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Sランカーはキレやすいと知った日


会議室の妙な雰囲気の中、副ギルド長は、グレンを見ながら、(動け俺、あいつはグレンだ。無愛想でぶっきらぼうで誤解されやすい男だが、不器用ながらも優しい男なんだ、だから、そうあの日、

『俺たちはお前と違うんだよ!

「一緒に強くなろう」 なんて言葉いらないんだ!

俺たちはそこまで上に行きたくない!!

お前の夢を俺たちに押し付けるな!』


切り裂くような声はギルド併設のカフェから聞こえ多くの人が聞いていた。

元からグレンは天性の才があり、幼馴染やチームの為に力を抑えていた面は隠しきれず、チームは劣等感をずっと刺激されていた。

そしてグレンはリカバリーをしていたが、指名の多くもグレンがいるからと言う理由がほとんどだった。

グレンはチームの名前が売れるならと気にしていなかったが、チームメンバーの不満は言葉の端々で見えてた。俺はいつかは爆発するなと思っていた。それがあの日現実になった。


それ以降、グレンはソロで活躍し続け、遂にはドラゴンスレイヤーの称号。


そして今は……頑張れ、俺!

俺は目の前にいるグレンにとって、知人以上友達未満でも、

今、俺が逃げたらグレンは知人までを失う。

そう思った副ギルド長は、意を決してギルド長へ身を寄せると、そっと耳打ちし、

「ギルド長、自分から質問を始めますね」


「あ、あーーグレン、昨日ダンジョンへ向かった理由から、覚えている順でいいので

ダンジョン内で何があったのかを話してくれないか」


(どうだ?俺、今、普通に声出したよな?掠れてなかったよな?心臓の音がやけにうるさいし、なんか怖い)


グレンは少し考えるようにしてから、

「えーと、サリーがボーナスダンジョンのことを知ってて、

ボーナスダンジョンは別名魔髄タイムだから絶対行きたいと、俺も1度攻略したら楽なのは知っていました。魔髄タイムはサリー独特の言い方なのかなと思っていたので、数本入手できたらいいなと一緒に行きました。

ダンジョンの7階層でサリーに壁を3百回叩けと言われて、俺も不思議でしたが、

逆に強くやらない理由もなかったので、

一緒に叩いたら、40階へ行けたんですよね。

そこからはサリーの指示でボスを倒して、報酬で出た魔髄を飲みました」


「確か、40階で10本、50階で5本、60階で10本。全部魔髄がでました。魔髄タイムって凄いですね」


記録係の一人が、思わず顔を上げ、

「25本……しかも60階層が10本」

ゴクリと欲を刺激した証拠の音が確実に誰か、いや全員の喉から聞こえた。


グレンは、ちらりとサリーへ視線を向け言うか迷ったが、

サリーが普通の子とは違うと理解してもらうためにも、

「……サリーも、数本飲んでいます」


会議室の雰囲気が変わるのを、ゼルクは感じていたが、口を出さず耐えていた。


「は?子供に?」

「ば、馬鹿な、数本って、魔髄をか?」

「貴重な魔髄を子供に?……」


それぐらいでやめろよ……ゼルクは、グッと手を握り込むが、全て抑えつけてもロクな事にはならないと経験上知っている。

チラッとグレンとサリーを見ても普通だった(まだ、大丈夫)


「グレン!こんな子供に魔髄なんて!お前は――」

副ギルド長の拳が机を叩き、手元の書類が跳ねあがる。

怒鳴った本人も、続く言葉をすぐには見つけられなかったが、

サリーを見れば、どう見てもまだ幼い少女である。しかし、目の前にいる少女に異常は見当たらない。

魔力暴走による手足の欠損も、あの激痛による苦しみやそれを与えたグレンへの怯えも何一つ、

「ない…だと…?」

目の前で見てる事実とグレンへの失望と驚愕、

そして虚偽報告か?という疑念までが入り乱れ、

うまく言葉にならず喉元で詰まった。

「副長、落ち着け」

「あっ、はい。しかし、私は落ち着いております。ただグレンがしたことは、子供に何をしてる、見損なったぞ!」


グレンは反論せず、副ギルド長の怒りを正面から受け止め、そして、ゆっくりと

「副ギルド長が言いたいことは分かります。

俺も、話だけを聞いたなら同じような反応をする。

ただ、サリーは見た目が子供だからって、

こっちが勝手に保護するだけの対象だと決めつけていい相手じゃない」

そう言ってから、グレンは隣へ目を向け、


「もちろん、何かあったら俺が全力で守りますけど。なっ、サリー」

「うん。私はグレンを守るのー」


答えるべきことは答えたとばかりに、

サリーは冷たいミルクの入ったコップへ口をつけまた飲み始めた。


魔髄への欲とサリーの見た目が一部の参加者の苛立ちを刺激し、

「守るって、何を言っているんだ」


「君は守られる側だろう。

自分がどれほど高価で価値があるものを飲んだかすらわからない子供のくせに」


「そうだ、高価な魔髄を飲ませてもらいながら、グレンさんを守る役目?

本人がそう言ったからといって、大人が真に受けると思ってるのか!」


高価な魔髄、力と富の象徴の1つでもある魔髄

それが25本。勝手に何本かは自分達の物になると期待している分、子供に取られたと言う思いが膨らむ。


「グレン、この人たち何言ってるの?」

「あぁ……魔髄は危険だから、お前に飲ませるなって言ってるんだ。

たとえ、お前には、危険じゃなくてもな」


返事を求めるような言い方ではなかった。

グレンはそこで言葉を止め、サリーではなく、

怒りを向けてきた者たちへ視線を戻す。


魔髄が危険なことは、俺だって知っている。

無闇矢鱈に飲めば死ぬものだと、ずっと思っていたし、あの激痛も知っていた。

だからこそ、この小さく可愛らしい少女が、

自分の知らない誰かから魔髄を飲まされたと聞けば、

怒りを持つだろうし、その相手を責めるだろう。


ただ、サリーは魔髄が何かを完全に理解している。

いや、魔髄だけじゃない。全部だ。全部知って理解してる。

平然と飲み、飲んだ後も変化……むしろ文句いってたよな?

あれ?しかも60階の10体目に関しては、俺の攻撃通らなかったよな?

ん?今考えるとあの古代竜どんだけの化け物?

俺、魔髄20本飲んだ後よ?攻撃が一切通じませんでしたよ?サリー赤混じりかよって怒ってたよな?

それで、そのバケモンの魔髄を飲んでやっと納得したのがサリーなんですよ?皆さん……


グレンは会議室を見渡し、

やっぱり、どう説明しても会議室にいる全員を納得なんて無理だよな

しかもここで「大丈夫」と繰り返せば、

正当化しようとしているようにしか聞こえず、

話は同じ場所を回るだけだ。


どうにもできないことを悟り、グレンは小さく息を吐いた。


「すみません。俺にも、サリーが絶対に安全だと証明できません」


頭を下げた瞬間、この冒険者なら自分達で御せると勘違いした調査員達は、

「なら、なおさら、考えるべきだろうが!

しかも貴重な魔髄を、そんなどこぞの馬の骨ともわからぬ子供に!」

「そうだ!スラム上がりの子に飲ませるなら王都や領主に献上や私達の研究に役立てた方がましだ!損害をどう――」


続きが言えなかった、いや、言わせて貰えなかった


(やっぱり、徹夜して質問も人物も厳選したのに。

それでも、どうしてもこうなるのか……

分かっていたはずなのに……馬鹿は殺したくなる)


「ヒッ」と小さい声が数人の調査員から漏れたあと、

一人の調査員の足元には水たまりが出来た。

水音と臭いで周りが慌ててガタガタと立ち上がり、距離を取る中、


「ふざけるなよ。僕がどれだけ注意を払っているか、

徹夜で叩き込んだにも関わらず、スラム上がりだの、魔髄の献上に損害?」


「お前ら死ねよ」


キレたのはゼルクであり、

彼の殺気は濃厚な覇に乗りそのまま、研究者にぶつけた結果である。


「きたねぇな。場所を変えましょう。

いいか、魔髄や深淵は、お前らの出世の道具でも、

都合よく使える便利な金儲けじゃね。

僕たちは、お前らのための道具じゃねぇんだよ。

そう思い上がっている馬鹿は、ここに残れ。

次は警告しない。

そして、言葉の意味を理解できないなら、いっそのこと死ね」


グレンは、Sランカーのゼルクを見ながらこの人キレやすいよね?

Sランカーさんはキレ易くないと成れないのかな?

それにしても、覇に殺気を込めるとあんな感じなのか……チラッとグレンはとある方に視線を送ったが、漏らすのは見なかったことにしようと心に決めた。


「すいません。ギルド長、グレンさん達も移動をお願い致します。

もう少し少人数の部屋がいいですね」

「……」

「ギルド長?」

「あ、あぁ、なら私が使ってる応接室でいいか?」

「はい、お願いいたします。グレンさんサリーさん、ごめんなさい」


(え?なに?俺そんなにやばい存在?

この人は、元からキレやすく腰が低い人なのかな?扱いにくそうだな)と、

とても失礼な事を考えてるグレンだった。


「別に移動はいいが、そうだ、サリー

お前が俺に教えてくれたことを話してもいいか?」


「いいよーそれより、グレン、ミルクない」


サリーはコップを持ち上げて中を覗き込み、

何度か傾けたあと、もう一度グレンへ突き出した。

「飲んだらなくなるからな、だが駄目だ。飲み過ぎは駄目だ」

「ケーチ、ケーチ」


グレンが駄目だと言った以上、これ以上ねだっても無駄。それでも、ほんの少しでも残っていないかと、サリーはコップの底を覗き込んだ。


会議室にいる者たちは、誰一人としてそのやり取りに言葉を挟めなかった。

本当に、この少女が魔髄を飲んだのか。

グレン・ハルヴァードが何者になったのか。

今のこの惨状は何なのだろうか。

一瞬の欲が地獄の扉を開くことを学んだ日なのは確かだった。


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