クソダンジョン、ついに喋る
笑顔が怖い女性を前に、グレンは
「ここが契約の場なら戻りますね。迷い込みました。すいません」
『いいえ。はっきりと答えてもらいます。私と契約しますか?』
「しま……」
バン!
扇子が飛んできた。
『私と契約しますか?』
「しま……」
バン!
2個目の扇子がグレンの顔に飛んできた。
「これって強制?」
グレンは飛んできた2つの扇子を見つめながら、
(えっ?強制契約なんて俺知らないよ?
今、不思議枠はサリーでお腹いっぱい。
契約って双方行、お互いの意思必要だよな?
無理、これ以上の常識崩壊は耐えれません)
『あなた、物理特化型でしょ?
貪婪の焔は魔力消費型よ?
絶対、私と相性いいのよ?契約しますか?』
「しま――」
『す!』
「えっ?」
『す!!さ、し、すーーーーーせ、そ、ゴホン』
女性は、新たな扇子を開き直し
『私と契約しますか?』
「あっ、これ、契約しないと出れない?」
(ダメなやつ?なんで?この人も契約したら縛られる……よな?)
「質問。条件はなんですか?」
『私の前で、他の女の話をしない』
「いや、無理ですよね?サリー、女の子ですよ。
貪婪の焔も女型だと思いますが?多分ですけど」
『女の子は、サリーちゃんに関しては問題ないです』
「話をしない、は条件に合わないので」
『条件変更です。私を召喚した後にここで私と話をする。
二人っきりで、お茶を飲むのが条件です』
(契約だよな?俺の常識崩壊がすごい。とりあえず……)
「あなたの能力と、お名前は?」
『物理特化型です。名前は契約後です』
(能力……物理特化ってなに?名前無し契約?)
「ありか?なんだ、この人」
だが、動けない。
この空間は確実に、あの未契約の女性の領域だ
許可がなければ、指一本動かせない。
サリー以外に不思議枠を増やしたくないのに……
「はぁぁ、分かりました。契約します」
『私と契約しますか?』
「はい。します」
『私の名は、ネメシス』
「ネメシス……」
『私は、報いを司る女神』
「……女神?」
女性は嬉しそうに扇子を広げ、桜の花が舞っている中で、グレンは首を傾げ、
そんな女神の名前、知らないぞ?ネメシスは通称か?
そもそも神様が一般人と契約するのか、俺は勇者でも英雄でもないし、特別なスキルや加護があるわけでもない、神様と契約するのか?
ただ、この女性は女神と名乗っても許されるくらい、高次元の存在なんだろう
……なんで、俺と契約するんだ?
そこまで考えて、グレンは、考えることをやめた。
名前無し(通称)でも力を貸してくれるのはありがたいな、とグレンは心の中で合掌したが、何故かネメシスは怪訝そうな目を向けたまま、ゆっくりと扇子を閉じた。
「グレン・ハルヴァード」
凛とした、それでいて涼やかで優しい声が響く。
その声の主は、白い肌に映える金色の瞳を持ち、長い黒髪を白い空間に流しながら、白と金を基調としたドレスを静かに揺らしていた、その背後には巨大な天秤まで浮かんでいる。
「私は、報いを司る女神」
(うん、さっき聞いた。そんなに言いたいのか?
あと、俺名乗ってないよな?こわ!)
天秤が静かに揺れる。
「私と契約した者が攻撃を受けた時、その痛みも、その傷も、怒りも悲しみも全て私の天秤に載る」
片方の皿が沈んだ。
「そして、天秤が傾き、貴方が返すと決めたら、報いとして相手へ返します」
カタン。
天秤は元に戻りゆらゆらと揺れている。
「受けた攻撃、痛み、怒りのすべてを量り、本人へ理解させる為に返しますが、たまに理解する前に死んで……ふふふご愛嬌ですよ。
あなたが傷つけられたなら、私が報いる。
それが、私との契約よ」
(この自称女神こわ!)
「つまり、俺が殴られたら、お前が殴り返すのか?」
「簡単に言うとそうよ。
だから、物理特化のあなたとは相性がいいのよ。
ふふふ、では、そろそろ戻りますか?
サリーちゃんが待っているわよ。またね」
その瞬間、白い空間が一気に遠ざかり、
「グレン!起きた!」
「――っ!」
目を開けた瞬間、全身を貫くような激痛が走った。
「ぐっ……ぁ、ああああああああああっ!!」
身体が勝手に跳ね上がる。
「痛っ……! 待て、無理っ、これ……っ!!」
呼吸すらまともにできない。
「ぁぁぁぁぁっ!! 痛ぇぇぇぇぇぇ!!」
床を掻きむしり、身体を丸めても痛みは逃げない。
骨の中まで焼かれているような感覚に、
グレンは声を抑えることすらできなかった。
「グレン! 大丈夫?」
「大丈夫に見えるかぁぁぁぁぁっ!!」
「でも生きてるし」
「生きてても、痛いの嫌なんだよ!」
グレンは涙目のまま、床でうずくまり、爪は剥がれていた。
少し落ち着いた頃、
「サリー、回復ポーションくれ」
「うん、グレン」
「あ~本当に死ぬかと思った。わかるわー
ショック死するなこれ」
しみじみと感慨に更けていると、
鬼教官サリーは、
「グレン、3体目はいこう!めっちゃ痛い分グレン強くなった!」
3体目
剣を振った瞬間、白竜の首が落ちた。
クッキーのように脆く、サクっとした感触とともに、白竜が霧散する。
「サリー、今の俺がやったんだよな?」
「うん、グレン凄い!」
「いや、凄いっていうか2体目11撃で、俺さっきまで死ぬレベル……」
「グレン!はい、3本目〜」
「軽っ!その前に味わってる苦しみを救って!!」
4体目
一撃で、白竜が崩れ落ちる。
「…………」
「…………」
「また?」
「また!」
「俺、白竜一撃……魔髄の効果やばいな」
「グレン、次、つぎーー!」
「お、おう!」
5体目
「いくぞ!」
振り下ろした剣が白竜を捉えるが、倒れない。
「サクサクタイム終わりかよ……」
2撃目、まだ立っている。
「おいおい……」
3撃。
4撃。
5撃。
「グレン、頑張って!」
「言われなくてもやってる!」
6撃。
そして7撃目。
ようやく白竜が崩れ落ちた。
「……はぁ……はぁ……」
グレンは肩で息をしながら、倒れた白竜を見る。
「7撃?」
「うん。7撃」
「60階ともなると、跳ね上がりが異常だな」
サリーは、拾った魔髄を見つめ、
「私飲んでもいいかな?」
グレンは魔髄を見てから、サリーを見る。
「あはは……5体目の魔髄だぞ?はい、どうぞどうぞ。サリー飲んでいいよ」
俺はこれだけ強くなっても、7撃かかった白竜の魔髄。
それを飲むって、もう本当に、
「サリー、お前って凄いな」
「ゴクゴク……ぷはぁ」
「しかも毎回、軽すぎ!ミルクなの?痛みは?なんで毎回平気なんだよ」
「ムカつくーーーたったの!たったの3レベルアップ!」
サリーは魔髄の瓶を握ったまま、ダンジョンに向かって叫んだ。
「クソダンジョン!お前、弱すぎなの出しすぎ!
バカにしてんだろ!こんなんでお前、深淵の扉開けたら自殺幇助だぞ!
考えろよ!」
口を開けたまま固まったのはグレン。
「サリー」
「なに?」
「お前ダンジョンに文句言ってるのか?」
「そうだよ!」
「いや、言ってどうにかなるもんなのか?
俺しっかりしろ!違う!違う!
7撃かかった白竜を飲んで、3レベルしか上がらないからとキレるってなに?痛みは?」
「グレンどうしよ、魔髄タイムで、こんなクソ雑魚出すダンジョンがあるなんて。
他のダンジョンならこんなクソじゃないよ!ここがクソすぎるんだよ!
このクソダンジョンの残り5体なんて、期待出来ないぐらいクソだけど――」
【君!うるさい!さっきから、僕のことクソクソ言いすぎ!】
(えっ……誰の声?!また、不思議が増えるの?)
「本当の事だろうがぁぁぁぁ!お前、組合規定読めよ!
こんなんで冒険者通したら深淵行ったら死ぬぞ!
ダンジョン組合に言うぞ、このクソダンジョン!」
【また!また僕のことクソとか言った!元は僕のダンジョン壊した君が悪いんでしょ!!】
「軟すぎなんだよ。クソだから柔らかいダンジョン目指してるの?」
【ふざけるな!僕は同期の中だとトップクラスのダンジョンなんだぞ!】
「自殺幇助トップで?」
【君!言っていい事と悪い事があるんだぞ!】
「なら本気の出してみろよぉぉぉ!」
【いいよ!あと5体、お前なんかが倒せないやつ出してやる!】




