ドラゴンスレイヤー
グレンは、足早でミルク屋にいく。
「羊のミルクの方が腹に優しいか?
サリーは牛より羊の方が好きだし、
でも魔牛とかの方が栄養高いよな?」
そんなことを考えながら足早に歩いていると、
街のざわめきが大きくなった。
「ねぇ、あれって……」
「50階攻略中の、《蒼穹の牙》じゃないか?」
「やだ、めっちゃかっこいい〜」
街の視線を集めるのは、
Aランク冒険者だけで構成された、国内でも人気パーティー
《蒼穹の牙》
その姿を見た瞬間、グレンは小さく息を吐いた。
「……面倒なのと……なんで会うんだよ…」
蒼穹の牙のリーダー、アレク・フォードは、
獲物を見つけたと言わんばかりに近付き、
開口一番
「へぇ、グレン・ハルヴァードさん、
貴方生きていたんですか?」
「何が言いたい?」
(初っ端から喧嘩腰かよ。
俺、お前に何かしたか?
何かにつけて……絡まれるけど)
「いえ、ただ不思議に思っただけですよ。
ギルドからの呼び出しに一切応じない。
Aランクのソロ冒険者グレン・ハルヴァードさん。
貴方ギルドに所属している意味はありますか?」
「電源が入ってなかったのかもな」
「は?」
(意味はあるよね。呼び出しに応じない理由も、
言えないけどあるんだよ!)
アレクの眉が動き、殺気が漏れだすが、
間に入ったのは、ミリア・セレスタだった。
(アレク!何をやってるのよ……仲良くは無理でも、
今回の異常事態の情報を聞きたいのに!)
「ごめんなさいね、ハルヴァードさん。
彼、3日前のダンジョン異変から少し気が立っていて――」
「違う、これは感情の問題ではない。
同じAランク冒険者として、単独行動ばかりする彼が問題なのだ。
この非常事態に、和を乱していると僕は言っているんだ」
(終わった…情報の大事さ!もう…とりあえず穏便に終わらせるしかないな)
「和ねぇ……スタンピードなら言われてもしゃーないけど、
基本ソロの俺に、乱す和なんて最初からないんだよ……アレク坊や」
その言葉に、アレクの表情が更に険しくなり、
ミリアは少し眉をへの字にした。
「ハルヴァードさん、その物言いは私も庇いきれませんよ?」
「別に庇ってもらおうとは思ってないんでね、お嬢ちゃん」
「お嬢ちゃんだと?貴様!
ドラゴンスレイヤーだからと調子に乗るなよ。
ミリアに謝れ!」
「謝罪します」
「え?」
「謝ったぞ」
「待て!」
「待たない」
グレンは店の扉へ向かって歩き出した。
(ミルク買って早く帰ろう)
「貴様!逃げるな!!」
そう言うと同時に、アレクの指が鞘へ伸び、小さくカチャっと金属音が鳴る。
グレンは、肩越しに視線だけを送り、
「アレクお前が、抜くなら――」
「腕を落とす」
鞘に触れたアレクの手が、
まるで見えない鎖で縛られたように止まった。
(……っ、動けない……
蒼穹の牙のリーダーなのに、
領主様にも目をかけてもらってる……のに)
キーンと空気が冷え、アレクが悪寒を感じた時には
極寒の池へ
暗く、深く、静かに、静かに沈んでいく
音の無い世界へ
グレンはそんなアレクを一瞥すると、
そのまま何事もなかったかのように店の扉へ手を伸ばした。
パチン――
グレンの殺気が消えた瞬間、街の喧騒が一気にアレクの耳へ流れ込んでくる。
アレクは真っ青な顔のまま、その場に立ち尽くす。
(動けなかった……あれが)
ソロでドラゴンを堕とす者
グレン・ハルヴァード
称号:ドラゴンスレイヤー
Aランクの中でも、別格の存在。
アレクは初めて浴びるグレンからの本気の殺気に何もできず、
グレンも普段なら気にも止めない存在に対し殺気を放ったのは、
三日間眠り続けるサリーや、鳴り止まないギルドからの通信、
破壊され続けた自分の常識を誰にも言えず抱え込み、
全てを我慢し続けてるグレンの鬱憤が、一気に噴き出した、
要するに、盛大な八つ当たりの結果だった。
顔面蒼白になったアレクを見て、
ミリアは悟り、すぐさま自分たちの評判に傷がつくことを懸念、
少し大きめの声で
「アレク、行きましょう。こんな変わり者の相手をしているより、
今はダンジョンの異常を優先するべきです」
そして、少し声を落としながら、
「何せ、私たちは、ボス攻略中にダンジョンから弾き出されたんです。
領主様も混乱しておりますし……戻りましょう」
グレンの耳は店の扉が閉まるその前に、その言葉を拾い焦った。
(え?待って今、なんて言った?
ボス攻略中に……ダンジョンから弾き出された?)
焦る心とは裏腹に、
グレンは何事もなかったかのように、店主へ声をかける。
「おっちゃん、羊ミルク3本とチーズの詰め合わせをたのむ」
「はいよ。瓶でいいかい?」
「瓶でいいよ。おっちゃんの所は、
ダンジョン産のミルクも取り扱いしてるから大変だよなぁ、大丈夫か?」
「あぁ、本当だよ。半分はダンジョン産だから困ったもんだよ。
入口そのものが閉じてるなんて、俺も生まれて初めて見たよ」
「だよなぁ、前例がなくて何もわからんよな。
ボス攻略時に、階層停止とかはあるけど」
「ああ、あるな」
「でもダンジョン自体が閉じるなんて」
「普通じゃねぇよな。なんでも明日か明後日には、国の調査員がわんさか来るって噂だぜ。
商店組合が賠償問題とかも絡んできてるからってギルドに詰め寄ってるぞ」
「そうなるよな」
「そうそう、あの文字お前さんなら読めねーのかい?」
「あーあれなぁー俺も通信タブレットで見たけど、さっぱりだよ」
「Aランカーのお前さんでもだめか……なんて書いてるんだろうな」
「おっちゃん、もしかしたら深淵に潜ってる奴らならわかるかもな」
「深淵組かー今回の全員には入って無かったよな?
流石に深淵組まで戻されてるならもっと大騒ぎだろうからな。
俺の息子がちょうど潜っててよー
腰抜かすほど驚いてたぜ!警報音鳴った後気付いたら入口で、
地面見たらでっけ〜転移紋がどーーーんだってよ」
グレンは少し笑いながら、
「おっちゃんの息子さん、冒険者なのか」
「まぁな!とは言っても、グレンさんのようなAランカーなんて程遠いCランクだけどよ、ガハハ」
「いやいや、十分立派だよ。
冒険者なんて、生きて帰ってくるだけで大したもんだ。
今回の異常時に帰って来れて良かったじゃねーか」
「だよな、まぁ当分は店の手伝いさせるしかねぇな。じゃ羊ミルクと詰め合わせな、おまけしといたよ!」
◇
店を出たグレンは、静かに息を吐き、
腕に抱えたミルクを見ながら、
サリー、俺、飛ぶ必要なかったみたいだぞ
思い出すのは必死になって、壁を蹴って、
魔力を使って、飛び出した、自分。
ダンジョンが言ってた、
『異物と――』あれはそういう意味だったのかよ。
全員、地上に出されたなんて、恥ずかちぃ
何がジャーンプだよ!!
黒歴史作っちまったじゃねーか!
グレンは小さく笑いながら、
「まだまだだな、俺も」
自分では完璧に判断したつもりだったが、
聞いてるようで聞いてなかった。
情報が足りない、経験が足りない、前例がない、そんな言い訳通用しないのにな
「んーーーやっぱり、まだ深淵は早いのか?潜りたいんだけどな~」
グレンにとっての目標の場所である深淵
グレンはミルク以外にも食料調達をし、家に戻り室内の空気が動いてない事に
ホッとしつつも、確認でベッドを見たが、やはりサリーは、相変わらず眠ったまま。
「まだ起きないか……」
そう確認してから、冷蔵庫にミルクやら食料品を詰め込む。
ロックグラスにブランデーを注ぎ、氷を入れて、カランカランと回した。
「さて……本格的に色々考えるか――」




