1歩間違えたら、大事故です!捕まります
サリーはグレンを急かすように、ぐいぐいと服を引っ張り始めた。
その様子は、先ほどまで「ミルクが少ない」「お腹痛い」と
文句を言って、泣いていた少女とは思えないほど必死だった。
「答え合わせしたいの……サリーさん、俺もうどうしたらいいんだよ……」
グレンはその場でしゃがみこみ、もう泣きたくなった。
7日間寝続けて起きたと思ったら、お兄ちゃんと呼ばれ、
タブレットを覗き込んだら異常なほどダンジョン行きたいと大興奮。
1個1個のぶん殴りが酷い、もう、本当に俺泣きたい。
グレンの落ち込みと泣きそうな声を聞いたサリーは、
頭をよしよしと撫でると、
突然その場にごろんと横になった。
(へっ?今度はなに?!)
「グレン?吸う?」
(毛はないけど、大丈夫だよね?お腹はお腹だよね?)
「…………」
「ほら、いいよ?いっぱい吸っていいよ?」
1歩間違えたら、大事故になることを平気で言う、少女。
得意げな顔で、自分から服まであげて、お腹まで見せる少女。
(私はできる犬なんだよ?ほら今まで元気ない主人は、
みんな吸うと元気になるんだぞ)
「もう、おねがい……おれのじょうしき……」
グレンはスンと無表情の上目から光を失くし、
ぶつぶつ呟きながら、サリーの服を戻しソファへ座らせ、
自分は、棚にあるブランデーを1口飲み込んだ。
そして
深くふかーーーく息を吐きながら、
「サリーさん、真剣なお話です」
「ん?」
「ガチの答え合わせ、しようか?」
「いいよーさっさと答え合わせして、ダンジョン行こう!レッツゴー」
あくまでも軽いサリーに、
グレンはタブレットの画面をサリーへ向け、
「サリーこの文字を読んでくれ」
「うん」
サリーは画面を覗き込み、刻まれている文字をもう一度読む。
『お待たせいたしました!
元気に開店中!今ならボーナスタイム付で、待ってまーす♪』
「…………」
しばらく黙って画面を見つめるグレン
「……サリー?」
「そう書いてるよ!」
「……サリー、真剣に頼む」
「うん。真剣だよ、そう書いてるもん!
だから行きたいんだよグレン!ボーナスダンジョンになってるから。
別名、魔髄タイムなんだよ!」
「はっ?えっ?はっ?……お前、ボーナスダンジョンのこと知ってるのか?
待って、何?えっ?なに?その魔髄タイムって」
「グレンはボーナスダンジョンを知ってて、
なんで魔髄タイムを知らないの?」
「いや、魔髄はそんなほいほい出るもんじゃねえし」
「ホイホイ出るから、魔髄タイムじゃん」
「……わかった。分からないけどわかった。
それで、お前はなんでそんなに行きたいんだ?お金か?」
「え?だって、魔髄飲めば、魔力が増える、
魔力が増えたら借りなくても撃てるもん」
「借りる?誰から何を?」
「ねぇ、グレン!早く行かないと、取られちゃうよ!」
「いや俺、ごめん。全然ついていけてないんですよ。
俺Aランカーよ?自慢じゃないけど、
ドラゴンスレイヤーなんだよ?ソロで深淵潜る予定の男なの」
「グレン、深淵潜るなら尚更必要じゃん!
何やってんの?!
グレン今のままならだめだよ!
魔髄タイムは待ってくれないの!早く行かなきゃ」
片手を突き上げ、やる気まんまんのサリー
(えっ?俺、今サラッとダメだしされたの?
なんで?)
軽くショックを受けていたら、
「あっ、回復玉持たないと。準備、準備~」
「回復玉?サリー、なんだそれ?響きからして、ポーションか?」
サリーは一瞬考え、
「そう!ポーション!グレン、今いくつあるの?
魔力玉じゃない、魔力ポーションは?」
サリーは、数日前に一緒に購入した新品のカバンを斜めにかけ、
「早く、ここに入れて」と、グレンへ差し出した。
「おっ、おう、1、2本でいいか?」
「少なっ!ケチらないでよ!
私が、グレンが戦ってる最中に運んで渡すからたくさん必要だよ!」
「は?」
意味がわからない……
「戦ってる最中に……俺に渡す?」
「そうだよ!それが私の仕事だもん!」
グレンはサリーの言葉を理解していくうちに怒りに火がつく。
『それが私の仕事?』
はい??どこのどいつか知らねーが、ポータースキルすら持ってないサリーに、
ポーション持たせて戦闘中に渡させただと?
こんな小さい子供を連れ回し、
戦闘中に……ってか、バカなのかそいつら?
なんでサリーが動ける前提なんだ?
違う、まさか、囮か?!クズ共が!
見つけたら殴り倒して2度と冒険者なんか出来ないように、駆除してやる。
怒りで頭が沸騰してるグレンだが、
サリーがカチャカチャと、グレンのポーション入れから、
ポーション類を抜き出している。
「サリー、待て。本当にお前持つのか?」
「うん。グレンも当然持つだろうけど、
私が基本持つよ。でもガラス瓶は脆いよね?」
カチャカチャと瓶を軽くぶつける。
「凄いね、こんなんでよく渡せるなぁ。
しかもこれ薄くないし、ガラスってぶつけたら痛いよね?
投げて回復させるわけにもいかないよね?」
紫のまっすぐな瞳で見つめられ、
「あぁーあぁーあー、もう何も聞こえません!
ダンジョン穴開けてるし、意味がわかりません。
もう、大丈夫なら大丈夫なんだろう!
そう、それよりダンジョンに穴開けたときの話なんだが」
「うん」
「あの銀髪の子は誰だ?お前なのか?」
「知らない。銀髪?私、銀髪になったの?」
「……知らないって、お前がダンジョンに穴を開けたんだよな?」
「うん。私だよ。魔力足りないから借りるしかなかったし」
「誰から借りたの?いつ借りたの?どうやって?知らないとは?」
「魔核金融に繋げて、ちょっと借りた」
「借りた……借りた物はどう返すんだ?同じ魔力か?
だから魔髄が欲しいのか?魔髄は魔力の塊だからな」
「違うよ。借りる時は魔力だけど、返すのは記憶だよ。
利息と魔力分の記憶を、その場で貸し借りして終わり」
非常識と絶句を何回繰り返しても、
サリーの言葉は、破壊力がエグすぎてついていけない。
記憶ってお前……何言ってんの?
「そ、そ、れってどれくらいなんだ?1時間とかか?」
「今回は、7日間」
「7日……えーと、妥当なのか?いや、待て待て待て待て。
記憶だぞ?じゃー、どこの記憶を渡したんだ?!」
「それはランダム。あの子達じゃないとわからない」
「おい!相手任せって!なんだそれ?!
お前……今まで何回も借りているのか?」
いつもなら、笑顔で「そう!」とか軽く言いそうなサリーが、
とても寂しそうに笑い、
グレンは、その笑顔を見た瞬間、
サリーが消えてしまいそうな気がして、
慌てて力任せに、引き寄せ抱きしめた。
「グェ、グレン苦しいぃ!」
「だめだ!二度と借りるな!
いいな、記憶と引き換えなんてバカげてる」
「グレン、んーそれは約束できないかな?
借りないと死んじゃうなら借りて撃つよ!
それが主人を守るためなんだから!」
ゴン!
「いた!」
「バカか!いいか、借りるな!何が主人だ!
2度と俺がそんな目には合わせ……いや、すいません!」
グレンは、土下座した。
違う。
俺だ、俺が悪い。
「俺が不甲斐ないばかりに、サリー悪かった。
知らないとは言え俺がお前の記憶を消したんだ。
あの時何がなんでも俺が頑張れば良かった」
「取り返しのつかない事をした。申し訳ない。」
グレンは、土下座したままで話した。
「グレン、何してるの?やめて!なんかいやだそれ、困らないで!
私困らせたくないの!悲しくならないで、
グレンが笑ってくれてるならいいの!
でも、ミルクは頂戴!」
ゆっくりと顔をあげ、サリーを見ながら
え?またこいつは何を言ってるの?
記憶とミルクだぞ?
なんでそんなに軽いんだよ……あぁ、違う。
わざと軽く見せてるのか……お前は、
お前はそこまで……なんでだよ。
なんでそこまで出会って間もない俺なんかの為に……
「ミルク……か」グレンは、土下座から姿勢を解き、
「ミルクの力って凄いな」と、サリーの話に乗ることにした。
そう、自分の反省を相手に押し付けるな。
こんな小さい子が、頑張ってるのに、
俺が泣いても悲しんでも意味はない!
「うん!ミルクはめっちゃ大事なんだからね!」
「サリーありがとうな。2度とそんな風にならない様に俺頑張るからな」
ここで俺が謝ってサリーを困らせても意味はない
謝るぐらいなら強くなるべきだ。うん。
そうだ、俺は強くなるぞと、わしゃわしゃとサリーの髪を撫でるグレンに、
「だーかーらー魔髄タイムは必ず取らないとなんだよ!」
足をジタバタさせながらサリーは力説し続ける。




