出たとこ勝負
ギルド長は一呼吸置いてからグレンを真っ直ぐ見据え、
「グレン・ハルヴァードさん、
今回のダンジョン異常について、何か知っていますか」
「知りません」
「あなた自身、今回のダンジョン異常をどう考えていますか」
「仮説はない」
「もしかしたらと思うことも?」
「思いあたらない」
「では、なぜこの4日間、ギルドへ連絡をしなかったのですか」
「こんな感じかなと想像がついたので」
「どういう意味ですか」
「なんていうか、実りのない又は軟禁に近い状態。
実際、上位の実力者たちを手当り次第集めて、話を聞いたと思っている」
「軟禁って言い過ぎだろう」
副ギルド長はハッキリと言い、メリッサは小さく眉をひそめた。
「ギルドへのご理解が深いな、ハハハ、なら連絡を入れるべきだったのでは?」
「ダンジョンが異常中、動ける人間を1ヶ所へ集める方針に疑問でね
通信機に出ても、『ギルドへ来い』としか言われないなら同じかなと」
「グレン!それはギルドが判断することだ!冒険者が口を挟む話ではない!」
「そうですね。だが俺の命や大事な人を守れるのは、自分だからそう判断した」
「……何だと?まるでギルドを信用してない、必要ないとでも言いたげだな!グレン」
「副ギルド長、仮にスタンピードなら俺もすぐに来ましたよ。
でも今回は、ダンジョンがなぜか入口を塞いだ。
一切入れない異常事態で、何が起きるか分からない以上、
俺はAランカーとして待機していた」
「副ギルド長」ギルド長が手で制し、
代わって静かに口を開いた。
「ハルヴァードさんはあの日、ダンジョンに潜りましたよね?」
「はい」
「ですが全員が排出された時、あなたの姿はありませんでした。
この点については?」
「サリーが帰ると言い出したので、早めに帰った」
「職員は、出ていったあなたを見ていません」
「基本、出入りは無申告制ですよね?」
「……そうですね」
「特に親しい職員でもなければ、そのまま出ますよ」
「では、ダンジョンの警報は」
「直接は聞いてない」
(……言っちゃった。聞いてないって!
ごめんなさい。聞いてます。何なら原因はサリーです!
だが一度口にした以上は、もう引っ込められない)
「ダンジョン入口に出てる文字については?」
「知らない。読めない。反対に俺もギルドが掴んでる情報を知りたくて、
4日経っても状況に変化無し。
緊急性は薄れたと判断して来たんだ」
「……随分と自分勝手な……」
「すみません。たまに言われます」
(咄嗟に出した答えだけど、大丈夫か?
出たとこ勝負やめたい……でも本当の事は言えない!
しかもメリッサさん、なんで貴方俺を、親の仇のような目で見るの?
身に覚えないんだけど……帰りたい)
会議室は再び静寂に包まれるが、
その静寂の中、メリッサだけは別のことを考えていた。
(まるで用意してきたような答え。
あの時、『人型』と表示されたのは、見間違いではない。何か隠してる)
そしてメリッサは静かに手を上げ、
「発言、よろしいでしょうか」
「いいぞ」
ギルド長から許可を受けた、メリッサはグレンへ向き直る。
「先日登録された、
人族と表示された女の子についてお聞きします。
あの子の身元は、何か分かりましたか?」
「いいえ。記憶が抜けているようで、ただ本人があまり気にしていません」
「医者には?」
「まだです。ダンジョンの件が落ち着いてからでいいと思っているので」
「今だからこそ、診せるべきではありませんか?」
思わずメリッサの声が大きくなり、
部屋の空気が張り詰めた。
ギルド長はメリッサへ静かな視線を向ける。
「……そこまで重要なことか?メリッサ、お前は何を知りたい」
「おかしいからです。あの年頃の子が、
記憶がない事を平然と受け入れ、しかも自分が全裸だという事よりもご飯を優先し、あまつさえ
登録魔導具には『人型』と表示されたんです!」
(ここまで積み上げてきた私のキャリアと
私が見間違えるなんて。今まで失敗した事ないのよ!今回だって絶対私が正しい)
会議室は静まり返ったまま更にメリッサは、
「一瞬だけ『人型』と表示された少女がダンジョンへ潜った直後、
前例のない異変が起きました。
私は、この二つが無関係だとは思えません。
もう一度、あの少女を詳しく調べるべきです」
「調べる理由は、それだけですか?」
グレンは静かに問いかけ、メリッサは、
「あの少女が上級魔導具を何らかの方法で欺いていたとしたら、
今回の異変にも説明が付きます」と、
言い切り緊張が高まる中グレンは、
「登録中の上級魔導具の色は?」
「青白でした」
「赤くも黒にも変化してない?」
「私が見てる限りでは、です」
「つまり、上級魔導具は最後まで正常だった」
「いいえ、一瞬だけ、
人型から人族に変わった表示と同じように、色にも変化があったが、一瞬すぎて誰も見てなかった可能性がある以上、
あの少女が上級魔導具を欺いたという、可能性を考えるべきではありませんか!」
「それだと順番が逆では?」
グレンは穏やかな声で伝えた。
「……逆?」
「上級魔導具が最後まで正常だった以上、
疑うべきは魔導具ではなく、貴方の認識では?」
「私は見間違えていません!」
「そうかもしれません。ですが、今の貴方は、
『自分は見間違えていない』という結論から考えている」
「当然です!」
「その結果、『上級魔導具を欺く存在がいた』という答えに辿り着いた。
自分の記憶を根拠に、深淵から持ち帰られた上級魔導具の信頼性を疑っているのと変わらない」
「違います!」
メリッサは拳を握り締めた。
「私は魔導具が間違えたとは言っていません!
あの少女が魔導具を欺いたと言っているんです!」
「そうですか、メリッサさん、いいえ、ギルドの皆に聞きたい。
上級魔導具を欺けるほどの存在が、
なぜ王都でもなく、この街へ現れたんだ?」
「それは……」
「更に少女の姿で、記録によると全裸で門を通過しようとした?
その後、冒険者登録へ来たと?」
「理由は分かりません、だから少女をもう一度調べるのです」
メリッサの声は、先ほどまでの勢を失っていた。
「調べると、まるで魔物だと決めつけて、
貴方だけが見た表示を根拠に、上級魔導具を欺く存在がいると言う。
随分と粗末な上級魔導具だな」
「なっ!上級魔導具を馬鹿にしないでください!」
「馬鹿にしているのはメリッサさん、いえギルドですよ。
深淵から命懸けで持ち帰られ、
長年信頼され続けてきた上級魔導具より、
受付嬢の一瞬を優先しているんだから」
「いや、ギルドは……そんな結論出してないぞ……」
副ギルド長が発した言葉を聞き、
グレンは、ゆっくりとギルド長へ視線を向けた。
「ギルド長」
「なんだ」
「ギルドとして、私の家で寝ている少女が
今回の騒動の元凶だと考えているのか?」




