色々とみんな正解。たぶん……
部屋は静まり返るが、内心グレンだけは
(……実際、サリーが魔髄を飲んで、急に変な事言ったあとに、変身して穴を開けたのは事実だが、
だからと言って俺は、サリーが魔物かと聞かれたら、違うと答えるし、
上級魔導具が仮に異常を一瞬示したとして、
サリーが書き換えたのか?出来るのか?
魔力を一切感じさせずに?不可能だよな?
いや、仮に出来るとしても、何となく、何となくだが、あいつなら書き換えより壊すタイプだよな。
いきなり、魔道具をボンと破壊。
それで大騒ぎの方がしっくりくる。
うん。俺、正解)
「スタッフリーダー、言いたいことは終わったか?」
「はい。ギルド長、もう一度あの少女を調べる許可をいただきたいです」
「そうか、出ていけ」
「……えっ?」
「ここは、夢物語を語る場ではない。
続きを話したいなら、酒場でお前を信じる連中としろ」
「ギ、ギルド長!」
「聞こえなかったか。出ていけと言った」
メリッサは勢いよく机を叩き、
「なぜですか!二つの異常が続いたんです!偶然ではありません!」
「お前だけが見た表示と、ダンジョンの異変を同列に語るな」
ギルド長は、更に続けて、
「上級魔導具が異常を示していたなら、
お前の話にも検討の余地はあった。
だが、人はヒューマンエラーを起こすことはあっても、
魔導具は特に上級魔導具なら尚更起こさん」
「……そんな……」
「副ギルド長」
「はい」
「お前も気になって私のところへ来たな」
「はい」
「えっ?副ギルド長?」メリッサは副ギルド長を見た。
まさか身近に自分を信じてくれる人がいたなんて、
明るい笑顔がこぼれた瞬間、
「だから私と二人でログを確認した」
「その通りです」
「ろ、ログ?ログ……とは?」
メリッサは困惑したように目を瞬かせ、
ギルド長は呆れたように息を吐いた。
「そんなことも知らん者が、
よくも『上級魔導具を欺いた者がいる』などと口にできたものだ」
「ログまで確認したのか?
なら記録にもノイズや不自然な編集の反応は無かったのか?」
ギルド長は驚きの目でグレンを見ると
「……上級魔導具について知っているのか」
「これでも深淵を目指している冒険者だからな。
多少の知識くらいはある」
「そうか……なら話は早い。
ログを精査した。ノイズ、エラー、外部干渉。
リライト痕跡も、オーバーライドの形跡もない。
上級魔導具は、終始正常に稼働していた」
(へぇ、そこまで確認できるのか。
結構な権限持ちなんだな、このギルド長)
感心していると、おずおずと手を挙げたのは、副ギルド長だった。
「あ、あのな……メリッサ」
その声に、メリッサは何とも言えない表情を見せた。
「お前が自分の目に、いや自分自身に自信を持っているのは分かる。
いや、それくらいの自信がなければスタッフリーダーなんて務まらない」
副ギルド長は一度言葉を区切り、静かに続けた。
「だが、上級魔導具のログにまで干渉できる存在がいたとして、
なぜ『人型』と一瞬だけ表示させ、『人族』へ書き換える必要があった?
そんな真似をしてあの少女に、いや、
そのXに何の得がある?」
「それは……」
メリッサは口を開きかけるが、言葉が続かない。
部屋は静まり返り、その沈黙をグレンだけが別の意味で受け止めていた。
(いや、サリーならそこだけなら、
『あっ、間違えた!』くらいのノリでやりそうなんだよなぁ。あるな……単純な間違え)
自分で打ち消しかけて、ふと昨日までの出来事を色々思い返した。
(魔物でも人様に迷惑をかけなきゃ別にいいと思ってたんだけど……)
(現在進行形でかけてるぅぅぅぅ!
ダンジョン閉鎖してるぅぅぅぅ!
皆様に迷惑かけてる最中!あれ?もしかしてサリーって、
本当はすっごい魔物で、
もしかしたら魔王とか?何しに?遊びに?……遊びに来た魔王ってなんだよ。
うん、俺、完全にアホになってるな)
「わ、私は……!」
反論しようとしたメリッサの声は震え、堪えていた涙がポロポロと頬を伝う。
(あっ、泣くのはダメ。えーと俺、ハンカチなんて持ってねぇぞ)
困ったグレンは、誰か持っていないかと、
助けを求めるように会議室をゆっくり見回したが、
誰も目を合わせない。
反対に職員からすると、今ここで動いたら、
このAランカーとギルド長の機嫌が悪くなるかもと妙な忖度が入った。
副ギルド長は小さく唾を飲み込み、メリッサは涙を拭くことすらせず立ったまま。
(えっ……誰も持ってないの?
持ってない俺が言うのもなんだけど……持っとけよ!
女の人が泣いてるんだぞ!誰か貸してやれよ!)
その沈黙を見ていたギルド長は、小さく息を吐き、
「副ギルド長」
「は、はい!」
「スタッフリーダーを退室させろ」
「承知しました」
副ギルド長はすぐに立ち上がると、
なおも何か言おうとするメリッサの肩へ静かに手を置く。
「メリッサ、退出だ。頭を冷やせ」
「い、嫌です!私は間違っていません!あの子は……あの子は人型だったんです!」
「証拠を出してから言え」
その一言を受けメリッサは思わず、
「……!字が、字が綺麗でした!」
「退室だ」
副ギルド長は小さく頭を下げると、
なおも「私は見ました!」「もう一度だけ調査を!」というメリッサを促し、
そのまま会議室の外へ連れ出した。
(結局、誰もハンカチ持ってなかったのか)
沈黙が会議室を包む中、
「ギルド長、俺も退出するぞ」
ギルド長は、腕を組み何かを考えるように視線を落としたままだ。
(無視よくないぞ。だから嫌なんだよ、これが軟禁では?)
ドンドンドンッ!!
会議室の扉が勢いよく叩かれ、
返事を待つことなく扉が開き、
一人のギルド職員が息を切らしながら飛び込んできた。
「失礼します!ダンジョンが!
ダンジョンが動きました!入口が開きました!」
「何だと!?」
ガタガタガタッ!
会議室の職員たちが一斉に立ち上がる。
「まだ誰も中へ入れるな!」
「はい!厳戒態勢は維持しております!
至急、現場までお願いいたします!」
「わかった、今スグいく」
短く答え、ギルド長は、
「グレン・ハルヴァード。お前も来るか?」
(サリーも起きた可能性がある。家に戻らないと)
「俺は、自宅待機で、
必要があれば、その時に向かう。」
「分かった。ただし、緊急通知や緊急招集を今後無視することは許さん。
次に同じことをすれば、規定に従ってペナルティを科す」
「……分かりました」
(まぁ、仕方ないよな。今回のお咎め無しはギルドへの貸しだな)
それだけ言うと、ギルド長は職員たちを引き連れ、足早に会議室を後にした。
グレンもそれに続き、足早に階段を下り、受付嬢から剣を受け取ったとき
「待て、グレン!」
副ギルド長が声をかけてきた。
「?」
「お前は行かないと聞いたが、ダンジョンが開いたんだぞ?」
「行かないよ。さっきと同じ理由、動けるように自宅待機。
通信タブレットは常に見てるし、でっかい釘刺されたから心配するな」
「そうか……とりあえずまた今度話そう、次からは、絶対に無視するなよ!」
グレンは軽く手を上げ、慌ただしく動く人々と反対方向に歩き出した。




