返品セットとお嬢様
「で、殿下ぁ~!こわいですぅ~!
助けてくださぁい!」
エマは涙を浮かべながら王子へしがみつく。
「安心しろ、エマ!私が──」
「うっせぇぇえええ」
その一言で、場が静まり返った。
「……え?」
王子が固まる。
サリーは耳をピクピクさせながら、
心底うんざりしたようにため息をつく。
「殿下だか王子だか知らねぇけどさぁ、
今それどころじゃねぇだろ」
「目の前見ろ!」
「ボス」
「ボォ・スゥ」
「恋愛イベント始めてる場合かよ」
ズドォォォン!!
巨大な拳が振り下ろされ、全員が慌てて回避行動を取る。
「ぎゃあああ!」エマの絶叫
「ほら見ろ。だから言ったじゃん。
ダンジョンでイチャつくなよ」
サリーは呆れ顔で二人を見つめた。
「ったく……馬鹿とウルウル女のセット販売、返品できねぇかな」
イラつきながら尻尾をビタンビタンと打ちつけていたら、
「あなた……しゃべれるの?」
お嬢様が目を丸くする。
サリーは一瞬だけ考えて
「わん?」
「……遅いわよ」
「わ、わん!」
その直後だった。
「グオオオオオオッ!!」
ボスが地面を砕きながら突進してくる。
サリーは面倒くさそうに前足を上げた。
「《バインド》」
ボスの全身へ幾重もの光の鎖が巻き付き、
その巨体を地面へ縫い付ける。
「なっ……」
教師は言葉を失う。十五階層のボスが。
犬の一声で、止まった。
サリーは欠伸をしながら、お嬢様を見る。
「で?お嬢様、どうする?そこの返品セット、埋める?」
「……え?返品セット?」
サリーは王子とエマを見た。
「役に立たないじゃん。返品でしょ。」
王子が怒鳴る。
「き、貴様ぁ!私は王族――」
「うっせいわ」
一言で黙らせ、サリーはお嬢様へ向き直った。
「ねぇ。なんで、お嬢様って一直線なの?」
「もっと周り見なよ。危なくなったら逃げな」
「生きてれば、やり直せるんだよ?」
その時。バキッ……光の鎖に亀裂が走る。
「……あ。もう抜けるの?
かったりぃ、腐っても15階ボスかよ」
サリーはゆっくり立ち上がる。
「第一封印――解除」
犬の瞳が蒼白く輝き、身体が光に包まれる。
「な、なんだ……この魔力は……」
空気が一変した。教師は膝をつく。
サリーは、少女の姿へ
「《穿天》」
たった一閃。白い光が十五階層ボスの眉間を打つ抜く。
跡形や断末魔の悲鳴すらなく「無」となった。
静寂
サリーだけは、いつものように
ボスの残した魔髄を拾う。
アンプルのように蓋を開け、
ごくっごく、プハ~
一気に飲み干した。
「……ん??」
「ステータス」
表示を見たサリーは固まる。
「…………」
「に?はぁぁぁぁぁぁぁっ!?
レベル2しか上がんねぇのぉぉぉぉ!?」
「まじか!!うそでしょ……」
頭を抱えて床をゴロゴロ転がるサリー。
「ボス倒して2!?時給にもならねぇぇぇ!!」
教師も、お嬢様も、王子も。
全員が、別の意味で言葉を失っていた。




