待つしか出来ない
グレンは盛大に心の声を吐き出し、
「何から突っ込めばいいんだよ!!!!なんなんだよぉ!!」
ただ、そんな叫びとは裏腹に、
ダンジョン内に、無機質な冷たい声と音が響き渡る。
ジリジリーーウォンウォンーージリジリーー
『致命的損傷を確認』
『ダンジョン管理システムより、緊急修復を開始します』
ジリジリーーウォンウォンーージリジリーー
『致命的損傷を確認』
『これより修復作業に入ります。現時点で異物と――』
機械的な音声が続く中、先程、銀髪の少女が開けた穴が、ゆっくりと塞がり始める。
「……」
グレンは、穴が閉じていく様子を見てたが、
「いや待て、ここ、ダンジョンだよな?」
当たり前のように開いた穴。
当たり前のように修復を始めるダンジョン。
「いやいやいやいや」
もう何度目かの常識の崩壊。
しかし、そんなグレンを置き去りにするように、穴はどんどん小さくなっていく。
「くそっ!サリー!!」
腕の中の少女を見るが、返事はなく、
「飛ぶって何だよ!?魔力固めて、ジャンプ!?」
無茶苦茶だ!
言っていることが無茶苦茶すぎるが、
グレンは歯を食いしばり、サリーの言葉を信じた。
「……やるしかねぇだろ!!」
グレンはサリーを抱きかかえたまま、足に魔力を纏わせる。
「クソッタレ!!サリーさん、貴方ここは三階って言いましたよね!
三階なら跳び箱の高さだぁぁぁぁ!!」
グレンは魔力を纏わせ壁へ向かって走りだす。
そして、三角飛びの要領で、ダンジョンの壁を蹴り上がる。
「うぉぉぉおおおおおおお!!
やれば出来る!!俺ならできる!」
無茶苦茶な状況。
無茶苦茶な方法。
出口付近に足場は無いが、グレンはサリーの言葉を借りる!
「魔力を固めてぇええええ」
足元に硬さが来たままにイメージは小さい発射台
「ジャーーーンプ!!!」
2人がダンジョンから飛び出した次の瞬間、
ズン!ドン
背後で音が響く。
振り返ると、ダンジョンは何事もなかったかのように、元の姿へ戻っていた。
「ま、ま、間に合った……」
しかし、今度は別の問題が発生する。
外に出たがあまり見覚えがなく、下の方から騒がしい人の声が聞こえる。
そっと下をのぞくと、
「ダンジョン入口付近かよ……」
サッと隠れながらも聞きみを立てると、
「ダンジョンで異常が発生したぞ!」
「何だ今の揺れは!?この警告音はなんだ!」
「致命的損傷だと!?なんだそれは!?」
騒ぎ声と共に慌ただしく動く人々と、
聞こえ続ける、ダンジョンの警告音。
(そりゃ~そうなるよな)
ダンジョンに異常が起きれば、騒ぎにならない方がおかしい。
「チッ」
このままここにいれば、間違いなく面倒になるのは目に見えてる。
何せダンジョン入口の上にいる自分たち。
普通ならここには、登らないしダンジョンの出口など無い。
グレンは気配遮断を発動し、サリーを抱えたまま、
入口とは反対の山側から迂回しつつ人混みに紛れ、
誰にも気づかれることなく、静かに自宅へ戻った。
――
自宅。
扉を閉める。
鍵をかける。
念のため、もう一度確認し、
めっちゃ盛大なため息を出しながらも
グレンは腕の中のサリーを見下ろし、
「なぁ、サリー、俺、お前と出会って何回、常識を壊された?」
当然、返事はない。
「全裸、玄関で寝る。お風呂も下着も嫌がる。
ギルドの警報音。ダンジョン壊す。空飛べとか言われる。
意味不明な力使う。なに?あの美少女姿……」
グレンは、独り言のように、
だが、もしかしたらサリーが答えてくれるかもと
淡い期待をしつつ話しかけ、足取り重くベッドへ向かう。
「普通さ、もっとこう……スライムとか薬草集めとか、
お前の悩み聞くとか、女の子必需品がわからないとか、
そいう……なぜか思ってたのと全部違うんだよ……」
眠ったままの少女は、いつものサリーだ。
銀髪の美少女はもうない。
「絶対起きるって言ったからな」
サリーをベッドに寝かせ、布団をかける。
そして、グレン自身がもう限界だった。
徹夜に近い状態からの、ギルドとダンジョンでの騒動。
あり得ない敵との遭遇での魔力の消費。
あの状況からの脱出。
「もう無理……俺も寝る。目覚めたら夢かもな」
そう言って、リビング側にあるソファへ倒れ混み、
あっという間に、グレンは眠りについた。
◇
翌日、目を覚ましたグレンが、最初に確認したのは、
「寝てるか……」
サリーは寝続けている。
次に通信タブレットを開くと
昨日のダンジョン異常がメインで情報が流れており、
街は大騒ぎに状態。
「まぁ……そうなるよな」
ギルドから何件も通知やら着信が入ってるが、
グレンは肩をすくめ、
「今はそれどころじゃねぇ。
とりあえず風呂と飯だな。
サリーちょっと風呂入ってくるわ」
返事がないとはわかっても声を出しグレンは、風呂場へと移動した。
「ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”さっぱりするーーー
なんでサリーはこの気持ち良さを知らないんだ!
起きたら絶対に風呂入れてやる!」
まだまだ、現実逃避中のグレンであった。
◇
二日目
グレンはいつも通りとはいかなかったが、
最低限の生活を取り戻しつつ、
風呂に入り、食事を取り、都度確認をする。
「……まだか」
ベッドを見るが、サリーは寝たままだった。
◇
三日目
通信機をミュートにしているのに、
ピピピッ。
『グレン様、至急ギルドまで――』
グレンは画面を見るが消す。
ピピピッ。
『今回のダンジョン異常について確認したいことが――』
消す。
ピピピッ。
『グレン様――』
消す。
「はぁぁぁ、俺だって知らないんだよ。
しかも今はそれどころじゃない」
ベッドを見るが、
「お前、いつ起きるんだよ。
答え合わせしようにも……何にもできねーよ!
たく、どうしろと?
先日登録したての女の子が、ダンジョン壊しましたって言って
誰が信じるんだよぉおおお!」
ピピピッ。
『グレン様――』
消す。
「 ミュートの意味!ズルくね?強制通知ってよ!
それだけ、ギルドも切羽詰まってるのはわかるけどよぉ。
あぁ、腹減った、ご飯食べるか」
冷蔵庫を開けると、1本のミルクが目に入り、
「あっ、消費期限今日までじゃねぇか、……やばい」
頭の中に浮かぶ、サリーの寝起き後の第一声。
『ミルク~!』
「アイツ絶対騒ぐよな〜
はぁぁ、それとそろそろ情報も仕入れねぇと、流石に不味いしな」
三日間、外に出ていないため、街がどうなっているのか。
ダンジョンで何が起きたことになっているのか。
通信タブレットよりも生の感覚で、確認する必要がある。
「よし!出かけるか」
グレンは出かける準備を始める。
最初の一枚を書いた時点では普通だったが、
「起きたら家にいろ!」
「ミルクを買ってくる!」
「必ず家にいろ!1歩も出るな!」
「風呂は入ってろ。ミルク買ってくる」
気付けば壁中メモだらけになり、
貼り付けた感じは、さながら護符か呪符……
グレンは、外へ出た。




