再起動
最初に起動したのは、ゼルクだった。
「えっ? あの、信じると言った手前、あの、信じますが……いや、確認だけさせてください。ダンジョンですよ?」
グレンは、とてもいい笑顔で頷いた。
「えぇ、本当は話すつもり無かったんですよ。ただ、どの道、魔髄20本飲んだし、『なんで飲んだんですか?』と聞かれたり、『どうしてサリーさんの言葉を信じられるのですか?』と質問されたら……」
グレンは全員を見たあと、もう一度ゆっくりと口を開いた。
「サリーがダンジョンを破壊したのを見て、その穴から脱出したからですよ」
「いや、待ってください! 深淵を深く潜ってる、ベテランの深淵組でもダンジョンを破壊出来る人はいません!今までの厄災指定者もSランカーも誰も、当然僕もです!ダンジョンは多少の傷はつくが、穴があく?破壊する?ナイナイナイナイナイナイ!」
ゼルクの声が応接室に響き渡った。
ギルド長や応接室にいる者は、あまりの衝撃なのか顎が外れそうなほど口を開け、グレンはそんなゼルク達を見ながら、困ったように笑った。
「実際にサリーは壊したんですよ」
「だから、それがありえないと言っているんです!」
「だから色々信じてるのです。これ以上は俺も説明出来ません。違うと言うならそれでいいです」
「ダンジョン破壊?それが本当なら全ての前提が変わるのでは?いや、そんなはずはない!ダンジョンは破壊不可なんだ」
調査員も仮説を立てようとしたが、考えると言うより単純に既存の常識を選択した感じに見えた。
「俺もこの目で見ず、体験もしてないなら、嘘だとか酒場の戯言と決めつけます。でも目の前でダンジョンに穴があいて、その穴から脱出したんです」
「穴?」
「はい」
「ダンジョンに?」
「はい」
「人が通れる大きさの?」
「はい」
ゼルクは両手で頭を抱えた。
「……ダンジョンに、人が通れる穴……」
「はい、しかも3階分を一直線にです」
「えっ?3階……一直線?人が通れる?ダンジョンに?」
「はい」
「…………」
「今回のダンジョン異常はその穴が原因です」
「穴……あな……アナ……」
「サリーがダンジョンを破壊したからです。ダンジョンに致命傷の損傷が入った。
それで、その損傷を治すために閉じた」
「…………」
誰も何も言わなかったし、言えなかった。
これまで誰も考えたことのなかった可能性だった。
ダンジョンが傷つくことはある。
だが、ダンジョンそのものが破壊されるという発想がない。
ましてや、ダンジョンが自ら閉じて損傷を修復するなど、聞いたことすらない。
それなのに、今回の異常と重ねてみれば、妙に辻褄が合ってしまう。
「……サリーさん」
ゼルクが、思わずソファの上で丸くなっているサリーを見る。
「んー?」
サリーは眠そうに顔だけを上げ、
「ダンジョンを……壊したんですか?」
「うん、アレは壊すのが1番簡単だから」
あまりにもあっさりとした返事だけど、突っ込み所が満載だよなとグレンは他人事のような感想をいだいていた。
「…………」
「…………」
「…………」
応接室に、再び沈黙が落ちる中、ゼルクは壊れおもちゃのように呟き、
「カンタン?かん、たん、、肝胆?感嘆?簡短?」
他は完全に沈黙していた。
そんな中グレンは、さらに満足そうに頷き、
「ギルド長、ダンジョンから全員排出された時のダンジョンの音声って有りますか?」
「あ、あ、ある。ダンジョンに潜っていた複数のチームが記録画を回していたので、……残っている」
「その時ダンジョンは、『致命的損傷を確認』
『ダンジョン管理システムより、緊急修復を開始します』
で、皆さんは『致命的損傷とは?』から進まないですよね?」
グレンは全員の顔を見渡した、全員はコクコクと首を縦に振っていた。
「もう一度言います。サリーがダンジョンを破壊して、穴を開けたから、ダンジョン管理システムが緊急修復を開始した。それはダンジョン本人が言っていたので、あーーそうそう、ダンジョン管理システムには名前があって、喋ります」
グレンは、思い出し笑いをしならが、
「名前はダンジョンコアさん。元気になったり落ち込んだり、うちのサリーの事を『クソサリー』って怒って嫌ってますよ」
誰も、一言症候群にすらなれず、情報の洪水に飲み込まれ静寂だけが、応接室を満たした。
グレンはその沈黙を眺めながら、心の中で小さく息を吐いた。
(まぁ、そうなるよなぁ、俺もずっと言えないで溜まってたんだなぁ、他にもまだまだあるけど、この辺までだよな)
カチコチ、カチコチと時計の秒針だけが静かに進む。
カチコチ。
カチコチ。
グレンは何事もなかったかのようにコーヒーを飲みながら、皆が再び動き出すのを待っている。
カチコチ、カチコチ。
(どれくらいで起動するんだ?暇だな)
しばらくして、ようやくゼルクが口を開いた。
「グレンさん……サリーさんは深淵関係者ですか?」
「わかりません、サリーが何も言わないので」
「聞こうとは?」
「聞いても、深淵関係者だろうが無かろうが、何か変わります?俺はサリーと深淵に潜る、それだけです」
「それだけって……グレン、お前……」
副ギルド長が言葉を失いかけたところで、変わりにギルド長が声を荒らげた。
「グレン・ハルヴァード、深淵関係者が現れたら、即時緊急報告!暴れられたら災害だ!確認は必要だろうが!!」
「ギルド長、仮に深淵関係者で、サリーが暴れたら?」
「はっ?何を言っている?討伐対象になるだ――」
「ダンジョンを破壊出来るサリーを討伐?仮に皆さんがダンジョン破壊は嘘だと決めつけても、討伐できますか?」
「……ち、ちっさな女の子……だ……できなく……」
「んーサリーは今回の60階の10体目のボスの魔髄を飲んで、やっと納得したんですよ」
グレンは、自分の衝撃を思い出しながら、
「『久しぶりのレベルアップだー、やっとまともな魔髄飲めた』って皆さんわかります?まともな魔髄って発想がもう俺たちと違うんですよ。60階の跳ね上がった最終の魔髄でやっとまともだという感覚、皆さんはお茶を飲んで痛がらないですよね?サリーもそうなんですよ。まともな魔髄飲んでも痛がらない。しかもそれ以外の魔髄は、サリーの言葉だと『時給以下で飲む価値すら無い』そんなサリーを誰が討伐出来るのですか?」
応接室に、再び沈黙が落ちるが、
サリーは、そんな周囲の空気など知ったことではないと言わんばかりに、ソファの上で丸くなっていた。
「サリーさんは確実に深淵関係者ですね」
「再度言います。わかりません」
「あ、あ、あのーあのー!やっぱり人型なのでは?」メリッサが思い切って聞いた。
「すいません、そこもわかりません、でも、どんな上級魔導具でも人型とは二度と出ないと思いますよ、出てもサリーなら気にもしません」
(そりゃー怖いよな。深淵関係者なら……どうすっかなぁ……)
「皆さんに1つだけ、多分サリーは、壊すとか壊さないとか、暴れるとか考えていない。何をしに来たのか知りたいみたいですが、本人は俺と一緒に深淵に潜ると言ってますし、そんなに気にしなくても、近いうちに俺たち深淵行きますからいや、なんか違うな。うーん、気にしても意味が無いんですよ、えーと火山が爆発したら嫌ですがだからといって水かけても意味ないですよね?津波が嫌だからとスコップで土をかけても意味ないですよね?」
ピリピリ、ピリピリ。
突如鳴った通信機に、その場にいた全員がビクッとした。
「あぁ、すまない、私の通信機だ」
ギルド長はそう言い、通信機に目をやり、固まった。
(あっ、なんか察し……)
ゼルクだけは、一足先に何かを理解した。
「ゼルクさん?貴方、この会話ずっと通信機で繋げてたのですか?」
「すいません、うちのナンバー2が心配性で」
「これ、今、王都のギルドと王宮の危機管理局に繋がってます」
「あれ?そこまでもうエドガー行けたの?」
「……とりあえず仮で、グレンはSランカー、サリーさんは厄災指定です。ただ、色々と検証もあり、本人達の話だけで鵜呑みには出来ませんので、王都まで来て欲しいと」
「グレンさん、王都って馬鹿の集まりだから行かないでください」
「えっ?……それ繋がっていますよね?」
「いいんです。もう、馬鹿しかいない!
厄災を王都に呼んで、万が一あったら住民とか被害拡大しますよね!」
「あっ」誰かの声が漏れたが気にせず、
ゼルクは、自分の通信機へ向かって声を張り上げる。
「『王都の皆さーーん、聞いてますかー?
厄災を呼び寄せて、住民の皆さんどうするんですか?
討伐なんて出来ませんよ?実際、僕の覇を受けて、いいですか?僕の本気の覇を受けて顔色1つ変えていません。
あとダンジョン破壊が本当なら勝てるわけが無い。ダンジョン破壊出来る火力で王都を火の海?いや、灰かな?
貴族、王族なんて肩書き無意味ですよ?』」
ピコン
ギルド長の通信タブレットに通知音が
「ゼルクさん、あまり煽らないでください。王都には聖女と勇者がいるからと」
その言葉に反応したのは、珍しくサリーだった。
「ゲッ、あいつらいるの?くそめんどいな。グレン、深淵行こう!」
「えっ?サリー聖女とか勇者がめんどい?」
「うん。あいつら、自分が正しい。間違えてない。みんなのためだからと、全部の正義を押し付けてくるから嫌いなんだよね」
「なんだ?その押し売り的な感じ……俺の知ってる聖女とか勇者は違うぞ?」
「そうなの?ふーんでも勇者は脳筋馬鹿しかいないし、女の方はどうせ私一人が我慢すれば、民の為にとか言って周りの仕事増やすだけ女。腹膨れないヤツをめっちゃふりかざす女」
「さ、さ、サリーさん流石にそこまで言うと不敬というか、煽るのやめて欲しいです」
「その言葉知ってる。そいつらじゃなくてその周りに言われるから。めんどい。
グレンさっさと深淵行こー今のグレンならそうだなぁ7階までは行けるからそこでまた魔髄飲んで進もうよ」




