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平和主義なので埋めます

「んーーーーーっ」


街へ戻ったサリーは、大きく伸びをした。


「またご主人探しかぁ……かったりぃ」


従魔契約が切れれば、新しい主人を見つけなければならない。


「ミルク飲みたいなぁ……なかなかミルクって飲めないんだよねぇ」


「世知辛いなぁ」


そう呟くと、石段に丸くなり、


「ま、いっか、とりあえず寝てから考えよ」


すると――。


ガラガラガラ……耳はピクピク動く


馬車の音


「お嬢様、お待ちください!

だめです!そんな汚い野良犬に近寄っては!」


馬車から飛び降りた金髪の少女は、サリーをぎゅっと抱きしめた。


「この子を連れて帰ります!」


「ん?」


サリーは片目だけ開ける。


(おっと……金髪のお嬢さんかぁ)


(服も高そうだし、貴族かな?)


(でもなぁ……子どもは欲しくても、周りの大人が許さないんだよねぇ)


(残念だけど、この子は私を連れて帰れ)


「いやです!!」


少女は突然、声を上げた。


「みんな『あれはダメ』『これはダメ』ばっかり!」


「お嬢様らしくしなさい。

礼儀正しく!」


「笑ってはいけません!

泣いてはいけません!」


「もう……イヤで……す」


少女の瞳から、大粒の涙があふれ出す。

執事も侍女も顔を見合わせる。

周囲では通行人が足を止め、ひそひそと様子を窺っていた。


「……仕方ありません、屋敷へお連れします」


執事は静かにため息をつく。

少女は満面の笑みでサリーを抱き上げる。


「わん?」


(おっ?連れていかれちゃう感じ?

この馬車から察するにミルクぐらい出るな)


サリーは抵抗することなく少女の腕の中へ。


豪華な馬車はゆっくりと走り出し、

王都でも指折りの大貴族の屋敷へ向かっていった。


半月後――


さいこぉ~~!!


芝生の上でゴロゴロ転がるサリー。


この職場、最高~~!


朝昼晩、三食付き。


しかも毎日ミルク付き。


ふかふかのベッド。


おやつ完備。


「毎日お風呂は勘弁だけど……まぁ、洗われてるだけだし」


大きく伸びをする。


あぁ~今日のおやつは何かなぁ


なんて平和なんだ……


いいねぇ、このご主人!


やっぱダンジョン系のご主人はダメだね。


今度からお嬢様一本釣りにしよ~っと


そんな呑気なことを考えていた、その時だった。


「こないで!!」


屋敷中に少女の叫び声が響く。


「お嬢様!」


使用人たちが慌てて駆け寄る。


「サリー!」


「ん?」


ぼふっ。

お嬢様がサリーを抱きしめ、その顔へ勢いよく顔を埋めた。


(げっ!!涙はいいけど……鼻水は勘弁してくれ……)


「聞いて、サリー……」


涙をボロボロ出しながら、お嬢様は言う。


「殿下が、私みたいに笑わない子は嫌いだって……

エマは、よく笑うし、私の気持ちを分かってくれるって……」


「でも、お母様は……

未来の王妃たる者は、人前で笑ってはいけませんって……」


サリーは黙って聞いていたが、


ん?

……んん?

ちょっと待て

笑うなって育てられて

婚約者には笑わないから嫌いって言われ

その横には、よく笑う別の女がいて……


数秒の沈黙。


まじか……。


こいつ、悪役令嬢じゃん


……はぁ。

私はどうして、こう面倒くさいご主人様ばっかり引くのか……


サリーは心の中でため息をつく。


(まぁ、断頭台か追放か逆ざまぁか、

未来なんていくらでも変わるし!

頑張れお嬢さま!)


「わん!」と、励ましの意味で

ちょっと力強く鳴く良い犬サリー


「サリー!」


お嬢様はぎゅっと抱きしめる。


「あなただけよ……私のことを理解してくれるのは」


(いや、理解というか……今までのパターンというか、

ほぼそうなるんですよね)


「あ、そうだ!」


「今度の野外ダンジョン実習、あなたも一緒に行けるのよ!」


サリーの思考が止まった。


(……は?)


(待って)


(野外ダンジョン?)


(それ、別途手当つきます?)


(え?つかない?)


(ただ働き?)


(かったりぃぃぃ……)


(しかも、これ強制イベじゃん……)


(どうせ途中で閉じ込められる前に)


『殿下ぁ~!』


『カナリア様がわたしの事睨みますぅ』


『きゃあああ!魔物がぁぁ』


『お前がやったんだろう!!』


(とか言われるやつじゃん。)


(そのあと馬鹿王子がドヤ顔で婚約破棄)


(うわぁ……もうめんどい)


(あっ!名案!)


(埋めればいいのか!元凶を!)


(王子とうるうる女)


平和主義者(自称)のサリーは、本気で名案だと思っていた。


◇ ◇ ◇



野外ダンジョン実習当日。

サリーは開始一時間で悟った。


(……あの女、もう三回転んでる)


「きゃっ!」


ドテッ。


「きゃあっ!」


ドテーン。


「ひゃあっ!」


ゴロン。


(お前、脳の病気なんじゃね?転びすぎだろ)


しかも、そのたびに王子が飛んでくる。


「エマ!大丈夫か!」


「殿下ぁ……私、ドジで……」うるうる


(いや、知ってる、三回見た)


(全部何もない所で転んでた)


(しかもお嬢様はまた一人で別の通路へ)


(おい!なんでお前も単独行動なんだよ

悪役令嬢って単独行動しないと死ぬ病気なの?)


(これ、末期じゃねぇか……)


サリーは深いため息をつく。


(だめだ、さっさと馬鹿二人を埋めて帰ろう)


◇ ◇ ◇


ダンジョン十五階、最奥部へ到着した。


教師が全員へ説明する。


「ここが十五階層のボス部屋です。

学生だけでは、到底攻略できません」


「本日はここまで到達した証明として、

ボス部屋前で集合写真を撮影します」


「後日、到達証明バッジの申請に必要になりますので、

皆さん扉の前へ並んでくださーい」


生徒たちが整列のため移動する、

教師はカメラチェックに気を取られ、


「きゃああああ!」


エマが派手に転んだ。


「カナリア様がぁ!」


エマはそのまま勢いよく――


ドンッ!!


ボス部屋の巨大な扉へ激突。


ギギギギギ……


重厚な扉が、ゆっくり開き始める。


サリーは頭を抱えた。


(……馬鹿すぎる)


地鳴り。


ズンッ……


教師の顔色が一瞬で変わる。


「ボス部屋起動?!全員退避!!」


学生たちは悲鳴を上げながら一斉に逃げ出す。


なんでよ……頭を両手の肉球で抱え込むサリー


普通なら扉と!はん!たい!方向に逃げるのに

何で……王子はエマを追うし、その王子をお嬢様が追うし


結果、逃げ遅れた者が4人と1匹。


教師。


お嬢様。


王子。


うるうるエマ。


サリーは四人を見渡し、小さくため息をついた。


(やっぱり、イベント開始かぁ)


ボスが咆哮を上げる。


ズゴォォォォッ!!


圧倒的な威圧感に、その場の空気が凍り付いた。

教師は剣を構えながら叫ぶ。


「殿下、お嬢様!私の後ろへ!」


しかし――。


王子は剣先を魔物ではなく、お嬢様へ向けた。


「お前は!!そんなにエマが嫌いなのか!

こんな危険な目に遭わせるとは……!

ここで婚約を破棄する!!」


サリーは、前足で目を覆った。


(あちゃ~考えろや、この馬鹿王子!!

今、それ言うことか!?

婚約破棄って命があって初めて成立するんだぞ!?)


教師も思わず怒鳴る。


「王子!!生き残ってからにしてください!!

私一人で十五階層のボスを相手にできると

思っているのですか!!」


お嬢様は静かに一歩前へ出る。


「《防壁》」


淡い光が広がり、三人の前へ巨大な魔法障壁が展開された。


ゴォォォン!!


ボスの一撃が障壁へ叩きつけられる。


激しい衝撃に床が砕け散る。

教師は目を見開いた。


「この強度は!一流魔術師並みだ!」


王子だけは、それでもお嬢様を睨みつけていた。


サリーは深く、深くため息をつく。


(……駄目だ)


(この王子)


(知能がゴブリン以下だ)


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