変化の前夜
―ギルド3階・第1会議室―
ギルド長をはじめとするギルド側と、
国から派遣された調査団の一行が集められ
全員が席についたのを確認すると、ギルド長は立ち上がり、
「今回の事態は、当ギルドの管轄を超えた、
前例なき現象によるものでございます。
まずは、その確認と情報共有のためにご足労いただいたことに、
深く感謝申し上げます。
本件につきましては、ギルドとしても速やかに調査体制を整え、
事実関係の把握に努めております。
以上、当ギルドの立場と現状をここにご報告申し上げます。」
ギルド長からの挨拶が一通り終わったその時、
調査団の中から、一人の青年が恐る恐る手を上げ、
「えっと……あの挨拶とか、そういうのは必要無いので……いや、
あのー僕だけでも先に現場へ行かせてもらえませんか?」
「……」
青年は周囲の視線を気にもせず、手元の資料をめくりながら続けた。
「通信機でずっと状況を見ていたんですけど、
昨日からダンジョン開きましたよね?!未知の文字も変化があり、
実際に見ないと分からないことが多いんです。
できれば早く確認したいんですが」
ギルド長は一瞬だけ目を閉じ、
「申し訳ない。こちらの話が長すぎました」
「いえ、長いというより……現場が気になって」
「そうだったな。では、まず現在の状況から説明しよう。
昨日の昼過ぎ、ダンジョンは突然解放された」
「それも通信機で確認しています」
「そうだな」
「はい。なので、その説明も大丈夫です。それより、現場へ――」
「待ちなさい」
今度は、調査団の責任者の男性が口を挟んだ。
「君は少し黙っていなさい」
「でも……」
「君の気持ちは分かるが、色々順序というものがある」
(順序や形式ばかり気にしすぎだと言ってるのに、
現場の苦労を理解できない上司ってどこも同じなんだな
早く現場に行きたい)
責任者はギルド長へ向き直り、
「申し訳ありません。
いまの者は今回の調査において非常に優秀な人材なのですが、
研究のことになると周囲が見えなくなるという悪癖がありまして」
「いえ、こちらこそ申し訳ない。現場が急ぐ気持ちは理解している」
ギルド長がそう答えると、副ギルド長と一瞬だけ視線を交わし
((グレンタイプか?))
二人の脳裏に、どこぞの冒険者の顔が浮かぶ。
研究対象がダンジョンなら、礼儀より先に現場へ突っ込んでいきそうな男。
そんな余計な想像を振り払い、副ギルド長が説明を引き継いだ。
「確かに昨日の昼過ぎ、ダンジョンは解放されましたが
現在も厳重警戒態勢を敷いています。
内部の安全が確認できていない以上、
冒険者を含め、誰一人として立ち入りを許可していない状況です」
「そうですな。特殊な事例ですから、当然です」
「そして、ここからが我々にとって大きな問題になります。
この街は、ダンジョンによって成り立っております。
冒険者はもちろん、武器、防具、宿、酒場、商店、運送業者、素材を扱う職人たち
兎に角ダンジョンを利用する人間が多く、ダンジョンは常にこの街を潤してきた」
「つまり、ずっとダンジョンに出入りできず、
すでに街全体への影響が出始めている」と
「その通りです」
「昨日までは、街の皆も状況を理解していました。
なにせ何をしても入れない。
お恥ずかしい話、非公式ですが荒くれの何人かは、
魔法を叩き込んだ者もおります。
しかし、ダンジョンはビクともせず、静寂を保ったまま
ですが、昨日の変化で、すでに住民からの問い合わせだけでも
倍増しております」
「当然でしょうね、あそこまで分かり易く、出入り口が変化したのなら」
「ええ。このままいつまでも封鎖を続けることもできない。
安全を優先すべきなのは理解できても、誰しも生活がある。
どこまで封鎖を維持できるのか……それが今、最も頭の痛い問題です」
会議室に重い沈黙が落ちるが、
その沈黙を破ったのは、やはり先ほどの青年だった。
「だからこそ、早く見に行きたいんですが」
全員の視線が集まる中、青年は悪びれる様子もなく、
ただ真剣に資料を見つめていた。
「特殊ですが、文献には数例この手の異常はあります。
兎に角、今わからないのはあの文字です!
あれは前例がないのです!」
その言葉に、調査団の責任者は小さくため息をついた。
「……まあ、変わり者ですが、本当に頼りになるんですよ。
では、我々も、最大限の努力はいたしますが、
封鎖を解除するかどうかについては、
お互いの判断が一致するまで保留でお願いいたします」
「もちろんです」
「こちらとしても、一刻も早くという思いはありますが、
それで焦って誰かを入れてしまえば、
取り返しのつかないことになる可能性もある」
「あの~本当に僕だけ先に行っちゃダメですか?
早くしたいなら、行きましょうよ!」
「「……」」
メリッサは、遅い夕食を食べる為ギルド併設のカフェにいた。
(ふ~やっと、まともなご飯が食べられる)
調査団の対応や細かな確認に追われ、
聞きたいことはいくらでもあるが、
……やっぱり今は、ダンジョンがメインよね。
でも、気を付けて聞いてると
やはりところどころ専門的な言葉が多いわね。
話を聞くにしてもある程度知らないと失礼だし、
やはりここは連絡先の交換にしようかしら?
しかもあの方たちはご飯も食べずに…




