空気が悪い
ギルドへ到着すると、冒険者たちの声で満ちているロビーが、
グレンの姿を認めた瞬間、波が引くように静まり返った。
「おい、あいつ生きてたんかよ」
「そりゃー生きてるだろよ?」
「ちげーよ、この4日間何やってたんだって事だよ!Aランク様がよ!」
グレンはまっすぐ受付に進み、
「グレン・ハルヴァードです。
伺いたいことがあるということで来ました」
受付嬢は一瞬だけ表情を固くし、
すぐにいつもの業務的な笑顔へ戻しながら、
「グレン様、お待ちしておりました、
3階の第2会議室へご案内いたします」
しかし受付嬢は、何かを迷うように口を開いては閉じ、
やがて覚悟を決めたように顔を上げた。
「……大変言いにくいのですが、会議室へ入る前に、
その剣を一時お預かりさせていただいてもよろしいでしょうか」
グレンは一瞬だけ腰の剣へ視線を落とす。
(剣?今まであまり預けた事ないが?)
「……ああ、分かった」
受付嬢は少しだけ安堵した表情を浮かべたが、
その様子を見たグレンは、
(そうだよな、冒険者の剣を預からせてくれなんて、
揉めるだけだよな。ご苦労さまです)
「では、預かり札とご案内致します」
札を貰い、3階の会議室に案内をされ、
会議室を開けた瞬間、
鼻についたのは煙草の臭いと真っ白な空気
「……火事?」
グレンはそう呟いた瞬間、
魔法で窓の鍵を外し
風魔法で煙を押し出すように窓を開け放つ。
新鮮な空気が流れ込み、グレンの魔法と入れ替わる空気で書類が綺麗に舞い上がった。
「グレン!!お、お前……いきなり何をする!」
副ギルド長が椅子から立ち上がり、声を上げるが、
当の本人は、
「空気の入れ替えだが?」
「いや、そういう問題では……!」
「煙で目が痛かったし、臭いが凄い。
あと俺はタバコを吸わない」
「……」
どんな部屋であろうが、
普通なら確認の一言があるべきである。
しかし目の前の男は、その一言を省く、ソロ冒険者グレン
副ギルド長は深く息を吐き、椅子へ座り直す。
(協調性のないヤツめっ!
あぁ、なんか胃が別の意味で痛くなってきた)
「……まあいい、グレン、聞きたいことが山ほどある」
「だろうな」
(……この男は、本当に……)
威圧しているわけでもない。
ふざけているわけでもない。
それが余計に、周囲を困らせる。
副ギルド長は小さく息を吐くと、
近くにいた職員へ視線を向けた。
「ギルド長へ伝えろ。グレン・ハルヴァードが来たと」
「はっ」
職員が駆け出すと、
副ギルド長はグレンへ長机の中央を指した。
「グレン、お前はそこに座れ」
「分かった」
グレンが椅子へ向かうと、
そこに座っていた職員たちは資料を抱えて一斉に立ち上がり、長机の反対側へ座り直した。
(えっ?俺、嫌われてる?俺、何かしたか?)
など考えていたら、
ギルド長とスタッフリーダーのメリッサが入ってきた。
ギルド長は正面の席へ腰を下ろし、
メリッサは副ギルド長側の長机の末席へ座る。
ギルド長は席へ着くなり、前置きもなく、
「先日登録した女の子は、一緒ではないのか?」
「家で寝てますよ」
メリッサの眉がぴくりと動き、
「……この非常時に、ですか」
小さく漏れたその一言に、
グレンはゆっくりとメリッサへ視線を向けた。
(非常時だろうが寝ちゃダメなのか?
サリーはまだ小さい女の子だぞ?
……まぁ、違う意味で起きないだけだけど)
メリッサは無表情なグレンを見つめた。
(あの時、上級登録魔道具は確かに『人型』と表示した。
私は見間違えていないのに、ギルドは私の見間違いだと処理をした。
でも、結局今回の異常が起きた。
あの少女が無関係だとは、どうしても思えない)




