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魔髄は飲み物です!


「こ、れ、は、飲み物じゃねぇ!

魔力の塊だ!普通の奴が取り込めば死ぬんだぞ!」


「……」


「いい加減にしろ!」

「グレン」

「なんだ」

「困らないで、悲しくなるから」


グレンは、少女の言葉の意味を考えてしまい、一瞬だけ固まってしまうが、その隙を敵が見逃すはずもなく、



ゴォォォォ!!


空間が歪み、圧倒的な質量を伴った闇の腕が、頭上から叩き落とされる。


「っ!」


グレンはサリーの前へ出て、そのまま闇の腕を切りつけるが、やはり手応え無し。弾くだけ。


闇の腕は間合いを取ると、今度は上下横と複数の腕でグレンとサリーに襲いかかる。

横へ跳び攻撃を避ける中で、グレンは、わざと脇腹に小さく闇の腕の攻撃を受けた。

試しで受けた攻撃は、重く十分な殴打力があった。


「なんの冗談だよ!こっちの攻撃は当たらないで、そっちは当たるって……」

「グレン、私知ってる!そういうのクソゲーって言うの!」

「お前は……はぁ……サリー絶対に俺の後ろにいろよ!

得意じゃーねぇが、やるしかねぇか!」


グレンは、剣を構え、唱える。


障壁防御術《狂華火月》


橙色と薄い桜色の光が反射し、闇の腕は弾き返され攻撃をやめ静寂になった。

(クソ!どうする?!どのみちこのままじゃ、じり貧だ)


サリーは、その場を動かなかったが


「ねぇーグレン」

「なんだ!」

「それ、頂戴」

「まだ言うのか!」


身体ごと振り返ると、まっすぐに自分を見つめる瞳とぶつかる。

その瞳に迷いはなく、言葉と共に、


「絶対に」


一歩


近づく


「グレンを悲しませないから」


「いや、待て……」

(なんだ!この圧は……膝をつきたくなるだと?!この俺が?!)


「私は、ご主人様を悲しませる駄犬じゃないよ!!」


「……はい?……駄犬?」


フッと圧が無くなり軽くなった。


「えっ?あっ?……あーもう!なんなんだよ!」


思考を放棄したい!

目の前には幻の帰路喰らいで、逃げ場なし。

そして何よりダンジョンに入ってから、

昨日出会ったばかりの少女が、自分の理解を、更に超えてきている。

魔髄を欲しがる少女、売るためでもなく、

単純に飲みたがってる。

これが演技で、報酬を独り占めしたいと言っても、

出られない部屋で俺から魔髄を盗んでも意味がないのにと……

うん、俺って今、現実逃避してるんだな……

今まで絶体絶命のピンチなんて、1つや2つ初めてじゃないのに、そいうピンチとかじゃなく、

この子と出会ってから俺の中の常識が仕事しない。


それでも


「だめだ……これを渡したら俺はどうやって立ち直る?これを飲んで、お前に何かあったら……」

(やめろ、お前に何かとか口に出してる時点でおかしいだろ!!!)


「大丈夫だよ!グレン!」


もう分からなかった。

何が正しいのか。

何が間違っているのか。

ただ、渡さないと終わる……

こんな小さな女の子に何を託そうとしているんだ!


「本当にいいんだな?」

「うん!」

グレンは少しだけ魔髄をサリーに渡そうと動かしたが、

「いいや!!よくねーよ!!

あぶねぇぇぇえ!なんか変な空気になったけど渡しません。だめです。危険物は渡しません!」


(なぜぇぇぇえ?!えっ?顔面偏差値Bで主人公じゃないから?主人公なら絶対『わかった。信じる』とか言って絶対渡すシーンなのにぃぃぃ!

くっそ〜こんな所で弊害が!顔面偏差値Sの王子見習え!アイツなんて出会った瞬間に怪我人を任せて来たんだぞ!しかも犬の私に!)


(あぶねーこいつの変な圧に一瞬迷ったが、しっかりしろ!俺!子供に何をさせようとしてる!)


その時、


「グレン!!!結界が崩れる!」


「ちっ!《狂華火月》」

すぐさま振り向き、貼り直すが、貪婪の焔と結界2発は地味に痛い。

魔力残量がやばい、俺は物理特化なんだよぉぉ回復ポーションは1本か……などと考えていたら、


「グレン」

(もう、こうなったら強硬手段!)


その声が後ろではなく、前から聞こ――

目の前にはサリーがいた。


「ばか!俺の後ろにいろ!結界の外に出るな!」

(えっ、速い!いくら機敏スキル持ちとはいえ)


「飲ませて、絶対に絶対に悲しませないから」


結界の外にいるサリーをダンジョンが見逃すはずもなく

サリーに闇の手が襲い掛かる。

サリーを強引に自分の後ろに隠すが、

先程のサリーの迫力に気圧されたのと、サリーを後ろに隠す方に気を取られ、魔髄を持つ手が緩んだ瞬間、

サリーは(ゲッチュ!グレン心配してくれてありがとう)魔髄をそっとグレンの手から抜くと同時に、


パキーーーーーン


魔髄は、アンプルを割るような音を立てて簡単に割れた。



「……ほへ?」


グレンが固まる。

あれ?魔髄の蓋って……あれ?

そんな簡単に割れるものじゃないですよ?

少なくとも、少女の力で割れる物では……ないはずだよな?硬かったよな?


サリーは一気に飲む。


ゴクッ。


ゴクッ。


ゴクッ。



「プハァ」満足そうに飲みきった。


数秒……

数十秒、何も起きない。


グレンは恐る恐るサリーに声をかける


「サリー、大丈夫か?ペっしていいんだぞ?」


サリーは自分の手を見る。

腕を見る。

身体を見る。


「あれ?グレン、あの子、弱かったの?」

「……はい?」

「レベルアップ、どこ?」


サリーは自分の身体をきょろきょろ見回す。

グレンは言葉を失った。


「いや……待て、弱いとかの問題じゃない」

「うそだぁぁぁぁ!!マジか!? ありえない!」


サリーは、手に持っていた(飲み干したはずの)魔髄をもう一度見る。


「魔髄だよね?!?グレンこれ!」

「……お、おう、多分……」

「これ、偽物!」

ポイッ、サリーは魔髄を投げ捨てた。

「……」

グレンは落ちていく魔髄をスローモーションで見ながら、心の中で

本物だ。たぶん。いや、絶対に本物だ。

徘徊種のあり得ない魔髄だけど、

ほ・ん・も・の

「おい、サリー」

「なに?」

「お前、何を基準に偽物って判断した?」

「レベルアップしなかったもん、だから偽物」

「……」


魔髄を飲んで、レベルアップしないと偽物なのか?

いや、特殊個体からの魔髄……レベルアップじゃない……いや?でも魔髄って必ずレベルアップするよな?

なら、偽物なのか?ん?混乱中のグレンを横目に、サリーが手を上げる。


「第一封印解除――《穿天》」


空気がピキリと凍りついた。

次の瞬間、空間に文字が浮かび上がる。


《ERROR》


《魔力不足》


《第一封印は現在使用できません》


「ふぅざぁけんなぁぁぁぁ」

「!?」

「クソ雑魚ぶつけてきて、時給以下!労基案件だぞぉぉおお」

「えっ?サリーさん、お前、頭がおかしくなったのか……?

やっぱり、今の変な魔髄なんか飲んだからか?」


心配するグレンをよそに、サリーは何かを考え込んでいるようで、答えなかった。


そして―――


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