順番は大事、でも壊すのはもっと大事。
サリーはグレンの返事も待たず、さっさとボス部屋へ入ろうとする。
「あのー心の準備とか?説明は?」
「必要?殴って倒せば魔髄だよ」
はい、すいません、質問は後にします。
反省や振り返りも後にします。
「確認、サリー、お前は40階ボス倒せるの?」
「倒せないよ?グレンがやるんだよ?」
「はい?」
「だって私、ポーション渡す係」
「おいっ!そこは俺任せなのか?」
「うん!」
「えっ?ならもっと説明!」
「グレン、ほらボスだよ!頑張って」
「雑ーー!俺の扱い雑すぎるー!サリーーー」
グレンの叫びを気にする様子もなく、40階のボス部屋中央に置かれた魔法陣が淡く輝き始めると、地面を揺らすほどの重い音が響き渡り、巨大な魔物の姿がゆっくりと浮かび上がった。
ボス起動
『ヴモォォォオオオン!』
「……本当に、俺がやるんだな」
「うん!」
「……はいはい」
(ミノタウロスか……ダンジョンのボスとしては定番だし、40階で出てくる相手としては妥当だな)
グレンは呆れ半分で武器を構え、大きく息を吐きながら腰を落とし、こちらへ向かって突進してくるボスを正面から見据えると、逃げることも避けることもせず、そのまま一歩だけ踏み込んだ。
次の瞬間、グレンの剣が閃いた。
踏み込み一閃。
袈裟斬りに深く切り裂かれたボスの身体が、一瞬だけ硬直すが、吹き飛ぶ間すらなく、
切り口から眩い光が溢れ出すと、巨体はそのまま光の粒となって霧散していった。
40階ボス、グレンは一撃でボスを倒し、
現れたのは、魔髄。
「本当に出たよ、魔髄。いや、たまたまかも」
「じゃー、グレン出るよ!」
サリーはそう言うと、さっさと入ってきた入口へ向かう。
「ほら、次!」
「おい、サリー。入口からは出れない……ぞ?」
「ART中なんだから、出れるよ」
サリーが手を引っ張り、扉を押すと目の前の景色が変わった。
「で……れるんだ……えっ?あれ?なんで俺、ボス部屋の前に?」
目の前には、先ほどと同じように、
『40階・ボス部屋』と大きく書かれている。
「えっ?なんで、後ろが、ボス部屋だよな?前?」
振り返ると、ダンジョンの壁があった。
「え?なんで?」
「開けるよー」
「え?あける?」
「こっからはもう作業ゲーだから。
ほらほら、グレン、はやく」
ドンッ。
グレンの背中を押し、ボス部屋へ押し込む。
「おい、待て!強さが跳ね上がるんだぞ!」
「グレン、コツは、一撃で倒せなくなったら魔髄飲んで!」
「それコツって言うのか!?」
「グレン! 頑張ってーーー!」
「待て待て待て、説明を!」
ボス起動
ヴモォォォオオオン!
フシューッ……フシューッ……
デジャヴ?あれ?ついさっき倒したよな?
困惑しながらも、先ほどと同じように1撃でボスは霧散。
そして、訳が分からないまま4回目のボス部屋へ。
4回目のボスが咆哮を上げても、
グレンは今までと同じように正面から踏み込み、巨大な身体へ剣を叩き込んだ。
しかし、今までなら1撃で消えていったボスが、
僅かに後退しただけで踏みとどまると、
グレンの剣を受けた身体から黒い魔力を噴き上げながら、
こちらへ向かって突進してきた。
ついに1撃では倒せなくなった。
「……2撃必要になったか」
今までなら1撃で終わっていた相手が、
2撃目を受けてようやく倒れるという事実に、
グレンは、「サリー、次からは相当危険だぞ」と、言うや否や
「グレン、部屋に入る前に魔髄飲んで!」
「飲んでって……40階なら二度ほど飲んでるから、
大丈夫だろうけど、これ売ると大金だぞ?」
「関係ないよぉ、飲んで!」
まっいっかと、1本、手にとり魔髄を開けて飲もうとすると、
「あっ、グレン! 一番最初のボスから飲んでね」
「えっ?なに?」
「魔髄飲む順」
「いや、見た目全部同じというかもう開けたし!」
「あちゃー、やっちゃったねぇ」
「やっちゃったね、じゃないだろ!」
「まぁ、大丈夫だよ!どれも一撃で倒したボスのだし、痛さがちょっと変わるけど問題ない」
「あるよね?!」
グレンは魔髄を持ったまま、
「なんで?!なんでここで味方からロシアンルーレットを提示されるんだ?
しかも開けた後に、大事なことは先に言えよ!」
「ごめん、でも飲まないと、ボスの最終形態に入るかもよ?」
「最終形態?」
「うん。めんどいよ!ARTになってるから、
落とす魔髄の質は変わらないのに、ちょび削りすると強さだけ変わる仕様」
「……本当にクソゲーだな、わかったよ」
覚悟を決め、魔髄を飲んだ瞬間、身体が熱くなる。
無理やり魔力の器が暴走しそうになるのを、必死に繋ぎ止める。
痛い。本当に痛い。
体の中心を内側からハンマーで叩かれてる激痛を、
全部我慢し我慢し続けたら、痛みが抜け、汗を拭いながら、
「ふぅぅ、終わったか……」
「じゃー行こっか!」
「かる!俺の痛みぃ、水ぐらい飲ませろよ!」
ボス部屋起動
ボスを1撃で倒す。
部屋の外に出たとき、
グレンはその場に膝をつくほど疲労困憊していた。
「グレン、もしかして休まないと無理な感じ?」
「当たり前だろうが、キツイって色々と」
「嘘、グレン、魔力の器小さい人なの?」
「お前の見えてるもんとか、知ってることが分からんけど、俺は強いよ!
世界で数人のドラゴンスレイヤー!物理特化型のグレン様なの!!」
力いっぱい叫ぶが、サリーの不思議な人を見る目に
「器小さいとか言うなよ……違う意味でも色々凹むから」
サリーだけは通常運転のまま、
「ねぇ、グレン」
グレンは咄嗟にヤバいと
『ねぇ、グレン』はヤバいからダメだ!聞くな!
「それ、あと4本飲める?」
「俺を殺したいの?」
クソ、やっぱりかよ!
『ねぇ、グレン』は聴いたら危険すぎる。
「グレン、あの魔髄でそんな風に疲れるって、なんか変」
「俺が変なの?……わからない……」
「うーん、わかったよ。はい、回復ポーション。
おすすめしないけど魔髄は飲まないで6回目行こう!
最後は気をつけて~~」
「鬼かよ……」
だが、6回目のボスは5撃必要となり危うく最終形態に移行する所だった。
「グレン、やっぱり飲まないと!」
「……」
既に1本飲んでるのに、次も飲んだら経験上暴走するよな?
……グレンは魔髄を見つめる。
「サリー、飲めねー、すまん。
お前の言う通りにしたいけど、暴走したら終わる。魔力の器が持たない」
「グレン?まさか、一度も魔力の器、壊したことないの?」
「あるか! 死ぬぞ!」
「死なないよ」
「いや、死ぬだろ!」
サリーは少し考え、
「分かった!グレン壊そう!」
「……」
「もう5本全部飲んでもいい。むしろ飲まないとダメ!
せっかくの魔髄タイムがもったいない」
「……帰る」
「グレン!」
「俺は帰る、5本も魔髄がある。もう一生遊んで暮らせます!」
「グレン!深淵行こうよ!もっともっと冒険できるよ!」
「くっそー!そこは俺の夢ーー!痛い所つきやがって!」
グレンは頭を抱えながら、
「魔力の器は壊れたら死ぬんだぞ!」
「死ぬ??誰がそれを言ったの?」
「誰って……」
グレンは言葉に詰まる。
誰ってえーとみんな?
「だって死ぬほど痛いし、苦しいし、呼吸止まるレベルだし」
「死んだ人いる?」
「いや、俺の周りはいない。みんな安全マージン取って飲んでるから……」
「痛いのはわかるけど誰が言ったの?死ぬって」
「いや、すっごく苦しいし、そうだ!暴走は見たことある!
魔力が溢れ出て、結局バケモンになって、死んだ。ほら!死ぬんだよ!」
「それ、段階すっ飛ばしすぎてるからだよぉ!!
1の器が5まで伸びるとして、10入れたらそりゃーブチブチ切れて痛いよ!
その痛みに耐えれなくてショック死。魔力が留まらないから垂れ流しで変質!
だから順に飲んでと言ってるの」
「…………」
グレンは何とも言えない顔でサリーを見る。
「……お前、本当に何を知ってるんだ?」




