕事に戻ったと、

なんで俺が、こんなことまで逐一聞かされてるんだ?

調査員は、昨日震えながら王都へ帰ったって……そこまで報告してくる必要あるか?


ピンポーン


「えっ?まさか二日連続?」


「グレン兄さん、おはようございます! 今日は、こちらを」

「……」


『引越しのご挨拶』の下にミルク入りのカゴ


「引っ越しの挨拶?」

「はい。これから隣人同士兼師匠と兄弟子の身の回りのお世話等させて頂きます!」

「えっ?隣人?世話?ミルク?」

「サリー師匠がお好きだと伺いましたので」


「ミルクはありがとうございます。で、俺の質問に答えて欲しいのですが」


「はい! 弟子入りを認めて欲しくて、ただ今のままだと俺の有用性が薄いので、とりあえず雑用からします! 王都関係は抑えていますが、あともう少しだけ深淵行きはお待ちください! 絶対に師匠と兄弟子の深淵行きを邪魔させません!」


「え? あ、あのゼルクさん?」

「では、ご挨拶に伺っただけですので、これで失礼します!何かあれば隣にいますので!」


「隣とは?だって隣は老夫婦だよ?えっ、どういうこと?」


閉まった扉の前には誰も居ないが、微かに隣の扉の開閉音が……本当に?!


ゼルクは、本当に隣へ引っ越した。

Sランカーという名誉、王太子からの権限と金を使い、住んでいた住民たちに、ドン、ドドン、ドーーーーン!と金に物言わせまくり、グレンたちが住んでる階層を居抜きのまま、たった1日で全て買い取ったのである。

引越しという名の、正しい権力とお金の使い方だと、ゼルク自身は満足していた。

もちろん、サリーたちに付きまとうつもりはない。

まずは、「王都や貴族、その他の煩わしさは俺が引き受けます。まずはグレン兄さんから落とすしかないよね。サリー師匠待っててね」

フッフーンとサリー師匠の為に、魔羊のミルクを取りに出かけるゼルクであった。


ブルっと一瞬背中に寒気が走るグレン。


その日の夕方。

買い物を終えたグレンとサリーは、夕暮れの往来を並んで歩いていた。


通りには店が並び、道端には屋台も出ている。

花屋には色とりどりの花を終う様子や、パン屋からは夕食用の焼きたての香ばしい匂い、定食屋は夜に向け準備している。

そんな、どこにでもあるような普通の街なみの帰り道、


「グレン、深淵いついくの?」

「そうなんだよなぁー行きたいんだけど、今全力で周りから止められて」

「ふーん、人間って大変だね」

「お前が言うな」

コツンと軽くこつくその瞬間、


「――っ!」

空気を割くように何かが飛んできた瞬間、グレンは反射的にサリーを抱き上げ、そのまま身体を半歩だけ逸らした。


直後。

風の刃が二人の横を通り過ぎた。


「きゃあっ!」

「大丈夫か!?」


「なんだ!?」

「逃げろ!」

「気をつけろ!」

「救護ギルドを呼べ!」


転倒、窓ガラスが割れる音、喧騒が大きくなる。

グレンは、少し離れた場所に一人の男が楽しそうに笑いながら立っているのを捉えたが、その男は、「おっ? 避けるんだ!いいねーいいねー

リーダーの言ってたことは、本当かな?!」


「グレン、あの人知ってるの?」

「Sランカー、白銀の戦慄のメンバーかな?多分」

「ん?あのミルク持ってきた人の仲間なの?」

「多分な……写真でしか知らん」

「ふーん」

「ねぇー遊ぼうよ!俺と殺し合おうよ!」


「ネロ!」


この声はゼルクさんだ……


「おぉー、リーダー!この人たちでしょ? 遊ばせてよー」

「バカか!何を言ってるんだ、皆さんに迷惑をかけて、すいません。師匠、グレン兄さんも、本当にすいません!」


さっきまで笑っていたネロの顔から、笑みが消え、

「……へぇ……なんで?俺らはSランカーだろ?」

その声には、十分な苛立ちが滲んでいるのを感じる。


「命懸けで深淵から、こいつのために健気な働きアリをやってるんだぜ?なぁーーー街の皆さん!」


「それがどうした?ネロ」


「こいつらに、なんで頭を下げる必要があるんだってことだよ。俺たちが、働きアリして!更にこいつらを守ってやってるんだぜ?

なに、なんで、どうして?だって、ここはダンジョンの街だろおお!」


ネロが周囲を見回すのを見ながら、俺には何を言っているのかさっぱり理解できなかった。ここはダンジョンの街だ、だからこそ危険があることくらい住人だって分かっている。それでも、だから突然攻撃していいなんて話にはならない。


「スタンピードが起きりゃ、真っ先に死ねと言われ最前線、冒険者が戦うのは当たり前って認識で、力ある者がいる街なら怪我人やイザコザなんて日常だろ?それくらい、住む前から分かってることじゃん」


「待て、違う、ネロ!急に攻撃するのは違う」


「ん?嫌なら、もっとのどかな街に住めばいいだろ?なんでわざわざ危ないところに住んで、危ないことが起きたら文句言うの?俺、殺してねーよ?住人の皆さんを」


腕の中のサリーが、じっとネロを見ていた。

「グレン」

「ん?」

「帰ろぉ」

「あぁ、まぁ、関わりあいたくないよな。ただ向こうは俺らに用があるみたいだが」


「はぁぁ、わかった」

「リーダー、だろ?」

「じゃーねーーー!俺がそんな理解を示すと思った、お前の頭をかち割ってみたいよ!!」


ゼルクさんは、両手でネロのこめかみをグリグリと押していた。


「いた!痛い!やめてリーダー!痛い!」

「当たり前だ!痛かったら、謝れ!全方位に謝れ!」

「謝るから殺らせてよ?殺し合いたいんだよ」

「お前は……毎回毎回反省しないで!」


ネロの向こうから、さらに何人かが駆けてくる。

「リーダー、皆さん、ごめん」

「リーダーすまねー、ネロが急に街外れで転移を使うとは思わなかった」

「エドガー!みんなも……頼むよ!この戦闘狂の手綱、離したらダメでしょうが!師匠、グレン兄さん、本当にごめんなさい」


こちらを振り向いたゼルクさんに、咄嗟に、


「あっ、うん」

「あっ、兄さんありがとう! 認めてくれて!」

「はっ?えっ?なに?待て!」

「街の皆さん、お騒がせいたしました!被害や損害に関してはギルドまでお願いいたします!白銀の戦慄までお願いいたします」


街の喧騒は収まりつつもある中で、ネロってヤツは口を尖らせ、仲間に説教されている。


「さぁさぁ、師匠、兄さんも帰りましょう!」

「いや、待て!色々とおかしい」

「師匠、魔羊のミルクが手に入りました」

「ミルク!魔羊、飲めるの?」


「はい、とても美味しいと聞いて朝から買いに行ったんですよ。あっ、グレン兄さん。この魔羊ミルクは明日ですか?サリー師匠は早く飲みたいですよね」

「飲みたい!」

「…………」


グレンは空を見上げた。


平和が恋しい。



[完]




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