誰も知らないから、隠し扉なの!
ドンッ!
「99!」
ドンッ!
「ひゃく!」
「…………」
グレンは、もう何も言わず、ただサリーと一緒に壁を叩いていた。
サリーは壁の前で拳を構えたまま、じっと壁を見つめる。
「……開かないね」
「そりゃ開かないだろ」
「だめかぁ、100回じゃ」
「100回だから何なんだよ……」
その時、
「おい!」
背後から、怒鳴り声が響いた。
振り返ると、そこには《蒼穹の牙》の姿があり、
その後ろには《白銀の戦慄》の姿もある。
先頭にいたアレクは、グレンとサリー、そして叩かれていた壁を見て、顔を引きつらせた。
「ハルヴァードさん」
「ん?」
「あなた、今、何をしていたんだ!」
「何って……」
「この非常事態の中、更にボーナスダンジョンまで発生して、国の調査団まで来ているんですよ!? それなのに、子供の遊びに付き合っているんですか!?」
アレクは長年ライバルとして、常に自分の前を歩いていた男が、
女の子と一緒に壁を叩いて遊んでることが、
許せなかった。
「やめてください!非常識だ」
本当に、怒りでどうにかなりそうだった。
グレン・ハルヴァードなら既に30階いや、40階まで到達しててもおかしくない。
なのに、女の子とこの非常時に遊んでる。
一方、その後ろでは《白銀の戦慄》のメンバー3人が、グレンを見ていた。
彼らがグレンに興味を持った理由は、
Aランカーのドラゴンスレイヤーであり、
深淵へソロで挑むとまで言われている男の噂を知っていたからである。
もし実力だけではなく、考え方や戦闘感覚まで自分たちと合うのなら、
チームに迎え入れたい、そんな話まで、彼らの中では出ていたが、
「あれが噂のドラゴンスレイヤー?」
「みたいですよ」
「子供と一緒に壁殴ってるけどw」
勝手な期待を持っていた分、その落差は大きかった。
「ドラゴンスレイヤーの称号は伊達じゃないって事か?!w」
「ソロって変人多いからね。まさか今ここで子供と遊んでるとは」
「……なんだ、こいつ」
失笑が漏れる。
グレンは自分を、いや自分たちをあざ笑ってる視線に気づきながらも
反応はせずに、サリーだけの言葉を聞いていた。
「まだやるのか?」
「もちろんだよ!100回じゃだめだったから、200……いや、多分300」
「やるのかよ!」
「当然!急がば回れだよ!」
「いち」
ドンッ
「にい」
ドンッ
「…………」
《白銀の戦慄》のメンバーたちは、揃って遠い目をし、
少なくとも今のところ、この男を仲間に誘おうという話は、
無かったことになるなと。
アレクがグレンの肩を掴んだ事で、グレンの行動が止まった。
「いい加減にしろ! こんな重大な時に、何をしているんですか!」
「えーー!なんで?最初からやり直しじゃん」
「……は?」
「今のでリセットされたぁぁぁ」
「やめろと言っているんだ!」
「うるさいなぁー、あんた誰?なんで邪魔するの?」
「邪魔って」
「ここ、通路の端だよ?通るならさっさと行けばいいじゃん」
「何も知らないガキが!今はこんなくだらんことしてる――」
「こんなことって何?」
サリーは、不思議そうに首を傾げた。
「私たちがここで何してても、あなた達困らないよね?困るの?」
「……ハッ?」
「なら、構わなくていいじゃん!」
そう言うと、サリーはアレクから視線を外し、壁を見る。
「……もう、また1から……」
「…………」
グレンは肩を掴まれたまま、サリーとアレクを交互に見た。
「アレク、離してくれるか?」
「ハルヴァード!?」
「いや、こいつ100回数えてたからな……」
「本気で言ってるのか!」
サリーは再び壁の前に立つ。
「じゃあ、いち」
「まて!」
「にい!」
「聞け!やめろ!」
「さん!」
「…………」
《白銀の戦慄》のメンバーたちは、もう何とも言えない顔でその光景を眺めていた。
ドラゴンスレイヤー。
やはり色々な意味で自分達とは違うなと。
「よん!」
「……」
「ごお!」
あ然としているアレクに、
《白銀の戦慄》の一人が静かに声を掛ける。
「アレクさん、もういいでしょう。行きましょう」
「しかし――」
「これ以上話しても無駄だと思うぞw」
別の一人も苦笑する。
「うん。たぶん、あの人に俺たちの話は通じない」
「ドラゴンスレイヤーは、やっぱりソロって変人が多いんだな」
「やめろw 言うな」
「変わり者なのは確定だな」
「協調性もなさそう」
「それでいて、子供に完全に振り回されてる」
「Aランカーなのに」
「……見なかったことにしよう」
《白銀の戦慄》は、揃ってグレンから視線を外し、
アレクだけが納得できない顔でグレンを見ている。
「ハルヴァード。あんた、本当にそれでいいのか?」
「何が?」
アレクは、言いかけたが、やめた。
(くだらない!こんな男に構ってられるか)
「もういい!二度とお前と話すことはない!
そして俺たちが、先に深淵に行く!
俺たちに二度と話しかけるな!」
《蒼穹の牙》が歩き出し、その横を《白銀の戦慄》も通り過ぎていく。
誰も知らない。
彼らが完全に興味を失った男が――
後に、このダンジョンで何をするのかを。




