ボーナスダンジョン 外では大混乱
一方のダンジョン入口は大混乱のまま、誰も状況を整理できずにいた。
『ボーナスダンジョンは只今をもちまして、全て終了とさせていただきます。沢山のご参加ありがとうございました。当ダンジョンは明日朝9時より再稼働させていただきます。また明日以降は通常運転となります。あらかじめご了承ください』
「通常運転ってなんだよ!」
その言葉を皮切りに怒号が飛び交い、人々が口々に声を上げている。
「先日の警報音といい、ここ数日おかしくないか?」
「だから何が起きてるんだよ!」
「馬鹿、誰も知らねーよ」
「馬鹿って俺に言ったのか?あん?」
「ちょっとーこんな人混みで、押さないでよ」
「映像だせよ!噂によると壁に消えたってどういうことだ!」
「サリーって誰なのーー!」
「明日も魔髄でますか?」
次々と飛んでくる質問に、ギルド職員は全員、定型通りの答えを繰り返すか
無言でただ人波を押し返すかできずにいた。
(何が起きたのか?そんなのこっちが聞きたい!)
ギルドは、Aランカーのグレンが女の子と変な事をしているという一報を受けたあと、
その内容が壁をひたすら殴っていると聞いた時は、終わったなと本気で思っていたし、
実際、SランカーチームもAランカーチームも、30階層を固定化後、
入口の仮設ギルド受付に戻って来た時は、愚痴をこぼし変人扱い。
「あのAランカーはだめだ」の烙印。
いつもなら何かと突っかかるアレンさえも、
「関わりあいたくない、あいつは終わった」
そう口にしていたほどだった。
だが、その空気が変わったのは、
入口付近にあるダンジョンが用意した謎の大きなボードに変化が現れてからだった。
横一列に並んでいるのは、意味の分からない文字で、
国から派遣されてきた調査団も何を意味しているのかは分からず、
しかしその下には見慣れた自分たちの時間が並んでいる。
最初は誰も気に留めていなかった。
10階層を攻略した時も、ダンジョンから何の反応もない変わりに、その謎のボードの文字の下に1つ時間が浮かび上がった。
「攻略した時間か?」
調査員は仮説を立てながらならこの文字は10階や何か階層を表示してるのでは?
その後も、アレクやゼルクたちがボス部屋を攻略するたび、
対応する場所の下に時間だけが表示されていく。
「どうやら、ボスの討伐時間を記録しているらしいな」
調査員とギルドは、ひとまずこの仮説に行き着いた。
断定するにはまだ情報が足りないが、今のところは、それが最も自然な考えだった。
その場所に、初めて名前と時間が表示されるまでは。
【グレン 15時34分】
「……えっ?名前?」
そして――
【グレン 15時35分】
【グレン 15時35分】
【グレン 15時36分】
【グレン 15時37分】
次々と同じ名前と時間が並んでいく。
「待て、なんだこの名前と時間は!
10階分の距離だぞ?!ダンジョンを1分で攻略するなんて可能なのか?」
「グレンとは、Aランカーのグレン・ハルヴァードのことか?」
そう思っている間にも、グレンの名前は増え続け、
気づけばひとつの場所に、同じ名前が10並んでいた。
改めてボードを見ると、横一列に並ぶ謎の文字は全部で6つあり、
それぞれの下に攻略記録と思われる表示がされている。
アレクやゼルクたちの攻略時間、そしてグレンの異常な記録を照らし合わせる。
「ならもしかすると……」
この謎の文字は、階層を示しているのではないか。
ひとつの場所につき10回分の攻略記録が表示され、すべての記録が埋まった時点で、ボーナスダンジョンも終了する。
色々な考えとボードの見比べが行われてるなか、
50階と思われる場所に名前と時間が表示、5個並ぶが時間は先程と違って間隔があり、そのまま6個目が下に並ぶかと予測していたら、隣の列に名前が浮かび上がった。
【グレン ――】
誰も言葉を発しないし、
ボードも見たままで、動かない。
「いや、待て……どうして隣なんだ?
40階を10回なら、50階も10回では?」
それなのに、5個並んだところで、次の記録は隣へ移った。
「これは攻略時間を表示しているのではないのか?」
「おいおい、またかよ、見ろよ、60階層かもしれない場所の後半の時間が約1分間隔なんだ?」
つい先ほどまでは異常という速さではなかった。
5個並んでる場所と移ってからの5個は、最短で攻略したと言われれば、そうだなと納得いく部分はある。
だが後半は最初と同じ時間間隔?
一体、何が起きている?
25回分全部の名前に、グレンの三文字。
「なにか違う事を表しているのか?」
「誤表示かも?」
何もかもが不明の中、ダンジョンからのアナウンスが響き、
さらに1人の研究者が持ち帰ってきた映像が加わった。
映像に写っていたのは、グレンが壁を殴ってる場面で始まり、メリッサが諌めている。
異常に興奮している調査員は、
「ここからなんだ!!ここから!」
映像の中でのサリーの声が響く。
『299』
『300』
『おめでとうございます!』
『300回も殴り続けた貴方には、頑張ったご褒美です!』
「なっ?なっ?なっ?凄いだろ!」
女の子が40階の数字をグレンに促し、
グレンがどの文字が40階なのかと聞いて、
サリーは『これ』と指をさしている。
しかもこれはダンジョンの声?!
先ほどのアナウンスと今の映像からの声も同じ
更に女の子は、名前を言えと更にグレンを誘導していた。
何故?何故あの子は全て知っていたのか?
――グレン達は壁へと消えていく。
「じ、じ時刻を合わせてください」
違う調査員が声をだし、全員がボードに表示された時刻と映像に残っている時刻を合わせる。
「…………」
「……こ、この子、この文字を読めてるのか?」
「馬鹿な、読めるはずない!」
「じゃあ、この子は当てずっぽうで指したのか?」
「映像の40階の文字と提示版の文字!」
一斉にみんなが見る。
「「同じ!」」
「ギルド長!この子は?誰なんです!?」
「私は知らない!」
「知らないって、じゃあ、なんで読めてる!?」
「だから知らないと言っている!」
「40階層をこの短時間で攻略した秘密はここなのか?」
「いや、それ以前に壁だ!壁に消えたんだぞ!?」
「何故この子は壁を叩いていたんだ!」
「私に聞くな!」
「ギルド長に聞いてるんですよ!」
「私だって聞きたい!」
内も外も大混乱になった。
「救護ギルドはまだなのか?怪我人がいるんだぞ!」
「おい、ダンジョン入れろよ!」
「今は無理だー押すなよ!いてぇな!」
「私の宝箱~開けたばかりなのよ!!」
「ギルドは保証しろ!」
明日から通常運転というアナウンスで、人々の期待や夢が一気に打ち砕かれた。
その上、前回と同様に全員が突然入口へ戻されたことで、仮設ギルド周辺は集団パニックを起こしかけていた。
「もうここは無理だ!収集も検証もできないな。
安全優先でギルドへ移動するぞ」
「全員にするか?」
「話を聞きたい奴でいいだろう、いや、ふるいにかける」
ギルド長は、合図の玉を空へ打ち上げた。
ドンッ――!
轟音とともに上空で大きく炸裂し、街中の視線を一瞬で引きつける。
その静寂を待って、ギルド長は拡声器を口元へ当てた。
「全員、動くな!」
キーーーン、威圧を込めた声が、ダンジョン前広場に響き渡った。
ギルド長がそのまま拡声器で、民衆に決定事項を伝えてるさなか、アレクは不満そうに口を開く。
「俺たちまで行く必要あるか?ダンジョン開くかもだぞ?」
「明日まで開かないと言ってるわよ?」
「それが罠かもだろ?!」
「アレクさん、強制じゃないって言葉の意味わかる?」
「はっ?」
「来たい人だけきてくださいだよ?」
「そういう事じゃね~よ!俺はAランカーなんだよ!」
「そう、ちなみに俺はSランカーだけど?ハァ……こんなかっこ悪い会話に付き合う俺優しいよな」
そう言い残し、ゼルクは背中を向け立ち去った。
(はぁ?なんだよ!Sランカーのお前もグレンの事バカにしてたじゃねーか!
八つ当たりしてんじゃねーよ!)
「ギルド長、私はもうしばらくここで現場の収拾を計りその後ギルドに戻ります」
「あぁ、副長、すまんがここはここで大混乱だからな。
頼む、それまでにこちらも纏めるだけ纏めておく」
「はい。あとグレン・ハルヴァードに強制召喚は……もうしてますね。
あいつと連絡が取れるまで、手分けして鳴らし続けます」
「あぁ、頼む。一体この街で何が起きているんだ」
ダンジョンからの謎のアナウンス。
謎の攻略記録。
謎の少女サリー。
不可解な映像。
グレン。
未知の文字。
突如のボーナスダンジョン。
何一つわからないままで時間だけは過ぎていく
そして、ゼルクは、深淵で嫌というほど思い知らされたはずだったのに、
地上で少し褒められただけで真実を見る目を曇らせた自分を恥じながら、仲間と一緒にギルドへ戻った。




